無頼漢ならずもの)” の例文
転がつた無頼漢ならずものは、埃のなかで蛙のやうに手足をばたばたさせながらわめいた。附近あたりには同じやうな無気味のてあひがぞろぞろたかつて来た。
「お前もおいで! 度胸がある。見せて置いてもいいだろう。……紹介ひきあわせて置こう、変った奴らを。無頼漢ならずものどもだがためにもなる奴らだ」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
屋根の上の無頼漢ならずもの身体からだは、一寸ちょっとこごんだと思うと、ピンと跳ねて、頭の上の橋桁へサッと飛付きます。実に間髪を入れざる恐ろしい放れわざ
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
市の無頼漢ならずもの伯楽ばくろうどもであった。なまりのひどい方言でののしることなので、初めは何を云われているのか分らずにいた頼朝も、やや面色を改めた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このごろは諸国の浪人や無頼漢ならずものが入り込んで、商売人泣かせを働いて困るじゃ、見せしめのため、お代官へ行き申す」
「風来坊の乞食の無頼漢ならずもののろくでなしの極道ごくどうの傴僂野郎め、巾着切きんちゃくきりの矢尻切りの嘘つきの恥知らずのはりつけ野郎め、おまけに」「お父さま、——」
昔は自分なぞよりはもう一層たちの悪い無頼漢ならずもののようにも思っていた遠山金四郎とおやまきんしろうが今は公儀の重い御役おやくを勤め真実世の有様を嘆き憂いているかと思えば
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うるさいッ……あんな奴らはストライキで飯を食って歩いてる無頼漢ならずものだ、何が出来るものか……うるさいから階下したへ行ってろ、階下したへ行けッてば……」
(新字新仮名) / 徳永直(著)
「見ろ、見ろ、間抜まぬけめ、なんという馬鹿な顔をしてるんだ! 嘘もいい加減にしろ、無頼漢ならずものめ! 水だ、水だ!」
大抵はたちの悪い御家人どもや、お城坊主の道楽息子どもや、或いは市中の無頼漢ならずものどもが、同気相求むる徒党を組んで、軍用金などという体裁の好い名目みょうもくのもとに
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又よく無頼漢ならずものや不良少年見たような者が生徒をからかいに来たり、母を脅迫おどかしてお金を強請ゆすったりしましたが、そんな時も母は一人で叱り付けて追い払いました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
犯人嫌疑者の信次郎は、無頼漢ならずものと評判されているだけに、あまり人相のよい男ではありませんでした。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
弥太堀の大黒屋に集っていたのは、一団の主領かぶで、栗田口新之丞あわたぐちしんのじょう石丸茂平いしまるもへい佐田長久郎さたちょうくろう杉村友太郎すぎむらともたろう山谷勘兵衛やまやかんべえ、以下十名、いずれも勤王くずれの無頼漢ならずもの
それア僕は家を出奔したり長い間音信不通でゐたりした無頼漢ならずものでね、大した親不孝者には違ひないけれどね、ま、刑務所の御厄介にならなかつたやうなもんですとね
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
無頼漢ならずものには珍しい気魄、——いずれ、名のある曲者くせものだろう。見遁すわけには、断じてならぬ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ラサ府にうろついて居るところのごろつき壮士坊主というような無頼漢ならずものも沢山に混って居て、セラの壮士坊主と共にパルポ商人の店々に闖入ちんにゅうし夜の明けるまで乱暴狼藉ろうぜきを働いて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
肩に継布つぎの当ったあわせ一枚に白木しろきの三じゃく、そろばんしぼりの紺手拭いで頬かむりをしている。暫らくの間にちまたほこりによごれ切って、さむらいとも無頼漢ならずものとも知れない、まことに異形いぎょうな風俗だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの追放人おひはらはれ無頼漢ならずものんでゐるマンチュアに使つかひおくり、さるをとこふくめて尋常よのつねならぬ飮物のみもの彼奴あいつめにませませう、すればやがてチッバルトが冥途めいど道伴みちづれ。さうなれば其方そなたこゝろなぐさまう。
恥しらずな無頼漢ならずもののなかの無頼漢! ——現世にたいしてお前はもう永久に死んでいるのではないか? その名誉にたいして、その栄華にたいして、その燦然さんぜんたる大望にたいして? ——そして
歯の浮くような・やにさがった調子で「人形は美しい玩具だが、中味は鋸屑おがくずだ」などという婦人論を弁じなければ気が済まぬのか? 二十歳のスティヴンスンは、気障のかたまり、厭味いやみ無頼漢ならずもの
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
道では無頼漢ならずものが朋輩から貰つた煙草の吸殻をふかしふかし相変らずばたばたしてゐる。運転手はぶつくさ言ひながら車を後に引き返した。
振り返ると、あの無残な無頼漢ならずものが、ハンティングをかなぐり捨てて、父娘相争う不思議な情景をじっと見詰めて居ります。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
