胡乱うろん)” の例文
旧字:胡亂
女は胡乱うろんな目付をして駄夫を見下してゐたが、何となく面白さうにニヤついたりしてゐる駄夫の様子に不愉快を感じたやうであつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
追い捕えてどうするという考えもなかったが、自分を見て慌てて逃げようとする彼女の挙動が、いかにも胡乱うろんに思われたからであった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おまけに犬が、それを胡乱うろんな武器と感ちがいして、さかんに吠えたてるかも知れぬのだから、一つとして、いいところが無い。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
ダブダブの印度服に、無恰好なゴム長靴を穿いて一瞬間私を胡乱うろん臭そうな眼付で見たが、やがて頭をピョコリと下げて見せた。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「こんな具合であの支那人は胡乱うろんな人間だと思いますので、いっそ思い切ってオムスク辺で解雇いたしたらいかがでしょう?」
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
本当に愛の実体を認めた事のないお秀は、彼女のいたずらに使う胡乱うろんな言葉を通して、鋭どいお延からよく見透みすかされたのみではなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
に呼で真の小説となすにたらんや。さはいえ摸写々々とばかりにて如何なるものと論定ろんじさだめておかざれば、此方にも胡乱うろんの所あるというもの。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
不寝番ねずばんの男は私たちを奥まった二階の部屋へ案内しました。洋室まがいに窓を狭め、畳が敷いてある様子までが、胡乱うろんに感じられる部屋つきです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
挙動が奇怪じゃ、胡乱うろんな奴等、来い! と言うてな、角の交番へ引張ひっぱって行って、ぬかせと、二ツ三ツ横面よこッつらをくらわしてから、親どもを呼出して引渡した。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
些細なことにても胡乱うろんと思う節があれば御注進申し上げるでございましょうと、額をすりつけてお詑びをいたし、よう/\お許しを戴いたのでござりました
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
云うこと勿れ、巴毗弇はびあん、天魔の愚弄する所となり、みだり胡乱うろんの言をなすと。天主と云う名におどされて、正法しょうぼうあきらかなるをさとらざるなんじ提宇子でうすこそ、愚痴のただ中よ。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小池君、すぐアトランチスへ行って、木島君が用紙と封筒を借りたあとで、誰かと話をしなかったか、同じテーブルに胡乱うろんな奴がいなかったか調べてくれ給え。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
旅行券はその兵士に渡すのですが、もしそこで胡乱うろんな者と認めらるれば送り還されるという話です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と土瓶のふたなぞを取って、胡乱うろんそうに中をのぞいたりしているのが、何とも滑稽こっけいで仕方がなかった。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
はからざりきこの船遊びを胡乱うろんに思い、恐るべき警官が、水にひそみてその挙動をうかがい居たらんとは。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
胡乱うろんの者と思召おぼしめすかは知りませんが、宿賃ぐらいな金子は有るかも知れません、じきに出立いたしますから、早々御勘定ごかんじょうをして下さい、の位あればいか取って下さいまし
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二人の侍も小平太が門をはいるまでじっと後を見送っていたが、仲間体ちゅうげんていではあるし、状箱は持っている、別に胡乱うろんとも思わなかったか、そのままきびすを返して行ってしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ひさしくおかみにおいて御探索たんさく中であったかの逆袈裟ぎゃくけさがけ辻斬りの下手人が当屋敷に潜伏せんぷくいたしおるとのことであるが、お前ら屋敷内にさよう胡乱うろんな者をみとめはしなかったか
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分たちを胡乱うろんと見こみ、詰問のために出た者でないと信じて疑わなかったのは、関所とはいえ、不破の関は千何百年前の不破の関で、その以後は、政治的にも、軍事的にも
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
キューネのだれにも分るドイツ訛りと、戦争が終ったか終ったかと聴くような怪しい男には、どの島民も胡乱うろんの眼をむけずにはいない。銃を擬せられて、逃げだすときの情なさ。
「太平洋漏水孔」漂流記 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こやつ胡乱うろんと引っとらえ、本署へ引致のうえ取り調べしに、この者は赤坂区青山南町に住する無職業鈴木正司という無頼漢にして、欅にじ登り、西瓜に火を点じて竿さお先に縛り
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
もしそこにいささかでも胡乱うろんがあれば、検視役たる御両名が帰られる筈はありません
初夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あなたはひょっと、何か胡乱うろんだとお思いになっているのじゃありませんか?」
ここで洗うと見えて飯粒が沈んでいる、猟犬が胡乱うろんくさい眼で自分たちを見たが、かえって人懐つかしいのか、吠えそうにもしない、一体この神河内には、一里も先にある温泉宿を除いて
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
