暗闇やみ)” の例文
うぬ野狐、またせた。と得三室外へ躍出づれば、ぱっと遁出にげだす人影あり。廊下の暗闇やみに姿を隠してまた——得三をぞ呼んだりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もし当人が秘密にして姑息な方法で治そうとしていたら、可哀想に一生を暗闇やみに葬らなくてはならないのでした。恐しいことです。
それからその暗闇やみを手探りで、あちらこちら這い廻ったが、どこに行っても木材に妨げられて行どまってしまう。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
貴下も神につかえる身でありながら、まだ生れないにしても、一つの生霊せいれいみずから手を下して暗闇やみから暗闇やみにやってしまうなんて、残酷な方! ああ、人殺し……
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「煩いツ!」樽野は暗闇やみの中で突然ラツパのやうに怒鳴つた。「贅沢な愚痴を滾すな、馬鹿野郎! 理学士! 貴様ばかりが星の仕事をしてゐるんぢやないぞ!」
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
もう今夜で三晩、かれらは暗闇やみの中に立って、かつてコエルが女王マカとその美しい都を讃美した唄を、王城の前でうたっております。おききなさいませ! 今うたっております。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
お蔦 えゝ、そりや、世間は暗闇やみでも構ひませんわ、うせ日蔭の身体ですもの……。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
暗闇やみの中で見えるか、見えないかが確かめて見とう御座いましたので……あの惨劇の晩は一片の雲も無い晴れ渡った暗夜やみよで御座いましたが、その翌る晩から曇り空や雨天が続きまして
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
世界は暗闇やみだと——そして光明だと指は鍵盤けんばんを走る……
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
濃い暗闇やみのなかに墨絵で描いた松が一本。
早瀬 何という事はない、が、月を見な、時々雲もかかるだろう。星ほどにも無い人間だ。ふっと暗闇やみにもなろうじゃないか。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてドアに手をかけると、グッと手前へ開いた。そこには外面とのも黒手くろてのような暗闇やみばかりが眼にうつった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
以下「月を見な、時々雲も懸るだらう。星ほどにも無い人聞だ。ふつと暗闇やみにも成らうぢやないか。」の「そりや褄を取つてりや、鬼が来ても可いけれども、今ぢや按摩も可恐いんだもの」
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
雖然けれども曳惱ひきなやんで、ともすれば向風むかひかぜ押戻おしもどされさうにる。暗闇やみおほいなるふちごとし。……前途ゆくさき覺束おぼつかなさ。うやら九時くじのにひさうにおもはれぬ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そういって帆村は立上ると、入口のドアをあけた、が、其処には老人の姿は見えなかった。向うを見ると、爬虫館の出入口が人の身体が通れるほどの広さにあき、その外に真黒な暗闇やみがあった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
月は晴れても心は暗闇やみだ。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
底へ下りると、激流の巌から巌へ、中洲の大巌で一度中絶えがして、板ばかりの橋が飛々とびとびに、一煽ひとあおり飜って落つる白波のすぐ下流は、たちまち、白昼も暗闇やみを包んだ釜ヶ淵なのである。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君は窓外の暗闇やみに何かパッと光ったものを認めなかったかい」
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
れると、意氣地いくぢはない。そのとりより一層いつそうものすごい、暗闇やみつばさおほはれて、いまともしびかげいきひそめる。つばさの、時々とき/″\どツとうごくとともに、大地だいち幾度いくどもぴり/\とれるのであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
バスケツトともはず外套ぐわいたうにあたゝめたのを取出とりだして、所帶持しよたいもちくるしくつてもこゝらが重寶ちようはうの、おかゝのでんぶのふたものをけて、さあ、るぞ! トンネルの暗闇やみ彗星はうきぼしでもろと
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おほみそかは大薩摩おほざつまの、ものすごくもまた可恐おそろしき、荒海あらうみ暗闇やみのあやかしより、山寺やまでらがく魍魎まうりやういたるまで、みぞれつてこほりつゝ、としたてくといへども、巖間いはまみづさゝやきて、川端かはばた辻占つじうら
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
垂々だらりと見せた立膝で、長火鉢の前にさしむかいになった形を、世に有るものとも思わなかった、地獄の絵かとながめながら、涙の暗闇やみのみだれ髪、はらはらとかかる白い手の、つかんだこぶし俯伏うつぶせに
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欄干も、屋根も、はっと消えて、蒔絵も星も真の暗闇やみ
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月は晴れても心は暗闇やみだ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真夏の夜の暗闇やみである。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)