近郷きんごう)” の例文
一生の思出に、一度は近郷きんごう近在きんざいの衆を呼んで、ピン/\した鯛の刺身煮附に、ゆきような米のめしで腹が割ける程馳走をして見たいものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
時間のゆるすかぎり、糟谷かすや近郷きんごうの人の依頼いらいおうじて家蓄かちく疾病しっぺいを見てやっていた。職務しょくむ忠実ちゅうじつな考えからばかりではないのだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
近郷きんごうの者すら何もしらないまに、六波羅の兵が三、四百人も桟敷さじきたけや雲ヶ畑から入りこんで、僧正ヶ谷をつつんだのである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平生へいぜい朋友等無之候えども、大徳寺清宕和尚せいとうおしょうは年来入懇じっこんに致しおり候えば、この遺書国許くにもと御遣おんつかわし下されそろ前に、御見せ下されたく、近郷きんごう方々かたがたへ頼入り候。
近郷きんごう近在より多数の見物人集まり来り、そのにぎやかさ十六日の送盆に次ぐとある(横手郷土史)。すなわちこの土地では盆の後先に、両度の燈籠送りをしているのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いちが立つ日であった。近在近郷きんごうの百姓は四方からゴーデルヴィルの町へと集まって来た。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
たちま近郷きんごうにまで伝えられ、入学の者日に増して、間もなく一家は尊敬の焼点しょうてんとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
大名高家の奥向きから近郷きんごう近在のものまで語り伝えてわざわざ馬喰町まで買いに来た。
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それでもなお近郷きんごうでは屈指の分限者ぶげんじゃに相違ないと云う事、初子の父の栗原は彼の母の異腹はらちがいの弟で、政治家として今日の位置にこぎつけるまでには、一方ひとかたならず野村の父の世話になっていると云う事
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
種畜場しゅちくじょう近郷きんごうの農家から、牛がすこしわるいからきてくれの、碁会ごかいをやるからきてくれのとしきりにいうてきたけれど、いっさい村落そんらくへでなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
近郷きんごう近在の爺さん婆さん若い者女子供が、股引ももひき草鞋わらじで大風呂敷を持ったり、荷車をいたり、目籠めかごを背負ったりして、早い者は夜半から出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そうした上は、武士の面目も立つ、近郷きんごうへの評判もようなる、まず、吉野郷よしのごうをとる家統いえすじほかにはあるまいてな
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門前にて馬車やとひて走らするに、ほどなく停車場に来ぬ。けふは日曜なれど、天気しければにや、近郷きんごうよりかへる人も多からで、ここはいとしずかなり。新聞の号外売る婦人あり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それから間もなく、環が、養子先の長岡家から、飛出してしまったという噂が、大石村から、近郷きんごうに伝わった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地形の波面なみづら木立こだち田舎家いなかやなどをたくみたてに取りて、四方よもより攻寄せめよするさま、めづらしき壮観みものなりければ、近郷きんごうの民ここにかしこにむれをなし、中にまじりたる少女おとめらが黒天鵝絨ビロード胸当ミーデル晴れがましう
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人望じんぼうのあった糟谷の話であるから、近郷きんごうの農民はきそうて家畜かちくうた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
毎日が賽日さいじつのように、泉岳寺の門前はあれ以来雑閙ざっとうした。武家町人ばかりでなく、近郷きんごうの百姓だの、東海道から入って来る旅客までが、駕や馬をそこに止める。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちはこの近郷きんごうの者らしいが、何処からか、この渓谷へ降りて行く道はないだろうか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふもとのすこし手まえにある御岳みたけ宿しゅく町中まちなかも、あしたから三日にわたる山上さんじょう盛観せいかんをみようとする諸国しょこく近郷きんごうの人々が、おびただしくりこんできていて、どこの旅籠はたごも人であふれ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なるほど、なかにお諏訪すわさまの灸のあとがあれば、なんとか、いまに見つかるでしょう、あの灸点きゅうてん甲府こうふ近郷きんごうでやっているほか、あまりほかの国にはあんな大きなきゅうは見ないからの」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近郷きんごうへ避難してゆく、病人や年よりや女子どもの、続いて行ったのは、もう三日も前の京都で、今は、そんな光景すらなく、刻々と、気味わるい静寂しじまのうちに、ここの死相は迫りかけていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折れる折れるといわれる刀は、おおかた、近郷きんごうの名も無い雑鍛冶のこしらものに違いない。左様ないかさまものと混同されては心外である。ろくを頂戴しておる藩公に対しても、闡明せんめいにする義務がある。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この天嶮てんけんをかく短時間に落城させた原因の一つだが、もっと大きな理由はもともとこの犬山はそれ以前に、池田勝入が城主となっていたことがあり、町の人々や近郷きんごうおさ、百姓にいたるまでが、今も
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)