遊女おいらん)” の例文
怨死うらみじにじゃの。こう髪をくわえての、すごいような美しい遊女おいらんじゃとの、こわいほど品のいのが、それが、お前こう。」と口をゆがめる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不図ふと自分の部屋の障子がスーといて、廊下から遊女おいらんが一人入って来た、見ると自分の敵娼あいかたでもなく、またこのうちの者でも、ついぞ見た事のない女なのだ。
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
賭博場ばくちばころげ歩き、芸妓屋の情夫にいさんになったり、鳥料理とりやの板前になったり、俥宿の帳附けになったり、かしらの家に厄介になったり、遊女おいらんを女房にしたりしているうちに
遊女おいらんは気がせいたか、少しねらいがはずれた処へ、その胸に伏せて、うつむいていなすった、鏡で、かちりとその、剃刀の刃が留まったとの。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「島田もいこと、それなりで角かくしをさしたいようだわ……ああ、でも扱帯しごきを前帯じゃどう。遊女おいらんのようではなくって、」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東雲しののめの朝帰りに、思わず聞いた、「こんな身体からだで、墓詣りをしてもいいだろうか。」遊女おいらんが、「仏様でしたら差支えござんすまい。御両親。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると髪がざらざらと崩れたというもんだ、姿見に映った顔だぜ、その顔がまた遊女おいらんそのままだから、キャッといったい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それときまっては、内所ないしょの飼猫でも、遊女おいらんの秘蔵でも、遣手やりて懐児ふところごでも、町内の三毛、ぶちでも、何のと引手茶屋の娘のいきおい
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
耽溺たんでき、痴乱、迷妄めいもうの余り、夢ともうつつともなく、「おれの葬礼とむらいはいつ出る。」と云って、無理心中かと、遊女おいらんを驚かし、二階中を騒がせた男がある。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、高尾たかを薄雲うすぐも芳野よしのなど絶世ぜつせい美人びじん身代金みのしろきんすなは人參にんじん一兩いちりやうあたひは、名高なだか遊女おいらん一人いちにん相當さうたうするのであるから、けだ容易よういなわけのものではない。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おんな遊女おいらんだ、というじゃないか。……(おん箸入はしいれ。)とかくようだ。中味は象牙ぞうげじゃあるまい。馬の骨だろう。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉野、高橋、清川、槙葉まきは。寝物語や、美濃みの近江おうみ。ここにあわれをとどめたのは屋号にされた遊女おいらん達。……ちょっと柳が一本ひともとあれば滅びた白昼のくるわひとしい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、驚くまい事か、糸もばちほうり出して、すがりついて介抱をしたんだけれども、歯を切緊くいしばってしまったから、遊女おいらん空癪そらしゃくを扱うようなわけにはかない。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは卓子台ちゃぶだいせるとかった。でなくば、もう少しなかいてすわれば仔細しさいなかった。もとから芸妓げいしゃだと離れたろう。さき遊女おいらんは、身を寄せるのにれた。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(一所に登楼あがるぜ。)と手を引いて飛込んで、今夜は情女いろおんなと遊ぶんだから、お前は次ので待ってるんだ、と名代みょうだいへ追いやって、遊女おいらんと寝たと云う豪傑さね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳利とつくりけた遊女おいらん容子ようすだが、まどへ、べにいたら、おそらく露西亜ろしや辻占つぢうらであらう。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
対手あいてがソレ者と心安だてに頤杖あごづえついて見上げる顔を、あたかもそれ、わか遊女おいらん初会惚しょかいぼれを洞察するという目色めつきせた頬をふッくりと、すごいが優しらしい笑を含んでじっなが
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
言うまでもなく商売人くろうとだけれど、芸妓げいしゃだか、遊女おいらんだか——それは今において分らない——何しろ、宗吉には三ツ四ツ、もっとかと思う年紀上の綺麗な姉さん、婀娜あだなお千さんだったのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可哀あわれに美しくすごい瞳に、自分のを直して着せた滝縞たきじまお召の寝々衣ねんねこを着た男と、……不断じめのまだ残る、袱紗帯ふくさおびを、あろう事か、めるはまだしも、しゃらけさして、四十歳しじゅう宿場の遊女おいらんどの
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新吉原のまざりみせ旭丸屋あさひまるや裏階子うらばしごで、幇間たいこもち次郎庵じろあんが三つならんだ真中まんなかかわやで肝を消し、表大広間へ遁上にげのぼる、その階子の中段で、やせた遊女おいらんが崩れた島田で、うつむけにさめざめ泣いているのを
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)