従者、手下の無頼漢ならずもの、同勢わッと土足のままで邸内へなだれ込んだ。柴進さえ防ぐいとまもないほどな瞬間だった。——すると、どうしたのか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにさ随分変な人間に、一時に紹介されたものさ。隅田のご前という凄いような人物や、七人の異様な無頼漢ならずもの達に。……屋敷の構造も変なものであった。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今となっては、たとえ無頼漢ならずものであろうとも、自分に調戯からかってくれる男のないことが淋しいくらいでありました。
無頼漢ならずものでも博奕打ちでも、さすがに客商売の辰蔵は客に対してにがい顔をしているわけにも行かなかった。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
村人の証言によってこの村の無頼漢ならずもので独り者の信次郎の所有であると分かったので、警官たちが時を移さず信次郎の逮捕に向かうと、彼は早くも風を食らって逃げた跡でしたから
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
無頼漢ならずものを一人突き出して、いくらか、お手当でも頂こうという腹ですかい? とかく窮屈になった御時勢で、お侍さんも、とんだ内職をなさらなけりゃあ、食えなくなったか?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
大宮から一緒に逃げて来た無頼漢ならずもの情夫まぶを心から怖がっていたからであったという。
「フランスと戦う奴があるものですか。君が言うようなその争闘では、口をきいたり議論したり投票したり、多くの無頼漢ならずものと不快な接触をしなければならない。そんなことは僕には不向きです。」
これが、——この冷酷無残の無頼漢ならずものが、——名探偵花房一郎とは思いもよりません、さすがの警官も驚きましたが、鳴海司郎の驚きは又一倍です。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「飼っているならいいが、そうじゃない。この上の藪の中に、無頼漢ならずものと、闘鶏師とりしが集まって、博奕ばくちをしているのです」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太陽が酔っ払いであろうが、無頼漢ならずものであろうが、そんなことには頓着なく、草はみな両手を差し上げている。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「取り返されては残念じゃからの——ではそれまで席を変えて、無頼漢ならずものどもに酌させて飲もうぞ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
清澄の茂太郎は、無頼漢ならずもの羽掻はがいに締められて、進退の自由を失ってしまいました。せめて、口笛でも吹くだけの余裕があったならば、こういう時に、狼が来てくれたかも知れない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実は拙者、貴様のその、突拍子とっぴょうしもない度胸が、惜しくなったのだ。それに、貴様の、必死必殺の気組の底には、ただ喧嘩慣れた、無頼漢ならずものには、ふさわしからぬ、剣気がかくされているような気がする。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
実は小博奕こばくちなどを打っている無頼漢ならずものであることを半七は知っていた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
都の天漢州橋てんかんしゅうきょうへ、伝家の名刀を売りに立ち、あの雑閙ざっとう中でからんできた無頼漢ならずもの牛二ぎゅうじを、一刀両断にやッてのけた、当時評判だった、青面獣せいめんじゅうの楊志というのは
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「諦めるより仕方がないよ」こう云ったのは無頼漢ならずもの風の、稲葉小僧新助であった。「相手が十二神オチフルイとあるからには、六人かかったって歯が立たねえ。まして今は四人だからな」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身分不相応な資本もとでを入れて、大きな親爪や堅い甲羅をしょい込み、何ぞといっては、すぐにそれを相手の鼻さきに突きつけようとする無頼漢ならずもの揃いのなかにあって、これはまた何という無力な
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
根来ねごろの誰とか、三井寺のなにがしとか、また聖護院しょうごいんの山伏だの、鎌倉の浪人者だの、名もない市井しせい無頼漢ならずものまでが、きのうも今日もこれまで幾組来たことかわからない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまにだんだら染めの着附をして、尻の端に細身の鋭い剣を下げた無頼漢ならずものの蜂が、密を盗まうとして固い頭でがむしやらに開きかかつた花弁を押し分けるとか、またはいたづら好きの軽い風が
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「よく六人の無頼漢ならずものどもの、声の特徴を真似したものだ」
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「このごろの御大身と来たら、やくざが錦を着たようなものさ。どうせ婆娑羅者ばさらものなら、しゃくも刀も持たない無頼漢ならずもののほうが、いっそどれほど可愛いか知れないじゃないの」
そのくせ、ちょっと手強てごわい山賊や無頼漢ならずものにでもぶつかると、逃げまわるのが関の山で、たとえ、盗難や乱暴者があって、訴え出たって、間に合う頃に来たためしなどありやしません
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)