二人の視線が会つた瞬間、鬼頭は神谷の眼の中にある胡乱うろんなものを読んだ。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
足音をきくとやにわにむくりと起き上がりながら、胡乱うろんなまなざしであとになりつ、先になりつ、駕籠を尾行つけ出しましたので、時が時でしたから京弥がいぶかしんでいると、青竹杖をつきつつ
「どっこい、待ちねえ。胡乱うろんな奴だ」
胡乱うろんなことをいうとるのやない。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その慌てた口ぶりがどうやら胡乱うろんに思われたので、五、六間も行き過ぎて又見返ると、彼はまだ行きもやらじに立ち明かしている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
咄々とつとつ、酔漢みだりに胡乱うろんの言辞を弄して、蹣跚まんさんとして墓に向う。油尽きてとうおのずから滅す。業尽きて何物をかのこす。苦沙弥先生よろしく御茶でも上がれ。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殆ど我にも胡乱うろんになって来たので、あたかも遠方からこそぐる真似をされたように、思い切っては笑う事も出来ず、泣く事も出来ず、快と不快との間に心を迷せながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
見るからに丸柿庄六と名乗りそうな面構つらがまえで、手に草箒くさぼうきを一本げていたが、万平を見ると胡乱うろん臭そうにジロリと睨んで立止まって、ガッチリとした渋柿面しぶがきづらをして見せた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは何も秋山図に、見惚みとれていたばかりではありません。翁には主人が徹頭徹尾てっとうてつび鑑識かんしきうといのを隠したさに、胡乱うろんの言を並べるとしか、受け取れなかったからなのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうか工夫をしてって見ろ、もし己のいう事を胡乱うろんと思うなら、書附をやって置いても宜しい、お互に一つ鍋の飯を食い、燗徳利が一本限いっぽんぎりで茶碗酒を半分ずつ飲んだ事もある仲だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いえ、あの決して胡乱うろんな旅籠ではござりませぬ。遙々御越しなさいました旅のお方が御泊りの宿ものうては、さぞかし御困りと存じまして申すのでござります。およろしかったら手前のところでお宿を
紋作は自分の叔母だと云っているが、それがどうも胡乱うろんである。そこからも時々に男の使がくると、お浜はねたましそうに話した。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんなら、なぜ忍び込むとうような胡乱うろんな文字を使用した?——さあ、それがすこぶる意味のある事だて。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何かしら胡乱うろん臭いと思ったのであろう、持っていたマリイ夫人の鍵束でコジリ廻して、出鱈目でたらめにマリイという三字の片仮名の記号を引っかけてみると偶然の一発当りで開いた。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
手前主名しゅめいあかし兼ねまするが、胡乱うろん思召おぼしめすなれば主名も申し上げまするが、手前事は元千百五十石を取った天下の旗下はたもとの用人役をした山倉富右衞門のせがれ富五郎と申す者主家しゅか改易になり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お浪は仔細ないと認められて一と先ずゆるされたが、お照は申し口に少し胡乱うろんかどがあるというので、これも番屋に止められた。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
胡乱うろんなうちにも、この階子段だけはけっして先刻さっき下りなかったというたしかな記憶が彼にあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と思わせるのは、その胡乱うろんな経歴から来た性格が鼻に現われているからであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其の茶屋町の縫という女を呼びにれ、すぐに……事を改めていうと胡乱うろんに思って、何処かへ隠れでもするといかんから、貴様一寸ちょっと行って来い、先刻さっき衣服きものの事について頼みたい事がある
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちっとも口のけなかった病人が、家へ帰ってからどうしてそんなことを云いましたか、どうもそこが胡乱うろんなのでございますが、徳蔵は確かにそう云ったと申します。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木挽町に居ります何も胡乱うろんの者では有りません、全く私が連れて参った供でないと云う証拠の有るのは、伊香保の木暮八郎方でお聞きなすっても、渋川の達磨茶屋で聞きましても分りますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
侍は胡乱うろんらしく玉藻をじろじろ眺めているので、玉藻は丁寧に会釈して、主人の入道に取次ぎを頼むと、侍は更に彼女の顔を睨むように見て、すぐに内へ引っ返して行った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何やらしょうの知れぬ胡乱うろんな奴、いつまでも道連れにするは不安のようにも思われまする。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼を胡乱うろんと見とがめて、采女は一応の詮議をすると、彼は明瞭の返答を与えない。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
申すのですから、定めて胡乱うろんな奴とおぼしめすかも知れませんが、いよいよお使いくださると決まりますれば、身許もくわしく申し上げます。決しておまえさんに御迷惑はかけませんから
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「こやつ、胡乱うろんと見ましたで引っ捕え申した。」と、権右衛門は先ず答えた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)