ためし)” の例文
ブル/\ふるえて居る新吉に構わず、細引ほそびきを取ってむこうの柱へ結び付け、惣右衞門の側へ来て寝息をうかがって、起るか起きぬかためしに小声で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その代り、この窮屈な主義だとか、主張だとか、人生観だとかいうものを積極的に打ち壊して懸ったためしもない。実に平凡で好い。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ためしに太祇のこの種の句を模して見るがよい。それはついに卑俗な句になってしまって、容易にこの太祇のような気のいた句は出来ぬであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
けれども、折角さう思召おぼしめすものなら、物はためしで御座いますから、間さん、貴方、赤樫にお話し遊ばして御覧なさいましな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
多少作り事の嫌いがあると疑うものがあれば、それは短見であろう。ためしにその珠玉の一つを取って透して見れば、人はその多彩に驚かされるにちがいない。
... ためしてくれ給え、それは僕の家の独得の料理だよ」中川「今一つ二つ試みて感心したのだ。よくこんなに柔く煮えるね、味も大層結構だが奥さんこれはどうします」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ふむまた売卜乾坤堂うらないけんこうどう、天門堂とすれば可い、一番ひとつみてもらいたいくらいだ、むこうは仕立屋、何、仕立物いたしますか、これは耳寄、仕立屋に(ぬい)が居ようも知れねえ。ためしだ、ちょいと聞いてみよう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は御承知の通りよほど神経のにぶくできた性質たちです。御蔭おかげ今日こんにちまで余り人と争った事もなく、また人を怒らしたためしも知らずに過ぎました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
門口かどぐちなどで行き逢うと、丁寧ていねいに時候の挨拶あいさつをして、ちと御話にいらっしゃいと云うが、ついぞ行った事もなければ、向うからも来たためしがない。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其代り、此窮窟な主義だとか、主張だとか、人生観だとかいふものを積極的せききよくてきこはしてかゝつたためしもない。実に平凡でい。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
出勤刻限しゆつきんこくげん電車でんしや道伴みちづれほど殺風景さつぷうけいなものはない。かはにぶらがるにしても、天鵞絨びろうどこしけるにしても、人間的にんげんてきやさしい心持こゝろもちおこつたためしいまかつてない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのくせいまだ大した所へ連れて行ってくれたためしがない。「今度こんだいっしょに連れてってやろうか」もおおかたそのかくだろうと思ってただうんと答えておいた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
出勤刻限の電車の道伴みちづれほど殺風景なものはない。かわにぶら下がるにしても、天鵞絨びろうどに腰を掛けるにしても、人間的なやさしい心持の起ったためしはいまだかつてない。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こういう順序で中学から高等学校、高等学校から大学と順々に私は教えて来た経験をもっていますが、ただ小学校と女学校だけはまだ足を入れたためしがございません。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
永年えいねん彼と交際をしたどの月にも、どの日にも、余はいまだかつて彼の拙を笑い得るの機会をとらためしがない。また彼の拙にれ込んだ瞬間の場合さえもたなかった。
子規の画 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし停車場で何の係りをして、どんな事務を取扱っているのか、ついぞ当人に聞いた事もなければ、また向うから話したためしもないので、敬太郎には一切がエックスである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ありがとう」と頭を下げるだけで、ついぞ出掛けたためしはなかった。さすがの宗助さえ一度は
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ御米およねとはなか夫婦ふうふちがひなかつた。一所いつしよになつてから今日こんにちまでねんほどなが月日つきひをまだ半日はんにち氣不味きまづくらしたことはなかつた。言逆いさかひかほあからめつたためしなほなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誰の命令も文字通りに拝承した事のない代りには、誰の意見にもむきに抵抗したためしがなかった。解釈のしようでは、策士の態度とも取れ、優柔の生れ付とも思われる遣口やりくちであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
催促さいそくすると、まだ先方せんぱうからもどつてまゐりませんからとかなんとか言譯いひわけをするだけかつらちいたためしがなかつたが、とう/\れなくなつたとえて、何處どこかへ姿すがたかくして仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
子規は人間として、又文學者として、最も「せつ」の缺乏した男であつた。永年ながねん彼と交際をしたの月にも、の日にも、余は未だ曾て彼のせつを笑ひ得るの機會をとらたたためしがない。
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼は今日こんにちまで何一つ自分の力で、先へ突き抜けたという自覚をっていなかった。勉強だろうが、運動だろうが、その他何事に限らず本気にやりかけて、つらぬきおおせたためしがなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現にペリカンが如何に出渋っても、余はいまだかつて彼を洗濯したためしがなかった。
余と万年筆 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓際まどぎわを枕に寝ていたので、空は蚊帳越にも見えた。ためしに赤いすそから、頭だけ出してながめると星がきらきらと光った。自分はこんな事をする間にも、下にいる岡田夫婦の今昔こんじゃくは忘れなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう名のつく感情に強く心を奪われたためしがなかったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)