草木そうもく)” の例文
彼等のまわりの草木そうもくは勿論、「さん・せばすちあん」の法服は海風の為にしっきりなしに揺らいでいる。が、船長のマントルは動いていない。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼が描く処の室内の光景及び庭上階下窓外の草木そうもくは人物と同じく極めて単純にしてまた極めて写生に遠ざかりたるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お城のように締りの厳重な一廓を構え、その中に美事な別荘好みのお家敷やしきを作り、水を引き、草木そうもくを植えて、満月をお住まわせになりました。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は夜の静けさのうちに蘇える無心の草木そうもくにも、敬虔な合掌の心持ちを覚える。青白い月光の流れが山荘の窓にしのび入る。
六甲山上の夏 (新字新仮名) / 九条武子(著)
一、死体は焼きて能く骨を拾い、牧塲に送り貯えて、卿が死するの時に同穴にうずめ、草木そうもくを養い、牛馬の腹を肥せ。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
自然を歪める丘陵の曲線と、注意深い光線の按排あんばいと、草木そうもく岩石の配置とによって、巧みに人工の跡をかくして、思うがままに自然の距離を伸縮したのだ。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
目のさきからじきに山すそに連続した、三、四里もある草木そうもくあるいは石の原などをひと目に見わたすと、すべての光景がどうしてもまぼろしのごとく感ずる。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
またたに濕地しつちや、たき湖沼こしよう附近ふきんには、特殊とくしゆ草木そうもくがしげり、高原こうげんにはそこにのみそだ植物しよくぶつがはえてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
大体だいたい地上ちじょう庭園ていえんとさしたる相違そういもございませぬが、ただあんなにもえた草木そうもくいろ、あんなにもかんばしいつちにおいは、地上ちじょう何所どこにも見受みうけることはできませぬ。
王もおそれて、その言葉に従うことになった。約束の通りに少女をあたえると、犬は彼女を伴って南山にのぼった。山は草木そうもくおい茂って、人の行くべき所ではなかった。
そのうちに、はるになりました。ながふゆあいだじっとしていた草木そうもくは、よみがえって、そら緑色みどりいろに、あたたかなかぜきました。おじいさんは、そらかって、だまって感謝かんしゃしました。
いいおじいさんの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
従って草木そうもくも繁茂していないとあるので、至って殺風景な、実際生々しい熔岩の累積を見ることとばかり想像して、風景の上から何等の期待をもって尋ねて来た訳ではなかった。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
草木そうもくの色の移り行くにつれて、狼の毛の色も季節きせつごとに変りて行くものなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わが十二の時、王宮の冬園ふゆそのに夜会ありて、二親みな招かれぬ。うたげたけなわなる頃、国王見えざりければ、人々驚きて、移植うつしうゑし熱帯草木そうもくいやが上に茂れる、硝子ガラス屋根の下、そこかここかと捜しもとめつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「三輪君は名君だからね。始終草木そうもくのことまで苦労にしている」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
草木そうもくを見ればよくわかる」
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一 つらつら四季を通じてわが国草木そうもくの花を見るに、西洋種せいようだねの花に引比ひきくらぶれば、ここにおのずから特殊の色調あるを知る。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
また画そのものも、ただ濁った水と、湿った土と、そうしてその土に繁茂はんもする草木そうもくとをいただけだから、恐らく尋常の見物からは、文字通り一顧さえも受けなかった事であろう。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なおかくの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷隣国、ただ炎の中にもだえまする時、希有けうの大魚の躍りましたは、甘露、法雨やがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表かとも存じまする。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人はこの世界に於て、始めて、曲線の現しる美を悟ったでありましょう。自然の山岳と、草木そうもくと、平野と、人体の曲線に慣れた人間の目は、ここにそれらとはまるで違った曲線の交錯を見るのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると常磐木のしげり、石の間なる菊のくさむらまで、庭中のありとあらゆる草木そうもくの葉は、何とも言えぬ悲愁の響を伝えますが、ぐとまたもとの静寂に立返って
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
くの如くしてわたくしの身は草木そうもくの如くいたずらに老い朽ちて行くのである。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これらの草木そうもくとこの風景とを眼前に置きながら、殊更ことさらに西洋風の建築または橋梁を作って、その上から蓮の花や緋鯉ひごいや亀の子などを平気で見ている現代人の心理は到底私には解釈し得られぬ処である。