落籍ひか)” の例文
私はある男に落籍ひかされて妾になり酒場のマダムになつたが、私は淫蕩で、殆どあらゆる常連と関係した。野村もその中の一人であつた。
続戦争と一人の女 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
程なく兄は或る藝妓を落籍ひかして夫婦になつた。智惠子は其賤き女を姉と呼ばねばならなかつた。遂に兄の意に逆つて洗禮を受けた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
落魄らくはくして、最後に一旗という資本がないので、心まで淋しくなり、蝶吉の母に迫って、その落籍ひかしただけの金員耳を揃えて返せという。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
う言やマア、さうですがね、しかしくまア、軍人などで芸妓げいしや落籍ひかせるの、妾にするのツて、お金があつたもンですねエ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私の愛する藝者は或夜私に向つて、思はぬ人に落籍ひかされねばならぬ。私と一緒に逃亡して呉れるか、死んでくれるかと迫つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「ええ、落籍ひかされることにきまったんです、それでこんどこそもう、おめにかかれなくなるから、今日むりに此処へ伴れて来て頂いたんです」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしは、いくら相手が雛妓でも、まさか「そんなこともありません。よい相手を掴まえて落籍ひかして貰えば立派なお嫁さんにもなれます」
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小秀としては、もしや、新見が自分を落籍ひかしてくれるなら万更いやでも無い気で居ることは今迄度々謎をかけることによつて知れるのである。
女が今の男に落籍ひかされてから、彼はすこしばかりの資本もとでをもらって、夤縁つてのあったこのS——町へ来て、植木に身を入れることになったのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
姉の話によるとおきえさんは生粋の新潟美人で、何んでも古街で左褄をとっていた頃父に落籍ひかされたとのことであった。
(新字新仮名) / 矢田津世子(著)
金八は蝶子の駈落ち後間もなく落籍ひかされて、鉱山師の妾となったが、ついこの間本妻が死んで、後釜に据えられ、いまは鉱山の売り買いに口出しして
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
また、それが稀代の気丈女きじょうもの落籍ひかされてから貯めた金で、その後潰れた玉屋の株を買い取ったのであるから、云わば尾彦楼にとっては初代とも云う訳……。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一時は全盛をうたわれましたが、縁あって大川屋孫三郎に落籍ひかされ、今は何不自由なく暮しているものの、どういうものか身体が楽になるとかえって気が弱って
その旅館というのは、倉地が色ざたでなくひいきにしていた芸者がある財産家に落籍ひかされて開いた店だというので、倉地からあらかじめかけ合っておいたのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それでいて私は、お宮を落籍ひかすなら受け出してすっかり自身のものとしてしまうことも出来なかった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それが芸者に熱中し、やがて各方面不義理だらけにして落籍ひかせて一緒になると共に勤め先はクビという、そうしたことの定石じょうせきを踏んで、二人で東京へ出て来たのだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それも、西村さんは最初、舟木のことなど知らずにそのおちょうさんというのを落籍ひかしたんです。
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
ダイバーはまたダイバーで、気でもちがったような金の使いかたで、パラオへ引揚げた晩、はじめて逢った芸者を落籍ひかしてそのまま親元へ帰してやったなんて話まであるてえんだ
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼等は避難民バラックに居て、芸者を落籍ひかせて、茶の湯をやり、毎朝ヒゲを剃り、上酒を飲み、新しいにおいのするメクの股引を穿いて出かけるだけの生活の余裕を持っている。
下宿ではキキイの外の三人の女が何処どこかへ引越して仕舞しまつて、そのあとにはモニコの踊子を落籍ひかせて情婦いろをんなにして居る大学生のピエルと画家のコツトとが食卓へ就くことになつたが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
大阪のやうな土地柄では名妓の落籍ひかされる場合などには、以前の関係筋が寄つてたかつて葬式をするのも面白からう。坊さんには矯風会の林歌子女史など打つて附けの尼さんだらう。
女はこれととどめをさされて、家を外なる駄々落遊びを、おとなしきお秋は気にして、それ程御意に入りしものなれば、お落籍ひかせあそばした方がと、家の為夫の為に勧めし詞を渡りに舟と
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
今度いよいよ落籍ひかされることになったと書いてある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
梓は心の動くごとにつとめ落籍ひかそうと思わぬことはなかったが、かれが感情の上に、先天的一種の迷信を持ってるというはここのこと。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木曾乃は元は新橋の芸者で、落籍ひかされて多門の妾であったが、東洋と密通し、そのころから秘書をやめたが、時々訪ねてくるのだそうだ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
洲崎の女を落籍ひかすとか、落籍して囲ってあるとかいう風評うわさが、お庄らの耳へも伝わった。どっちにしても叔父が女に夢中になっていることだけは確かであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母のおりうは昔盛岡で名を賣つた藝妓であつたのを、父信之が學生時代に買馴染んで、其爲に退校にまでなり、家中反對するのもかずに無理に落籍ひかさしたのだとは
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
