足袋跣足たびはだし)” の例文
日光のかわき……楽しい朝露……思わず嬉しさのあまりに、白い足袋跣足たびはだしで草の中を飛び廻った。三吉がくれた巻煙草まきたばこも一息に吸い尽した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酔ったのも酔わないのも、一団になって飛出した様子、綾麿は観音様を抱いたまま、足袋跣足たびはだしになって、隅田川の方へ飛んで居りました。
ひとりごとのようにうめきつつ、静かに雪駄せったをぬいで、足袋跣足たびはだしになった大之進は、トントンと二、三度足踏みをして、歩固めをしながら
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先方さき足袋跣足たびはだしで、或家あるいへて、——ちつとほいが、これからところに、もりのあるなかかくれてつたきり一人ひとり身動みうごきも出來できないでるんです。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五十本の吹き針を右の手に握って左の手ではつまを引き上げ、はきものもはかない足袋跣足たびはだしで、こう駒雄へ声を掛けた時には、鈴江は門外へ走り出していた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
息子むすこは夜きっと遅く帰る。玄関で靴を脱いで足袋跣足たびはだしになって、おやじに知れないように廊下を通って、自分の部屋へ這入って寝てしまう。母はよほど前にくなった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女かれすそを高くかかげて、足袋跣足たびはだしで歩いた。何を云うにも暗黒くらがり足下あしもとも判らぬ。つるぎなす岩に踏み懸けては滑りち、攀上よじのぼってはまろび落ちて、手をきずつけ、はぎを痛めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
早口にそういって自分は足袋跣足たびはだしで片足つま先立って下駄を出している。実枝も立ち上っていっしょに慌て、ほれ、ほれ、と台所のあがかまちに置いてあった弁当包みを渡した。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
着物の前ははだけ、裾からは真黒な足袋跣足たびはだし。通りがかりの少年が、「やあ、女のお化け」といったのをムキになって怒り、「この野郎」と絶叫しながら追いかけていった。
野狐 (新字新仮名) / 田中英光(著)
自分のところの店番の若者と小僧の足袋跣足たびはだしの足が手持無沙汰に同じ処を右往左往する。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
虎松は雪駄せったを帯の間に挿むと、足袋跣足たびはだしのまま、下町の方へドンドン駈け下りていった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あのひと足先あしさきへお風呂ふろつたすきて、足袋跣足たびはだし飛出とびだしたんださうでございますの。それで駈出かけだして、くるまでステーションまでて、わたくしのところへげこんでまゐりました。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
足袋跣足たびはだしで、頭からづぶ濡れになつて、顔から雫を垂らしながらはん台をひろげるのを、おくみは水口の敷板の上に下りて、戸口にかゝるしぶきをよけながら、見つくろひをしてお皿を出した。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
貞之助はさっきもそう云う泥沼にまり込んで片一方のくつを取られてしまっていたので、残る一方の靴も脱ぎ捨て、靴下だけの足袋跣足たびはだしになって行ったが、いつもなら一二分のところを行くのに
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分は足袋跣足たびはだしで、庭へ飛び下りていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
取乱してはおりますが、十八九の美しい娘が、足袋跣足たびはだしのままで、入谷から神田まで駆けつけたということは、容易のことではありません。
足袋跣足たびはだしたとふ、今夜こんやは、もしや、あの友染いうぜんに……あの裾模樣すそもやう、とおもふけれども、不斷ふだん見馴みなれてみついた、黒繻子くろじゆすに、小辨慶こべんけい
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
細い縞の袷を着、紺の帯を腰で結び、股引きを穿いた足袋跣足たびはだし、小造りの体に鋭敏の顔付き。——商人あきんどにやつした目明しという仁態。それがカラカラと笑っている。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
提灯に蝋燭の火が映る頃から、二人とも足袋跣足たびはだしにまで成つて、萬燈まんどうを振つて騷ぎ𢌞りました。
入口に真新しい雪駄せったがあったが、裏金を剥がして、表には泥足の跡が付いていた。足袋跣足たびはだしになって履いた証拠だ、女や中気病みの仕業じゃねえ。
またも鈴江は褄を取り、足袋跣足たびはだしの足で裾を蹴り、吹き針を握った右の手を、乳のあたりへしっかりと当てて、頸足をのばして前こごみにこごんで往来を一散に走り出した。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
火事の最中、雑所先生、はかま股立ももだちを、高く取ったは効々かいがいしいが、羽織も着ず……布子の片袖引断ひっちぎれたなりで、足袋跣足たびはだしで、据眼すえまなこおもてあいのごとく、火と烟の走る大道を、蹌踉ひょろひょろ歩行あるいていた。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、もう一人の世話人、足袋跣足たびはだしのまま飛降りると、平次の袖へゾロリと、一と包の小判を握らせます。
秋草を銀で刺繍ぬいとりして、ちらちらと黄金きんの露を置いた、薄いお太鼓をがっくりとゆるくして、うすものの裾を敷いて、乱次しどけなさったら無い風で、美しい足袋跣足たびはだしで、そのままスッと、あの別荘の縁を下りて
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若主人、又次郎は、足袋跣足たびはだしのまゝで、店口から飛出し、庭木戸を開けて、奧へ案内してくれます。
若主人、又次郎は、足袋跣足たびはだしのままで、店口から飛出し、庭木戸を開けて、奥へ案内してくれます。
唐桟とうざん素袷すあわせ足袋跣足たびはだしのまま、雪駄せったを片っぽだけそこに放り出して、少し天眼てんがんに歯を喰いしばった死顔の不気味さ、男がいだけに凄味がきいて、赤い扱帯に、蒼い顔の反映も
十七年前にむしり取られた、たつた一人の娘戀しさに、三味線堀に獨り住居して居る、大ヒステリーの四十女は、もう十手も捕繩も眼中になく、大泣きに泣き濡れて足袋跣足たびはだしのまゝ
と兵庫、縁側から庭へ、足袋跣足たびはだしで飛降ります。