この)” の例文
月々丑松から送る金の中からすきな地酒を買ふといふことが、何よりのこの牧夫のたのしみ。労苦も寂寥さびしさも其の為に忘れると言つて居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
又根気のあらん限り著書飜訳ほんやくの事をつとめて、万が一にもこのたみを文明に導くの僥倖ぎょうこうもあらんかと、便り少なくも独り身構えした事である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
されど是れ皆なほ人界の美のみ。伊太利は天國なり、淨土なり。かへす/″\も嬉しきは再びこの土に來しことぞと云ふ。
兎角とかく後難こうなんおそろしさに否だと申て立去たちさらんと致せし時この大事を見られた上はいかして置れぬ言ことをきかずばいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
音なくして音を聴くべく、色なくして色を観るべし。此の如くして得来る者、必ず斬新ざんしん奇警きけい人を驚かすに足る者あり。俳句界においてこの人を求むるに蕪村一人あり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
然しこのまずしい小さな野の村では、昔から盆踊ぼんおどりと云うものを知らぬ。一年中で一番好い水々みずみずしい大きな月があがっても、其れは断片的きれぎれに若者の歌をそそるばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この時代に於てこの着眼はすこぶる聡明であると云わねばならぬ。が、彼の企画くわだては不幸にも失敗に終った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其上そのうへ參禪さんぜん鼓舞こぶするためか、古來こらいからこのみちくるしんだひと閲歴譚えつれきだんなどぜて一段いちだん精彩せいさいけるのがれいであつた。此日このひそのとほりであつたが或所あるところると、突然とつぜん語調ごてうあらためて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
惟うに、これ余一人の冀望なるに止まらず、恩人隈公・校長・議員・幹事及び講師諸君も、ひとしくこの冀望をいだき、共に本校の独立をねがい、共に他の干渉を受けざるを望むならん。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
たとえば法隆寺の壁画は焼けてしまったし、この集の法輪寺にかいてある三重塔も、昭和十九年雷火のため焼失して今はない。新薬師寺の香薬師像は盗難に遭ったまま、今もって発見されない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
このひと おこからず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よしや日は西から出て東へ入る時があらうとも、この志ばかりは堅くつて変るな。行け、戦へ、身を立てよ——父の精神はそこに在つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
れが出来ればこのみちめに誠に有益な事で、私もおおいに喜びますが、果して出来るか出来ないか、私はただしずかにして見て居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
農をこの土からかの土に移すのは、霊魂の宿換やどがえを命ずるのである。其多くは死ぬるのである。農も死なゝければならぬ場合はある。然しそれ軽々かるがるしく断ずべき事ではない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
われは進みてポンテ、リアルトオに到りて、いよ/\この土の風俗を知りぬ。ヱネチアは大いなる悲哀の郷なり、我主觀の好き對象なり。而して此郷の水の上にうかべること、古のノアの舟と同じ。
もうけ當年十七歳に成候是と申も皆貴殿の御厚恩ごこうおんなれば一度は御禮の書状も差上度さしあげたく心得候へども世間へ憚りあるゆゑそれかなはず只々明暮あけくれおもくらし居るにのみに御座候處先づは御揃おそろひ遊ばし御機嫌ごきげんよき御樣子大悦に存じ奉つるとは申ものゝ大橋氏には如何してこの御體ごていたらくに候や存ぜぬこととは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
持主は又附加つけたして、この種牛の肉の売代うりしろを分けて、亡くなつた牧夫の追善に供へたいから、せめて其で仏の心を慰めて呉れといふことを話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おのれを以て人を推せば、先祖代々土の人たる農其人の土に対する感情も、其一端いったんうかがうことが出来る。この執着しゅうちゃくの意味を多少とも解し得るかぎを得たのは、田舎住居の御蔭おかげである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)