色沢いろつや)” の例文
旧字:色澤
両手の指を、少し長くなった髪の間に、くしの歯のように深く差し込んで下を向いていた。彼は大変色沢いろつやの好い髪の所有者であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見るからが人の好さ相な、丸顔に髯の赤い、デツプリと肥つた、色沢いろつやの好い男で、襟のつまつた背広の、腿の辺が張裂けさうだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
全身の美しい色沢いろつや、口を開いて、舌を少し出している様子、苦悩の色こそありますが、毒殺でないことは、素人の平次にもはっきり判ります。
発育さかりはげしい労働に苦使こきつかわれて営養が不十分であったので、皮膚の色沢いろつやが悪く、青春期に達しても、ばさばさしたような目に潤いがなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして忽ち、ハチ切れる様に充実した、色沢いろつやの生々した、大きなポム・ド・テエルをコロコロと掘り出した。
馬鈴薯からトマト迄 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
柔い黒羅紗くろらしゃ外套がいとう色沢いろつや、聞きれるようなしなやかな編上げの靴の音なぞはいかに彼の好奇心をそそったろう。何時の間にか彼も良家の子弟の風俗を学んだ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
色沢いろつや、飼育ぶり如何を審査するにあったから、手に入れた犬を秘し隠しておく必要は毛頭もなかったとはいえ、その翌る日からは早速この仔犬に銀の頸環くびわと銀の鎖とを付けて
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
……真夜中まよなかに、色沢いろつやのわるい、ほゝせた詩人しじん一人ひとりばかりかゞやかしてじつる。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
安楽椅子に伸びちゃったまま、黄色い死灰しかいのような色沢いろつやになって、眼ばかりキラキラ光らしている光景は、ちょうど木乃伊ミイラの陳列会みたいで、気味の悪いとも物凄いとも形容が出来ないそうです。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしゃあふっくりした、色沢いろつやの好い頬っぺたが一番すきだ。320
色沢いろつやのある寂しいリズムの閃めきが
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
酒の好きなたちで、今でも少しずつは晩酌をやるせいか、色沢いろつやもよく、でっぷりふとっているから、年よりはよほど若く見える。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうしたって、女は十六、七から二十二、三までですね。色沢いろつやがまるでちがいますわ。男はさほどでもないけれど、女は年とるとまったく駄目ね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何よりも美味うまい物がすきで、色沢いろつやがよいものだ。此忠志君も、美味い物を食ふと見えて平たい顔の血色がよい。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つれの男も、身体からだつきから様子、言語ものいい、肩のせた処、色沢いろつやの悪いのなど、第一、屋財、家財、身上しんしょうありたけを詰込つめこんだ、と自らとなえる古革鞄ふるかばんの、象を胴切りにしたような格外のおおきさで
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時として顔の色沢いろつやなぞを好く見せるのはの病気の習ひ、あるひは其故そのせゐかとも思はれるが、まあ想像したと見たとは大違ひで、血を吐く程の苦痛くるしみをする重い病人のやうには受取れなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まだ御化粧おつくりをしていない。島田の根がゆるんで、何だか頭にしまりがない。顔も寝ぼけている。色沢いろつやが気の毒なほど悪い。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叔父は海辺から帰って、また家にぶらぶらしていた。病気が快くなったとも思えなかったが、いくらか肉づきもよくなっていたし、色沢いろつやも出て元気づいていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その夏休暇で帰つた信吾は、さらでだに内気の妹が、病後の如く色沢いろつやも失せて、力なく沈んでるのを見ては、心の底から同情せざるを得なかつた。そして慰めた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
年歯としより早く老けた。年歯より早く干乾ひからびた。そうして色沢いろつやの悪い顔をしながら、死ににでも行く人のように働いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丈の高いのと、面長おもながな顔の道具の大きいのとで、押出しが立派であったが、色沢いろつやがわるく淋しかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
色沢いろつやの悪い顔を、土埃ほこりと汗に汚なくして、小い竹行李二箇ふたつ前後まへうしろに肩に掛け、紺絣こんがすり単衣ひとへの裾を高々と端折り、重い物でも曳擦る様な足調あしどりで、松太郎が初めて南の方からこの村に入つたのは
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分は腹の中で、あの夢のような大きな黒い眼の所有者であった精神病のお嬢さんと、自分の二三間前に今席を取った色沢いろつやの好いお嬢さんとを比較した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪の深い水の清い山国育ちということが、皮膚の色沢いろつやすぐれて美しいのでも解る。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
明るい灯火ともしびの下に三人が待設けた顔を合わした時、宗助は何よりもまず病人の色沢いろつやの回復して来た事に気がついた。立つ前よりもかえって好いくらいに見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏の頃から、山間の湯に行ってみたり、まちの方の医者へ通っていたりしていたおかなの体は、涼気すずけが経つに従って、いくらか肉づいて来たようであったが、やっぱり色沢いろつやが出て来なかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
や、君の顔は妙だ。日のしている右側の方は大変血色がいいが、影になってる方は非常に色沢いろつやが悪い。奇妙だな。鼻を境に矛盾むじゅんにらめこをしている。悲劇と喜劇の仮面めん
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五十を少し出たかと思はれる、色沢いろつやのいゝ人の好ささうな人物で、質素な鼠色の古ぼけた無地の背広に、ソフトカラを着けてゐたが、胡麻塩の頭の髪が、禿げない質とみえて、長く伸びてゐた。
フアイヤ・ガン (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
母はどこへ行ったのと聞いたが、あとから、色沢いろつやが好くないよ、どうかおしかいと尋ねた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お芳の若やいで来た顔の色沢いろつやが、お増にはうらやましいようであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
嫂は「相変らずですわ」とただ一口答えただけであった。嫂はそれでもさみしい頬に片靨かたえくぼを寄せて見せた。彼女は淋しい色沢いろつやの頬をもっていた。それからその真中に淋しい片靨をもっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
荒木町の家では、従姉あねが相変らず色沢いろつやの悪い顔をして、ランプの薄暗い茶の間に坐っていた。いつも気が浮き浮きしたということもない従姉あねの、髪一つ綺麗に結った姿をお庄は見たことがなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だって、色沢いろつやが悪いのよ」と梅子は眼を寄せて代助の顔をのぞき込んだ。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三千代は心持が悪いといって先へ寐ていた。どんな具合かと聞いても、判然はっきりした返事をしなかった。翌日朝起きて見ると三千代の色沢いろつやが非常にくなかった。平岡は寧ろ驚ろいて医者を迎えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だつて、色沢いろつやわるいのよ」と梅子はせて代助のかほのぞんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
三千代は心持がわるいといつてさきてゐた。んな具合かといても、判然はつきりした返事をしなかつた。翌日朝起きて見ると三千代の色沢いろつやが非常にくなかつた。平岡は寧ろ驚ろいて医者を迎へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)