ちまき)” の例文
明智光秀がちまきを去らずに啖つたのなんぞは、正に光秀が長く天下を有するに堪へぬ事を語つてゐると評されても仕方の無い事である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
美濃の太田では、氏神の加茂県主かもあがたぬし神社の神様がお嫌いになるといって、五月の節句にも、もとはちまきを作りませんでした。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
帰りの土産には伊香保名物のちまき、饅頭、それから東京の留守宅の方にわたしたちを待ち受けてゐて呉れる年寄のために木細工の刻煙草入なぞを求めた。
伊香保土産 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その中に京都の饅頭屋まんじゅうや塩瀬三左衛門と云うものも伺候したが、光秀が献上のちまきを、笹をとらずに食ったのでびっくりし、これでは、戦争は敗だと思ったと云う。
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「そうか、それじゃ君一寸風呂に這入り給え。後でゆっくり茶でも入れよう、オイ其ちまきを出しておくれ」
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
節句のちまき貰いしが、五把ごわうちささばかりなるが二ツありき。あんず、青梅、すももなど、幼き時は欲しきものよ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちまきたかんなぽん千日ちひ(酒)一筒ひとづつ給畢たびをはんぬ。いつもの事にて候へども、ながあめふりて夏の日ながし。
うめ子がすゞしい眼付めつきになつて風呂場から帰つた時、代助はちまきひとつを振子ふりこの様にりながら、今度は
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
泥まみれな布直垂ぬのひたたれに、頭巾をちまきにむすび、肩や袖にはほころびをみせ、いかにも殺伐さつばつ風采ふうさいであるばかりでなく、その足どりには、何かに追われているようなはやさがあった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちまきはだめだとしても、せめて柏餅だけは拵えたいとか、戦争もすんだこととて、古い武者人形を少し飾ってはどうだろうかなどと、夕食のつどいに話したりすることがありました。
昔は六十六戸もあったという浅貝の宿も、今は十五、六戸に減じている。一月遅れの節句だというので、とある家で昼飯の代りにちまきを食べた。実にうまい。水に浸して置けば幾日もえないという。
三国山と苗場山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
この節句せくちまきのしろと刈る葦のいきれは繁し中分けて刈る
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
弟と笹の葉とりに山に行きちまきつくりし土産みやげ物ばなし
歌集『涌井』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
初夏の熊岳河ゆうがくがはの蘆の葉を支那のちまき三角さんかくに巻く
ちまきふ片手にはさむ額髪ひたいがみ 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ちまきゆふ片手にはさむひたひ髪
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ちまきゆう片手にはさむ額髪ひたいがみ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
歸りの土産には伊香保名物のちまき、饅頭、それから東京の留守宅の方にわたしたちを待ち受けてゐて呉れる年寄のために木細工の刻煙草入なぞを求めた。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
侍座じざの一将は、京都市民のよろこびと、献上のちまきとを、光秀の前に披露して後、一同へ向って
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫂は判然はっきりしないから、風呂場へ行って、水で顔をいて来ると云って立った。下女が好いにおいのするくずちまきを、深い皿に入れて持って来た。代助は粽の尾をぶら下げて、しきりにいでみた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の一つの想像では、鏡餅はまるいという点ばかり問題にされているが、是が上尖うえとがりにできるだけ高く重ねようとしていた点は、五月の巻餅まきもちちまきの円錐形と、同じ動機に出ているものではないか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
国つぶり節句せくちまき梔子くちなしの実に染めてから葦の葉に巻く
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちまきゆふ片手にはさむ額髪
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
村では、飼蚕かいこの取り込みの中で菖蒲しょうぶの節句を迎え、一年に一度のちまきなぞを祝ったばかりのころであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また、光秀が、苦吟のうちに、ちまきの皮をかずに口へ入れたとか、或いは、紹巴へ向って
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あによめ判然はつきりしないから、風呂場へつて、みづで顔をいてると云つて立つた。下女がにほひのするくづちまきを、ふかさらに入れてつてた。代助はちまきの尾をぶらげて、しきりにいでた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちまきまく夜のをかしさか、にもうかべて
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きのうのちまきは半蔵にも食わせたかったが、それも残っていない——そんな話が継母の口から出る。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして折角、こころざしちまきだからといって、彼らのいる前で、そのうちの一つを取って喰べた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぐわつ、五ぐわつのお節句せつくは、たのしい子供こどものおまつりです。五ぐわつのお節句せつくには、とうさんのおうちでもいしせた板屋根いたやね菖蒲しやうぶをかけ、ぢいやが松林まつばやしはうからつてさゝちまきをつくりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と、手製のちまきを献上した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちまきを祝ったりするのを楽みにしている間に——彼はわざとばかり菖蒲しょうぶの葉をかけたこの軒端も見納みおさめにするような心でもって、すでにすでに高輪を去ろうとする心支度を始めていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は子供を連れて家へ入り、茨城の方から貰つたばかりのちまきを分けて呉れました。青い柔かな笹の葉で面白く包んであつて、越後粽の三角なのとも異り、私の故郷の方で造るのとも違ひました。
まだ四月の下旬であるというに、彼はめずらしいちまきなぞを見つけて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)