たに)” の例文
新字:
笛の音が冴えて、太鼓の音が聞えた。此方の三階から、遠く、たにの川原を越えて彼方の峠の上の村へと歩いて行く御輿の一列が見られた。
渋温泉の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わが兄弟なりし者にモロントとエリゼオとあり、わが妻はポーのたによりわがもとに來れり、汝のうぢかの女より出づ 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
午後ごゝんだがれさうにもせずくもふようにしてぶ、せまたに益々ます/\せまくなつて、ぼく牢獄らうごくにでもすわつて
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
山やたにせめぎ合い心を休める余裕や安らかな望みのない私の村の風景がいつか私の身についてしまっていることを私は知った。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
橋を渡ると下瀧温泉の旅舍があつて、たにに臨んで樓を起してゐる。われ等は此處の草分の麻屋といふに投じて晝餐を取つた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そういう谷間の大いなる流れに沿うて西南方に登って行くこと一里ばかりにして午前十一時にターシータン(栄光溪)という美しいたにに着きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見よとことば戰かひ洒落も凍りて可笑をかしきは出ず峯には櫻たにには山吹唐松からまつ芽出めだしの緑鶯のをり/\ほのめかすなど取あつめたる景色旅の嬉しさ是なりと語りかはして
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
やや里近い杉の山の彼方を水がとおり激流となってたににせきいかだを流して次第にひらき、水面広く河か湖と思われる辺、水ぎわの孤松、のどかに馬をひく馬子と老人
道々みち/\は、みねにも、たににも、うしたところ野社のやしろ鳥居とりゐえた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
耳鳴りほどのたにの聲 窗には雪が降つてゐる
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
かすけさよ、雪のたに
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ヴァーロよりレーノに亘りてこの物の爲しゝことをばイサーラもエーラもセンナも見、ローダノを滿たすすべてのたにもまた見たり 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私は眼をたにの方の眺めへ移した。私の眼の下ではこの半島の中心の山彙さんいからわけ出て来た二つの溪が落合っていた。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
れいなるかなこの石、てんあめふらんとするや、白雲はくうん油然ゆぜんとして孔々こう/\より湧出わきいたにみねする其おもむきは、恰度ちやうどまどつてはるかに自然しぜん大景たいけいながむるとすこしことならないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
離るればすぐに山にてたにの流れも水嵩みづかさまして音高く昨夜ゆふべの雲はまだ山と別れず朝嵐身にこたへてさぶ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その池の北岸を東南に進んでセンゲー・ルン(獅子溪ししだに)というたにの間を通って行きました。がその溪の両側の岩が妙な形をして居るのでチベット人はその岩の形の獅子になぞらえそれで
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それはたにの下流にあった一軒の旅館から上流の私の旅館まで帰って来る道であった。溪に沿って道は少し上りになっている。三四町もあったであろうか。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかして最も重く汝の肩をすものは、汝とともにこのたにに落つる邪惡庸愚の侶なるべし 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
例の奇癖きへきかういふ場合ばあひにもあらはれ、若しや珍石ちんせきではあるまいかと、きかゝへてをかげて見ると、はたして! 四めん玲瓏れいろうみねひいたにかすかに、またと類なき奇石きせきであつたので
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
知たかぶり岩があつてたにがあつて蕎麥が名物是非一日遊ばうぞやと痛む足を引ずりて上松あげまつも過ぎしがやがて右手の草原くさはらの細道に寐覺ねざめとこ浦嶋の舊跡と記せしくひあるを見付けガサゴソと草の細道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
私どもは凄い水の落ちる横合の岩の間を通り抜けて向うに出ますとこぶしを伏せたような具合の山が三つあってその間々に三条のたにがあってブラマプトラ川は東南の山の間の溪へ流れ込んで居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
遠い山々からわけ出て来た二つのたにが私達の眼の下で落ち合っていた。溪にせまっている山々はもう傾いた陽の下で深い陰と日表にわかたれてしまっていた。
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
叔父の家は丘のふもとに在り、近郊には樹林多く、川あり泉あり池あり、そして程遠からぬ處に瀬戸内せとうち々海の入江がある。山にも野にも林にもたににも海にも川にも僕は不自由をなかつたのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たにの向こう側には杉林が山腹をおおっている。私は太陽光線の偽瞞ぎまんをいつもその杉林で感じた。昼間日が当っているときそれはただ雑然とした杉のの堆積としか見えなかった。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
そして私達は街道のそこからたにの方へおりる電光形の路へ歩を移したのであったが、なんという無様な! さきの路へゆこうとする意志は、私にはもうなくなってしまっていた。
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
それからたにへ下りてまだ三四丁も歩かなければならない私の宿へ帰るのがいかにも億劫おっくうであった。そこへ一台の乗合自動車が通りかかった。それを見ると私は不意に手を挙げた。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
闇の底をごうごうとたにが流れている。私の毎夜下りてゆく浴場はその溪ぎわにあった。
温泉 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
日表にことさら明るんで見えるのは季節を染め出した雑木山枯茅山であった。山のおおかたを被っている杉林はむしろ日陰を誇張していた。蔭になったたにに死のような静寂を与えていた。
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私の坐っているところはこの村でも一番広いとされている平地のへりに当っていた。山とたにとがその大方の眺めであるこの村では、どこを眺めるにも勾配のついた地勢でないものはなかった。
蒼穹 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
橋を渡ると道はたにに沿ってのぼってゆく。左は溪の崖。右は山の崖。行手に白い電燈がついている。それはある旅館の裏門で、それまでのまっすぐな道である。この闇のなかでは何も考えない。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
二三日前、俺は、ここのたにへ下りて、石の上を伝い歩きしていた。
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その家の前を過ぎると、道はたにに沿った杉林にさしかかる。右手は切り立った崖である。それが闇のなかである。なんという暗い道だろう。そこは月夜でも暗い。歩くにしたがって暗さが増してゆく。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
たにからは高く、一日中日のあたつてゐる畑だ。
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)