歿)” の例文
ところが一五九一年に父が歿くなったので、その家族を扶養しなくてはならなくなり、そのままでは過ごすことができなくなったので
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
らうと云つたそのお幸の父も、お幸とお幸より三つ歳下とししたの長男の久吉ひさきちがまだ幼少な時に肺病にかかつて二年余りもわづらつて歿くなりました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
世の中には癆瘵ろうさいの病気で歿くなる人が多いのです、狐の害ばかりで死ぬるものですか、これはきっと、私のことをそしったものがあるでしょ
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「すると作楽井さんは、もうお歿くなりになりましたか。それはそれは。だが、年齢から言ってもだいぶにおなりだったでしょうからな」
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「きのうの朝歿くなられたです。脳溢血のういっけつだと云うことですが、……じゃ金曜日までに作って来て下さい。ちょうどあさっての朝までにですね。」
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
後家さんのマーガレットは下宿人を置いて暮しを立てておったが、年老いてからは子供のミケルに仕送りをしてもらい、一八三八年に歿くなった。
衷氏が歿くなった時のお通夜や、仏事の日などは、ありとある部屋に、幾組といってよいかわからぬほどのお客をして接待した欣々女史、その新盆にいぼんには
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
僕は老人らうじんに導かれて千八百八十八年に巴里パリイ歿くなつた全権大使ナホノブ、サメジマ君の墓をはからずも一ぱいした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのとき教えていただいた先生が中島真義という方ですが、最近八十五歳で歿くなられるまで、ちょいちょい私の家へ遊びに来られて、あの頃の話も出ました。
「心を厳しく清く保って主に容れられず、世に容れられず、汨羅べきらに身を投げて歿くなられたの。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
父様はその翌年お歿くなりになられ、今では私の家の客間の壁の大きな御写真のなかに、おはいりになって居られるのでございますが、私はこの御写真を見るたびごとに
(新字新仮名) / 太宰治(著)
算哲様がお歿くなりになってから、御家族の誰もかもが、落着きを失ってまいりました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
祖父は歿くなる、親は追出す、もう誰一人その我儘わがまゝめるものが無くなつたので、初めの中は自分の家の財産を抵当に、彼方あつち此方こつちから金を工面して、なほその放蕩はうたうを続けて居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
まことの親達の無慈悲を聞きましたから、殊更ことさらに養い親の恩が有難くなりましたが、両親とも歿のちは致し方がございませんから、めてはねんごろに供養でもして恩を返そうと思いまして
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「私共の軍隊は敗走し、私共の后はそのためにその頭を不周の山に打ちつけられ、そのために天の柱は折れ、地の軸は絶え、私共の后も歿くなられました、ああ、これは本当に……」
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
母は浮気の沙汰こそないけれども、父が歿くなってからは人を集めることが好きになって、家はまるで倶楽部のようになってしまいました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
綱右衛門は静雨に不吉なお面の話をして別れたが、翌日になって静雨から夫人の歿くなったと云う通知を受け取った。
お化の面 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その男は、のち間もなく、木樵きこりが檞の木を伐り倒すのに手を借して、その木の下に圧されて歿くなりました。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このかん、明治四十年に至るまでには、新富座興亡史があり、歌舞伎座が出来上り、晩年は借財に苦しめられた守田勘弥もりたかんや歿くなってしまうと、新富座は子供芝居などで
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
馬鹿! 手前てめへまでがそんな腐つた了簡で、歿くなられた浄雪師匠に済まぬとは思はぬか。
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
惣次郎の歿のちにお隅を無理に口説いて江戸へ連れて行って女房にしようというたくみを考え、やまでおどして上手に見えるが田舎廻りの剣術遣だから、安田一角が惣次郎より腕が鈍くて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
歿くなった父が学者であったことが、ちらりと思い泛べられます。他の子供たちは煖炉だんろを取り囲んで大人びた形で勿体もったい振った討議を致します。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「吾われは今でも、先生が彼のために歿くなられたことを思うと、実に彼の肉をっても飽き足らない程に思います」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いえ、一昨年歿くなりました。——しかし今御話した女は、私の母じゃなかったのです。」
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老妻おばあさん歿くなると、老爺おじいさんのあきらめていた硫黄熱がまた燃てきた。
