瓶子へいし)” の例文
しかし、酒だけはどうしても缺かすことが出來ないといふので、母が瓶子へいしを抱いて、遠い山路を濁酒など求めに歩いたものであつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「わるいことをいうな。けだし国音家令かれいかれいに通ずればなりか。瓶子へいし平氏へいしに通じ、醋甕すがめすがめに通ず。おもしろい。ハッハハハハ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『——咲くや木の花、なにわ津の、入江のあしは、伊勢の浜荻はまおぎ、伊勢の瓶子へいしは、素甕すがめにてこそ。——伊勢の平氏はスガ目にてこそあるなれ』
かめでも瓶子へいしでも、皆あかちゃけた土器かわらけはだをのどかな春風に吹かせながら、百年も昔からそうしていたように、ひっそりかんと静まっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
成親などは、顔面蒼白そうはくになって立ち上り、浄憲につめ寄ろうとした拍子に、着物の袖がふれて前にあった瓶子へいしが倒れた。
それから、此処ここで発掘した小さい瓶子へいしなどを並べて売るのをのぞくが、値が相当に高いので買ふ気にならない。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
康頼 西光殿さいこうどのが横合いから口を入れて言った。あまりに瓶子へいし(平氏)が多いのでってしまった。この目ざわりな瓶子(平氏)をどうしたものだろう、と。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
応化橋おうげのはしの下で山岡大夫に出逢った母親と子供二人とは、女中姥竹うばたけが欠け損じた瓶子へいしに湯をもらって帰るのを待ち受けて、大夫に連れられて宿を借りに往った。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
菜摘邨来由なつみむららいゆ」と題する巻物が一巻、義経公より拝領の太刀たち脇差わきざし数口、およびその目録、つばうつぼ陶器とうき瓶子へいし、それから静御前よりたまわった初音はつねつづみ等の品々。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
錦織にしごりの判官代が、すずし一枚の若い白拍子を、横抱きにして躍り出したとたんに、瓶子へいしが仆れて土器かわらけを割った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はもう一度庭へ出てみたくなったので、いい加減に座をはずして立とうとすると、あいにくにその鼻のさきへ一人の大男が瓶子へいし土器かわらけとを両手に持って来た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
瓶子へいしと盃を二人の前に別々に置いてまず一杯飲み、そののち、たがいに酌をして、更に一杯飲み、喜太夫の飲んだ盃を外記に差させた。目下から目上に盃を差すのは礼儀ではない。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
御前へ女二にょにみやのほうから粉熟ふずくが奉られた。じんの木の折敷おしきが四つ、紫檀したん高坏たかつき、藤色の村濃むらご打敷うちしきには同じ花の折り枝が刺繍ぬいで出してあった。銀の陽器ようき瑠璃るりさかずき瓶子へいし紺瑠璃こんるりであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この奥の院近くに人の足音を聞きましたから、老人は坐ったまま居間の扉を押開いて、かたわらにあった瓶子へいしを取ってさかしまにし、その水を外へこぼすと、その傍らを風のように通り抜けた人があります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
瓶子へいしをささげた女がすべるように前に出た。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
手には酒盃、肩には瓶子へいしひとすじに
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
あたゝめよ瓶子へいしながらの酒の君
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
緋桃ひももを浮けつる瓶子へいしとりて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
太郎は、瓶子へいしを投げすてて、さらに相手の左の手を、女の髪からひき離すと、足をあげて老人を、遣戸やりどの上へ蹴倒けたおした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この狼藉ろうぜきとして取りちらされてあるのは、盃盤であり瓶子へいしであり、楽器であり筆墨であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
康頼 成経殿がふと狩衣かりぎぬそでに引っかけて、法皇の前にあった瓶子へいしを倒したのが初めだった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「あっ!」酒の瓶子へいしを踏んで大納言がよろめくと、人々は、歌の調子をそのままつづけて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海老錠えびぢやうのおりた本殿ほんでんの扉が向ふの方に見えて、薄暗い中から八寸ぐらゐの鏡が外面そとの光線を反射してゐた。扉の金具かなぐも黄色く光つて、其の前の八足やつあしには瓶子へいしが二つ靜かにつてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かつ采女うねめをつとめたことのある女が侍していて、左手にさかずきを捧げ右手に水を盛った瓶子へいしを持ち、王のひざをたたいて此歌を吟誦したので、王の怒が解けて、楽飲すること終日であった
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ここはまた、陶器の産地であって瓶子へいしがめが作られる。
雛壇の瓶子へいしを指さし
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
悲鳴を上げる——と、老人は、左手に女の髪をつかんで、右手に口の欠けた瓶子へいしを、空ざまにさし上げながら、その中にすすけた液体を、しいて相手の口へつぎこもうとする。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
食机おしきの上に盆鉢わんばちが並び、そこに馳走の数々が盛られ、首長の瓶子へいしには酒が充たされ、大さかづきが添えられてあり、それらの前に刺繍を施したしとねが、重々あつあつと敷かれてあったからである。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ飾られているのは、そこにる手を待っている蝶の一対の瓶子へいしだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太郎は、草履ぞうりを脱ぐももどかしそうに、あわただしく部屋へやの中へおどりこむと、とっさに老人の右の手をつかんで、苦もなく瓶子へいしをもぎはなしながら、怒気を帯びて、一喝いっかつした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、瓶子へいしを持って、信長へ神酒をごうとすると
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、その日は、小姓こしょうの手から神酒みきを入れた瓶子へいしを二つ、三宝さんぼうへのせたまま受取って、それを神前へ備えようとすると、どうした拍子か瓶子は二つとも倒れて、神酒が外へこぼれてしまった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
酒の瓶子へいしも添えてある。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瓶子へいしがわれた」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)