すずし)” の例文
ふっくりした別嬪べっぴんの娘——ちくと、そのおばさん、が、おばしアん、と云うか、と聞こえる……すずしい、甘い、情のある、その声がたまらんでしゅ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとり宮のみは騒げるていも無くて、そのすずし眼色まなざしはさしもの金剛石と光を争はんやうに、用意深たしなみふかく、心様こころざまゆかしく振舞へるを、崇拝者は益々よろこびて、我等の慕ひ参らするかひはあるよ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
両膝をほっそりと内端うちわかがめながら、忘れたらしく投げてたすそを、すっと掻込かいこんで、草へ横坐りになると、今までの様子とは、がらりと変って、活々いきいきした、すずしい調子で
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、」とすずしい目をみはって、きっにらむがごとくにしたが、口に微笑が含まれて、苦しくはない様子。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瓜核顔うりざねがおで品のいい、何とも云えないほど口許くちもとやさしい、目のすずしい、眉の美しい、十八九の振袖ふりそでが、すそいて、嫋娜すらりと中腰に立って、左の手を膝の処へ置いて、右の手で
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょいと見向いて、すずしい眼で御覧なすって、莞爾にっこりしてお俯向うつむきで、せっせと縫っていらっしゃる。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
知らせもしないのに、今日来るのを知って、出迎でむかえに出たと云って、手にすがって、あつい涙で泣きました。今度は、すずしい目をひらいても、露のみあふれて、私の顔は見えない。……
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(石を切って、ほくちをのぞませ、煙管きせる横銜よこぐわえに煙草たばこを、すぱすぱ)気苦労の挙句は休め、安らかに一寝入ねいりさっせえ。そのうちに、もそっと、その上にもすずしい目にして進ぜよう。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが夕暮が多かった——嬰児あかんぼ背負おぶって、別にあやすでもなく、結いたての島田で、夕化粧したのが、顔をまっすぐに、すずしい目をみはって、蝙蝠こうもりも柳も無しに、何を見るともなく
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しいひとは、すっと薄色の洋傘パラソルを閉めた……ヴェールを脱いだように濃い浅黄の影が消える、と露の垂りそうなすずしい目で、同伴つれの男に、ト瞳を注ぎながら舞台を見返す……その様子が
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と直ぐ続けて、肩越に﨟長ろうたけた、すずしい目の横顔で差覗さしのぞくようにしながら、人も世も二人のほかにないものか。誰にも心置かぬさまに、耳許みみもとにその雪の素顔の口紅。この時この景、天女あり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……羽織を着たまま左の袖口に巻込んで、矢蔵のそうという形で、右に出刃を構えたが、すずしい目でじっると、庖丁の峯を返してとんと魚頭を当てた、猿の一打ひとうち、急所があるものと見える。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
微笑ほほえんで見せて、わかいのがそのすずしい目に留めると、くるりとまわって、そらざまに手を上げた、お品はすっと立って、しなやかに柳のみきたたいたので、蜘蛛くもの巣の乱れた薄い色の浴衣のたもと
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものを言うすずしい、はりのある目を上から見込んで、構うものか、行きがけだ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かさながら差覗さしのぞくようにして親しく聞く、時にすずしい目がちらりと見えた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かんざしの花がりんとして色が冴えたか気が籠って、きっと、教頭を見向いたが、その目の遣場やりばが無さそうに、向うの壁に充満いっぱいの、おおいなる全世界の地図の、サハラの砂漠の有るあたりを、すずしい瞳がうろうろする。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内端うちわながら判然はっきりとしたすずしい声が、かべいて廊下で聞える。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなすずしい目で、口許に嬉しそうな笑を浮べ、流眄ながしめ一寸ちょっと見て
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
珊瑚碧樹の水茎は、すずしく、その汚濁おじょくを洗ったのである。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずしき眼よりあふるる処へ、後馳おくればせの伯爵悠々と参りたまい
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、そうよ。」と捩向ねじむいてすずしく目をみひらく。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お鶴はきっと顔を上げて、すずしい瞳にうらみを籠め
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずしい声、ひややかなものであった。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さわやかにすずしき事、」
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)