つくば)” の例文
兄も暇の時には、引入れた臥牛ねうしのような石に腰を掛けたり、位置を考えて据えつけたつくばいの水をかえたりなどなさるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
暇があるからだと云って、長次郎が松葉を敷いてくれたつくばいのあたりを見れば、敷松葉のさかいにしてある、太い縄の上に霜がまだらに降っている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……雨つづきの街はうらさびれていた、家々は鼠色の空の下に濡れしょぼれてつくばい、どの軒下も黄昏たそがれのように暗かった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひく藁屋わらや二三軒にさんげん煙出けむだしのくちかず、もなしに、やみから潜出もぐりだしたけもののやうにつくばつて、しんまへとほつたとき
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう言つて目賀田は蝙蝠傘かうもりがさを多吉に渡し、痛い物でも踏むやうな腰付をして、二三間離れた橋の袂の藪陰につくばつた。禿げた頭だけがうつすりと見えた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つくばって小柄をぬきとって、草の上へほうりだすと、頭をかかえて、むさんに川下のほうへ逃げだした。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僕は香を上げ花を上げ水を注いでから、前につくばって心のゆくまで拝んだ。しんに情ない訣だ。寿命で死ぬは致方ないにしても、長くわずらって居る間に、あア見舞ってやりたかった、一目逢いたかった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「扉は閉めて、皆、奥につくばんでいるんでやす。」
防備隊 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
無事に帰るのを、私も丈夫で待受けたと思った今朝、庭のつくばいの傍に水仙が一つ咲いていたのが目に附いたので
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
別におかんを見ようともせず、上口あがりぐち先刻さっきから立っていたままで、二階を下りようとする、途端にちゃぶ台の片隅につくばって、洋燈ランプの影で見えなかったトンは
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一番い部屋は四畳半で、飛石の曲り角につくばいの手水鉢ちょうずばちが据えてある。茶道口ちゃどうぐちのような西側の戸の外は、鏡のように拭き入れた廊下で、六畳の間に続けてある。それに勝手が附いている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「へい、おちなさいまし、石磈いしころきしみますで。」とつくばつて、ぐい、とかぢおさへる。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
便所からの帰りに、ふと湯にろうかと思って、共同浴室をのぞいて見ると、たれか一人這入っている。蒸気が立ち籠めて、好くは見えないが、湯壺の側につくばっている人の姿が女らしかった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たとへばまぼろしをんな姿すがたあこがるゝのは、おひり、極楽ごくらくのぞむとおなじとる。けれども姿すがたやうには、……ぬま出掛でかけて、手場でばつくばつて、ある刻限こくげんまでたねばならぬ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
敷居際につくばった捨吉が、肩のあたりに千草色の古股引ふるももひきあかじみた尻切半纏しりきりばんてん、よれよれの三尺、胞衣えなかとあやしまれる帽をかぶって、手拭てぬぐいを首に巻き、引出し附のがたがた箱と、海鼠形なまこなり小盥こだらい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山のほこらで、怪しくすごい神たちが、神つどいにつどわせたという場所へ、破戒坊主が、はいつくばったという体で、可恐おそろし可恐し、地蔵様の前にしゃがんで、こう、伏拝むなりをして、そっと視たんで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呑まれた小宮山は、怪しい女の胃袋の中で消化こなれたように、つくばってそれへ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かはづこゑがます/\たかくなる、てもつてもられなくツて、そつとうごした、身躰からだうにかなつてるやうで、すつとれないでつくばつた、すそあしにくるまつて、おびすこゆるむで、むねがあいて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つくばって雨上りに出たひきがえるという身で居る。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)