無理算段をして落籍ひかして囲ってはみたものゝ、その落籍した金高がいつも頭にあって、互いに差し向いで少ししんみりした話になりかけると、こうはしているものゝ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、妓は二月ばかり経つと疳つりの半という博奕打ちに落籍ひかされてしまった。豹一は、妓の白い胸にあるホクロ一つにまで愛惜を感じる想いで、初めて嫉妬を覚えた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「もう一つこはい話は、娘のお玉は、母親のお春が落籍ひかされて、此家へ入つた年に生れたので——來た月を入れてハツハツぐらゐなり——などと世間で言ひはやしたといふ話」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
花吉を篠田が落籍ひかせをつたと——フム、自由廃業、社会党のりさうなことぢや——彼女あれには我輩も多少の関係がある、不埒ふらちな奴、松島、篠田ちふ奴は我輩に取つても敵ぢや、可也よし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「世話をしようとか落籍ひかせようっていうお客さまが多くて、あんまりうるさいからそういうことにしてあるんです、旦那どころですか、あの人はまだ男の肌も知ってはいないんですよ」
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
非道ひどいのになると、新橋の芸者を落籍ひかして納まっている親分や、共同水栓で茶の湯を立てている後家さんも御座るといった調子で、これが大多数の熊公八公や諸国人種と入れまじって
水戸みととかでお座敷に出ていた人だそうですが、倉地さんに落籍ひかされてからもう七八年にもなりましょうか、それは穏当ないい奥さんで、とても商売をしていた人のようではありません。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ぐ近所にある有名なモニコと云ふ酒場キヤバレエの若い踊子を落籍ひかせて細君にして居る。僕は近頃この若夫婦と一緒に食卓に就くが、文学ずきなピエルはいろんな文学者の逸話などを聞かせてれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そっと自分の所有ものにしてしまうつもりであったので、今さら、女がいなくなったといって、そこの家へ訪ねて往き、自分のほかに、もっと深いふかい男があって、その男に落籍ひかされたのに、こちらが
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
妹の方は——来る時、そばを通りました、あの遊廓くるわ芸妓げいしゃをしていて、この土地で落籍ひかされて、可なりの商人あきんどの女房になったんでしたっけ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここから二停車場ふたていしゃばほど先にある、或大きなまちへ流れて来て、そこで商売をしていた兄の女が、その頃二三里の山奥にある或鉱山の方にかかっている男に落籍ひかされて
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
長患ひの末、母は翌年あくるとしになつて遂に死んだ。程なくして兄は或る芸妓げいしや落籍ひかして夫婦いつしよになつた。智恵子は其賤き女を姉と呼ばねばならなかつた。遂に兄の意にさからつて洗礼を受けた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
生來の美しさとかしこさで、一時は全盛をうたはれましたが、縁あつて大川屋孫三郎に落籍ひかされ、今は何不自由なく暮して居るものの、何ういふものか身體が樂になると反つて氣が弱つて
鬚男が話した通りの人相の男が、昨年の暮に落籍ひかした女の写真が手に入った。
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こんなことではいつになったら母親を迎えに行けるだろうかと、情けない想いをしながら相変らず通っていたが、妓は相手もあろうに「かんつりの半」という博奕打ばくちうちに落籍ひかされてしまった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
左様さやうですつてネ、雛妓はんぎよく落籍ひかして、月々五十円の仕送りする交際つきあひも、近頃外国で発明されたさうですから——我夫あなた、明日の教会の親睦会しんぼくくわいは御免を蒙ります、天長節は歌舞伎座へ行くものと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さればといって人の深切も、さすがに娘を落籍ひかしてくれるまでには到らなかったが、女腕で一人を過す片遑かたひま端金はしたがねを積立てても、なかなか蝶吉の体は買取られぬ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どことも知らず姿を消してしまい、新橋から住み替えて来た北海道産の梅千代というも、日本橋通りの蝙蝠傘屋こうもりがさや落籍ひかされ、大観音の横丁に妾宅しょうたくを構えるなど、人の出入りが多く
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おきんの亭主ていしゅはかつて北浜きたはまで羽振りが良くおきんを落籍ひかして死んだ女房の後釜にえた途端に没落ぼつらくしたが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主ははじをしのんで北浜の取引所へ書記に雇われて
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
間もなく或る若い銀行家に落籍ひかされる事になりました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼方あちらへ往くたんびに札びら切って、大尽風をふかしているお爺さんが、鉱山やまが売れたら、その女を落籍ひかして東京へつれていくといっているから、それを踏台にして、東京へ出ましょうかって。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
渠等かれらなかまの、ほとんど首領とも言うべき、熊沢という、おって大実業家となると聞いた、絵に描いた化地蔵ばけじぞうのような大漢おおおとこが、そんじょその辺のを落籍ひかしたとは表向おもてむき、得心させて、連出して
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落籍ひかされて、東京で勤め人の奥さんで納まっており、子供も三人あるのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)