嘗て歿くなった父の生前、臆し/\しながらも結局、わたくしに背負わしてしまったいのちの重荷、葛岡の身の上の負担。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その日の昼ごろになって桐島きりしま伯爵が歿くなったと云うことが聞えて来た。豆腐屋の主翁はそれを聞いて真青まっさおな顔をした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それだけならばまだ女も、あきらめようがあったのでしょうが、どうしても思い切れない事には、せっかく生まれた子供までが、夫のひゃっにちも明けない内に、突然疫痢えきり歿くなった事です。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしは逸作にまもられているのを知ると始めて安心して、歿くなった父に対する涙をさめざめと流すことが出来た。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その晩入会した美術家の一人が入会の挨拶あいさつにかえてした話は、その春歿くなったという仲間の美術家の話であった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、やがて素戔嗚はくびに懸けた勾玉まがたまの中から、美しい琅玕ろうかんの玉を抜いて、無言のまま若者の手に渡した。それは彼が何よりも、大事にかけて持っている、歿くなった母の遺物かたみであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「さあ、こういう時に、歿くなられた先生の批判がうかがい度いものです。及川、貴様は科学者にしては冷静を欠くと、よく先生に叱られたものですが……」
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして、その記者は脳溢血のういっけつのような病気で、三日ばかりして歿くなった。これは市川猿之助の実話をそのまま。
怪談会の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしまだその外に何か理由があるとしたら、それは金花が子供の時から、壁の上の十字架が示す通り、歿くなつた母親に教へられた、羅馬加特力教ロオマカトリツクけうの信仰をずつと持ち続けてゐるからであつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
真女児はじぶんはこの国の受領の下司しもづかさあがた何某なにがしが妻であったが、この春夫が歿くなったので、力と頼むものもない。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自分と同じ病気なのもしゃくに触つた。遊びは三十を過ぎても慢性になつて続いて行くうちに、三十七の歳に養父は歿くなる。紙屋の店を継いではじめて商売を手がけてみた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ちょうど母が歿くなる前年、店の商用を抱えた私は、——御承知の通り私の店は綿糸の方をやっていますから、新潟界隈にいがたかいわいを廻って歩きましたが、その時田原町の母の家の隣に住んでいた袋物屋ふくろものや
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「皆さん、あなた方のお友達でありました石井茂男君が、お気の毒にも、一昨日の日曜に、歿くなりました」
天長節の式場 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたくしの実家の父が歿くなってから四月はつ。わたくしのこころは、葬儀以後、三十五日、四十九日、百ヶ日と過ぐるにつれ、薄らぐともなく歎きは薄らいで行った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三浦の親は何でも下谷したやあたりの大地主で、彼が仏蘭西フランスへ渡ると同時に、二人とも前後して歿くなったとか云う事でしたから、その一人息子だった彼は、当時もう相当な資産家になっていたのでしょう。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ほんとに思いがけない。萩原さまは、お歿くなり遊ばしたと云うことを伺っていたものでございますから」
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
歿くなった父親の態度を見よう見真似で子供の時からやって居る自分の商い振りが、どんなに大ふうなものか全然意識しないではなかったが、いま他人の感じに写った印象が
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おんなはまた父が歿くなって一家が離散したので、金蓮と二人で月湖げっこの西に僑居かりずまいをしているものだとも云った。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主婦は歿くなりでもしたと見え食事中も世話は娘のカテリイヌが焼いていた。新吉は此のカテリイヌのなかにもおみちを探そうとしてあべこべの違った魅力で射すくめられた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
杭州城内過軍橋かぐんきょう黒珠巷こくじゅこうと云う所に許宣きょせんというわかい男があったが、それは小さい時に両親を歿くして、あねの縁づいている李仁りじんと云う官吏の許に世話になっていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おやじはり行く家に、必死と若さを欲していたのだ。あれほど愛していたおまえのお母さんが歿くなって間もなく、いくら人に勧められたからとて、聖人と渾名あだなされるほどの人間がぐ若い後妻を
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこへ土地の者がかけつけて来て火を消し、来宮様を御殿へ伴れて往っていろいろ介抱したが、火傷やけどがひどかったので、それがためにとうとう歿くなってしまった。
火傷した神様 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
新吉の留守中両親も歿くなったあとの店を一人で預って
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その時呉侍御ごじぎょという者があって、美しいむすめを持っていたが、二度も許婚いいなずけをして結婚しないうちに夫になる人が歿くなったので、十九になっても、まだ嫁入しなかった。
陸判 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は顔を壁の方に向けたままで歿くなってしまった。源は棺桶を買ってきて泣き泣き女の死骸を中に納めて送り出そうとしたが、棺は空の時の重さと少しも変らなかった。
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)