ようよ)” の例文
若「もけません、ようよう此処まで我慢して歩いて来ましたので、わたくし此様こんなに歩いた事はないものですから、う何うしてもけません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女は一とこと一と言に頬ずりをしてから、ようようリリーを下に置いて、忘れていた窓の戸締まりをし、座布団ざぶとんで寝床をこしらえてやり
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と主人が云った時にはお関もようよう気が落ついておそれながら下の様子を見に降りると、取りちらした中に恭とお久美さんがぼんやりたって居るのを見つけた。
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのまま横になりて、翌朝九時ようよう大阪に着けば、藤井の宅の妻子および番頭小僧らまで、主人の帰宅をよろこび迎え、しかも妾の新来をいぶかしうも思えるなるべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その時の重いことと言ったらたまらなかった。けれども仕方がない。ようようの事でそれを背負い出立したです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ようようにして其のお玄関に辿りついた時は、何しろ二時間も足駄を引き摺ったのでしたから、足袋は切れる足は痛む、馴れないので全身綿のように疲れていました。
職業の苦痛 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
病がようよえて衣をえる場合であろう。その恢復に向う力に対して、土をぬきんずる笋の勢を持って来たのである。現在それほど元気になったというわけではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ようよう口を開いて、「そうだ、やわらかいが、なるほどすぐに脆くなる。」しばらくしてこれに附け加えて
私は鍋を掛けたり、下したりしていると、ようよう九時過になって、奥様は楊枝をくわえながら台所へ御見えなさいました、——恐しい夢から覚めたような目付をなすって。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ようよう日のかげりかけた境内の薄闇には、白い人の姿が、ベンチやさくのほとりに多く集っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ひと足遅れてのぼり来る姫の息せまりて苦しげなれば、あまたたび休みて、ようよう上にいたりて見るに、ここはおもひの外に広く、めぐりに低き鉄欄干をつくり、中央に大なる切石一つ据ゑたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
孫の成長をたった一つの心楽しみに、日雇ひやといなどをしてようようと暮していたが、そのばあさんがやがて老耄ろうもうをして、いつでも手を打って一つ歌を歌っているのを、面白がって私たちは聴きにった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ようよう元の若旦那に立ちかえる。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
一寸ちょいとお若を見ますると変な様子でげすから、伊之助もなんとなく白けて見え、手持無沙汰でおりますので、お若さんもようよう気がいて
ようよう妹をすかして、鉛筆と半紙を借り受け急ぎ消息はなしけるも、くわしき有様を書きしるすべきひまもなかりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そして蒔岡家の一同は、明くる朝の四時頃、風がようよう収まるのを待ってそのましい脆弱ぜいじゃくな家へ、まだ何となくビクつきながら戻って来たと云う訳であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二日も降り続いて居た雨がようよう止んで、時候の暑さが又ソロソロと這い出して来た様な日である。
追憶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
お島が近所の知った家を二三軒いて歩いたり、姉の家へ行ってみたり、途中で鶴さんや大秀へ電話をかけたりしてから、ようよう帰って来たのは、もう大分夜がけてからであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自儘じまゝに好いた客のそばへばかり行っていることは出来ませんもんですから、ようよう夜明になってこの座敷へまいりますると、うと/\しています様子。
どう云う訳かなかなか雪子さんが出て来ない、散々待たしてようよう出たには出たけれども、御都合は如何いかがですと云っても、はいあのう、はいあのうを繰り返すばかりで
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と黒い中をすかし込むので出場を失った気味で居た蕙子はようよう次穂を得た様に出て行って
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「作さんを嫌って、お島さんが逃げたって云うんで、近所じゃ大評判さ」とにかく今夜は帰ることにして、銀さんは、ようようお島を俥に載せると、梶棒かじぼうにつかまりながら話しはじめた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御寝所の縁の下などへへいる奴があるだ、過般こねえだも私がすうと出たら魂消たまげやアがって、つらか横っ腹か何所どっか打ったら、犬う見たようにようよう這上ったから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ではなおよく考えて、明朝改めて打ち合せをしましょう、と云う挨拶であったが、十五日の朝電話があり、トーアホテルでは如何と云って来たので、ようようそれに話が落ち着いた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十九にもなったものを只食わしては置けないと云うので、あらんかぎりの努力をしてようよう専売局の極く極く下の皆の取り締りにしてもらったのは、良吉のひどい骨折りであった。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こんなときにかないととても紛れることは出来ぬと、わざとごた/\致す人中をってようよう汽車に乗りこみます。
そして、その、人間の大きさを持った一輪の花の如きものは、ようよう半身を現わしたところで、まだ国経に袂をとらえられたまゝ静止して、それ以上姿を現わすことを拒んでいるように見えた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ようよう分りました。此処からです。此処から入ったんです。
盗難 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と両手を差伸さしのべれば、お嬢様は恥かしいのが一杯なれば、目もくらみ、見当違いのところへ水を掛けておりますから、新三郎の手も彼方此方あちらこちらおいかけてようよう手を洗い
彼女はこと/\に頬ずりをしてから、ようようリヽーを下に置いて、忘れてゐた窓の戸締まりをし、座布団で寝床を拵へてやり、あの時以来まだ押入に突つ込んであつたフンシを出してやりなどすると
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの葛籠はいもとから預かって置いた大事の物で、盗賊に取られたのをようよう取りおおせたら又泥坊が這入って持ってきましたによって、同じお長屋の衆はかゝあいで御座りますナア
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ようよおかあがりまして、船を引上げ、二人ににんの死骸は人目にかゝらぬようにして、島の入口二三丁けども/\人家はなし、只荒れ果てたる草木くさきのみ、人の通りし跡だになければ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
失敗しくじって損ばかりいたし、ようように金策を致して山師やましおどした宿屋、実にあぶない身代で、お客がなければ借財方しゃくざいかたからは責められまするし、月給をらぬから奉公人はいとまを取って出ます
知っての通り親父はごく堅いので、あの手紙を書くにも隠れてようよ二行にぎょうぐらい書くと、親父に呼ばれるから、筆を下に置いて又一行ひとくだり書き、しまいの一行は庭の植込うえごみの中で書きましたが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ようようのことで國藏、森松、亥太郎の三人を言い伏せて出立いたしたが、いや藤原は身内のこと、まして侍だが、町人三人の志、実に武士も及ばんなア、さぞ/\あとで怨んでいようが
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手負ておいに成りました山之助が、ようように血に染った手を突いて首をもたげましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お照は火を打つ所が、慌てるから中々かないのをようようの事で蝋燭をともして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今時分何ういう理由わけで入らしったてえと、犬に吠えられたり何かして、命からがらようようの事でお前のとこへ来た理由は、誠に乳母ばあや面目ないが、長らくうちに勤めて居た手代の粂之助というものと
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はいわたくしでございますと低声こゞえでいいましたわい、まア粂之助よう来ておくれた、はいようようの事で忍んで参りました、お前に逢いとうて逢いとうてどうもならぬであった、わたいも逢いとうてならぬから
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
えゝ左様そうじゃないか、直ぐに庄吉は縛られて二番町の町会所へ送られ、わしは物置の中に隠れてて見付からなかったから、ようよう這出して、皆出たあとでそうっと抜出して此処まで来たのでげすがな
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
國「旦那様、ようようのことで尋ね当てました、これは御新造様御無事で」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)