)” の例文
谷のふちの向方には地下の墓所から蒸発しているのか、もやもや立ち昇る煙霧の中へ青ざめたけた三日月が射し入っておりました。
墓場 (新字新仮名) / 西尾正(著)
けた月が空の中ほどにあって、色の浅くなった東の空の涯で、美しい淡い紅と青が、煙突の立ちならぶ地平から離れようとしていた。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ああ、ここにもまた、希望の一つがけ落ちてしまったのだ。それには、いっこうに他奇もない、次の数項がしたためられてあるのみだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかしみつればくるの比喩ひゆれず、先頃から君江の相貌そうぼうがすこし変ってきた。金青年に喰ってかかるような狂態きょうたいさえ、人目についてきた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ロベエルが心もち口をけると、糸切り歯の一本無いのが目につく。それは、二人とも小さかった時、わたしが、弓の矢でいたのである。
腹の立った事さえござんせん、あんまり果報な身体からだですから、みつればくるとか申します通り、こんな恐しい目に逢いましたので。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
始終のうきやつれたる宮は決してうつくしき色を減ぜざりしよ。彼がその美しさを変へざる限は夫の愛はくべきにあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この、消え失せたこけ猿の茶壺——耳が一つけているので、耳こけ猿、こけ猿という……この壺の秘密をめぐる葛藤かっとうが、本講談の中心でございます。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
月がけている時、それは本統に半分を失って了ったように見える。けれど、実は何者をも失ってはいないのだ。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
デュアック デヤドラは、むかしのあなたの飼犬のいるところに、おいでなされます……ルウマックが、沈みもせぬけもせぬ月に吠えておるところに。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
瞳を定めて、日の少しくくるを見んとつとむる人は、見んとてかへつて見る能はざるにいたる 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
とにかくそこに俳句というような花鳥風月を詠う詩を生み出すべき原因がけているように思われました。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その右には、判官はんがんが一体、これは、誰に悪戯いたずらをされたのだか、首がない。左には、小鬼が一体、緑面朱髪で、猙獰そうどうな顔をしているが、これも生憎あいにく、鼻がけている。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
功を一くということがある。親父は堅人に相違ないが、僕と違って、円転滑脱の才が利かない。場合によっては、市※さんと同じように妙な理窟を言いだす。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いえもいよ/\御繁昌ごはんじょうでございましたが、つればくる世のならい、奥様には不図ふとした事が元となり、ついに帰らぬ旅路におもむかれましたところ、此の奥様のおつきの人に
別当はぎょろっとした目で、横に主人を見て、麦箱の中に抛り込んである、ふちけた轆轤ろくろ細工の飯鉢めしばちを取って見せる。石田は黙って背中を向けて、縁側のほうへ引き返した。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
やさしい眼をぱちりぱちりとまたたいて、今度は阿賀妻が聞き手にまわっているのである。てのひらの中で、けた茶呑ちゃのみの陶器をいつくしむようにでまわし、微笑をもってうなずいていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
水星が月と同じようにけを示すこと、太陽に黒点のあることなどを見つけ出し、それらの事がらからコペルニクスの説の真であることをますます確信するようになりました。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
けてはいたが、十五夜を過ぎたばかりの月は柔和な光をふんだんにふりそそいでいた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
かるが故に、その詩、幽妙をき、人をして宛然さながら自から創作する如き享楽無からしむ。それ物象を明示するは詩興四分の三を没却するものなり。読詩の妙は漸々遅々たる推度の裡に存す。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
天道はみつるをきて謙にし、地道は盈るを変へて謙にながし、鬼神は盈るを害して謙にさいはひし、人道は盈るを悪みて謙を好む。謙は尊くして光り、いやしくしてゆべからず。君子の終りなり。
地山謙 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
又九じんの功名を、一いてしまったのである。落胆するのは当然である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まして梅が香を桜の花に移し、柳の枝に咲かせるというような三方に充分なるごときはとうてい望まれぬことである。昔から天道は満つるをき、足らざるを補うというのはこの意味であろう。
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
そこの石だたみだけつねにしぐれた感じだった。——ことにはそこに、その榎の下に、いつも秋早くから焼栗の定見世の出ることが、けそめた月の、夜長夜寒のおもいを一層ふかからしめた。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
けれども、もう少しと云うところで今度も細君は助かってしまったのです。夫の心になってみれば、九仞きゅうじんの功を一簣いっきいた、———とでも云うべきでしょう。そこで、夫は又工夫をらしました。
途上 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
硝子ガラスを用いるまでもなく三分ぐらいけた姿である。
日食記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
つるにか、くるにか。
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
をんなの徳をさへかでこの嬋娟あでやかに生れ得て、しかもこの富めるにへる、天のめぐみと世のさちとをあはけて、残るかた無き果報のかくもいみじき人もあるものか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……つきから、かつらがこぼれ/\、いしるやうなをのはひつて、もつとけ、もつとけると、やがて二十六夜にじふろくやつきらう、……二十日はつかばかりのつき
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「それもそうだが、はじめに黒の一石をわがゆうにしたそっちの石も、つまり見事な男ぶり……いやなに、石振りではないはずだぞ。けとる、ハッハッハ右がける」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこの石だたみだけつねにしぐれている感じだった。——ことにはそこに、その榎の下に、いつも秋早くから焼栗の定見世の出ることが、けそめた月の、夜長、夜寒のおもいを一層ふかからしめた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そを見ればいのちけず
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
これ等のすこしく失へる者は喜び、彼等の多く失へるはいは憂ひ、又まれには全く失はざりし人の楽めるも、皆内には齷齪あくそくとして、てるはけじ、虧けるは盈たんと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
九仭きゅうじんの功を一簣いっきく。なあ、そのままずらかりゃ怪我あねえのに、凝っては思案に何とやら、与惣公と化込ばけこんで一、二日日和見ひよりみすべえとしゃれたのが破滅の因、のう勘、匹夫ひっぷ浅智慧あさぢえ、はっはっは。