すゝき)” の例文
窓の半分を明るくした、秋の夜の月明り、すゝきの中にしよんぼり女の立つて居るのが、影繪のやうにあざやかに障子に映つて居るのです。
おなじく桂川のほとり、虎溪橋こけいけうの袂。川邊には柳幾もとたちて、すゝきと蘆とみだれ生ひたり。橋を隔てゝ修禪寺の山門みゆ。同じ日の宵。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
雜木林ざふきばやしあひだにはまたすゝき硬直かうちよくそらさうとしてつ。そのむぎすゝきしたきよもとめる雲雀ひばり時々とき/″\そらめてはるけたとびかける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新体詩は嘗て一たび秋のすゝきの如く出でたり、而して今や即ち寂々寞々せき/\ばく/\たり。独り湖処子の猶孤城を一隅に支ふるを見るのみ。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
所謂七種は胡枝花はぎすゝきくず敗醤花をみなへし蘭草ふぢばかま牽牛花あさがほ瞿麦なでしこである。わたくしの嘗て引いた蘭の詩二首の一は此七種の詩中より取つたものである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
したはぎ桔梗ききやうすゝきくず女郎花をみなへし隙間すきまなくいたうへに、眞丸まんまるつきぎんして、其横そのよこいたところへ、野路のぢ空月そらつきなかなる女郎花をみなへし其一きいちだいしてある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すゝきは今もえてゐる。探せば木瓜ぼけの花もあらう。我は足痿あしなへて二十二年、夢でなくては堤に遊ぶおもひ出も見ぬ。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
植物園の黄昏たそがれに松やすゝきを眺めてバンクにいこうた時は日本の晩秋のうら寒い淋しさを誰も感ぜずに居られなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
三度目にすゝきの茂つた中に休んだ時には、笹の葉にそよぐ風の音が少しく耳立ち、日はもう低くなつてゐました。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ところ/″\に水たまりだの空地だのが多くなり、すゝきやその他の秋草が丈高く伸びていたりした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すゝきの原をべる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はぎすゝきたかなみうご
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
そのさへづこゑあつらうとしてたがひ身體からだえ飛び越えてるので小勢こぜい雲雀ひばりはすつとおりてむぎすゝきひそんでしまふ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
三度目にすゝきの茂つた中に休んだ時には、笹の葉にそよぐ風の昔が少しく耳立ち、日はもう低くなつてゐました。
畦道 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
すゝきの白い花がゆう闇のなかにほのかに揺れていたのが、今でもわたくしの眼に残っております。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれ何程なにほど節約せつやくしてもつひにじり/\とへつくのみである財布さいふすがつて、すゝきいたやうぢたくちなんでもころしてるのだといふ容子やうすをしてその々々ときざんですごした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)