擡頭たいとう)” の例文
ABCの友とは何であったか? 外見は子供の教育を目的としていたものであるが、実際は人間の擡頭たいとうを目的としていたものである。
嶄然ざんぜん、自己の位置が、ここまで擡頭たいとうして来ると、次には必然な——家康との対立がいまは避け難いものとして予想されていたのである。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
個人の意識が擡頭たいとうしてから歴史はすでに数世紀を経ました。藝術の領域では文藝復興期に始まり、哲学ではデカルトに起ったと云われます。
民芸の性質 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その内に、白井喬二が、大衆文芸という名称を口にし、同氏が擡頭たいとうすると同時に、この名称が一般化して、今日の如く通用する事になった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
だが、印度棉の勢力の擡頭たいとうは、東洋に於ける英国の擡頭と同様だった。やがて、東洋の通貨の支配力は、完全に英国銀行の手に落ちるであろう。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
満洲まんしゅう事変以来擡頭たいとうし来れるファッシズムに対して、若し〔軍部〕にその人あらば、つとに英断を以て抑止すべきであった。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
この大邸宅は、付近で榎御殿えのきごてんと呼ばれていたが、そこの主人公は戦後擡頭たいとうした製薬会社の社長で、まだ四十そこそこの毛利幾造という億万長者であった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
倫理に於いても、新しい形の個人主義の擡頭たいとうしているこの現実を直視し、肯定するところにわれらの生き方があるかも知れぬと思案することも必要かと思われる。
新しい形の個人主義 (新字新仮名) / 太宰治(著)
早雲と同じころに擡頭たいとうした越前の朝倉敏景も注目すべき英雄である。朝倉氏はもと斯波しば氏の部将にすぎなかったが、応仁の乱の際に自立して越前の守護になった。
薫の心は宇治の宮で老女がほのめかした話からまた古い疑問が擡頭たいとうしていて、人生が悲しく見えてならないこのごろであったから、美しい感じを受けたことにも
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
養父の宗十郎はこの頃擡頭たいとうした古典復活の気運にそそられて、再び荻江節の師匠に戻りたがり、四十年振りだという述懐じゅっかい前触まえぶれにして三味線しゃみせんのばちを取り上げた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つて諸将の上席であった自分も、この有様だと、ついには一田舎諸侯に過ぎなくなるであろう、——秀吉の擡頭たいとうに不満なる者は次第に勝家を中心に集ることになる。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その男は百メエトルの満野でした。かつて吉岡が擡頭たいとうするまでの名スプリンタアではありましたが今度のオリムピックには成績も悪く、いまは凋落ちょうらく一途いっとにあったようです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そしてヤナツが主張するように類人猿から猿人、猿人から人類、その次に人類から高等人類すなわちヤナツなどの微小人間の擡頭たいとうすることを認めないわけにはいかなくなった。
しかるにいかにその驚き大なりしとはいえ、七日七夜地に坐して一語をも発しなかったというのは、彼らの心に同情のほかに右の疑が擡頭たいとうしていた事を示すものであると思う。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
現在擡頭たいとうしつつある無産階級の運動でもそうである。それが都会人、殊に東京人の指導下にある間は、将来、結局無価値なものとなりはしまいかと憂慮される余地が十分にある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
貴婦人の社交もひろまり、その他女性の擡頭たいとうの機運は盛んになったとはいえ、女学生スタイルが花柳人かりゅうじん跳梁ちょうりょう駆逐くちくしたとはいえ、それは新しく起った職業婦人美とともに大正期に属して
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
本能寺に亡びた信長のあとを受けて秀吉がめざましく擡頭たいとうしてきた、戦えば破り攻むれば必ず降し、しだいに諸国をおのれの手に収めたうえ、天正十四年にはついに太政大臣に任ぜられて
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
新参者である玉井金五郎の擡頭たいとうを快く思わず、そっぽを向く者があった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
時代は混沌こんとんとして来た。彦根ひこねと水戸とが互いに傷ついてからは、薩州のような雄藩ゆうはん擡頭たいとうとなった。関ヶ原の敗戦以来、隠忍に隠忍を続けて来た長州藩がこの形勢を黙ってみているはずもない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
第二の階級は放逐されるか嫌疑けんぎを受くるかしていた。第三の階級は勝利に飽いて眠っていた。そして今や、脅威的な排他的な姿で擡頭たいとうしてきた第四の階級は、屈服させるのにまだ困難ではなかった。
人のいやがる言葉を掲げて、一方には女子を威嚇いかくしてその新しい擡頭たいとうを抑えようとし、一方には社会の聡明な判断をき乱して、女子解放運動に同情を失わしめようとする卑劣千万な論法であるように
「女らしさ」とは何か (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それを彗星すいせいの如く出でて突如挫折ざせつを加えたものが孔明であった。また、着々と擡頭たいとうして来た彼の天下三分策の動向だった。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが今日のように国民の意識が擡頭たいとうして来ると、固有性の弱い都市文化では、力がないことが分る。振り返るとそこには日本性の退歩が著しいのを感じる。
樺細工の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そうして、より以上にますます喜ぶロシアの顔が。——レセ・フェールの顛落てんらくとマルキシズムの擡頭たいとう
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「だが、今度の、マルクス文学擡頭たいとうの気勢は前例のものより、かなり風勢が強いらしいですよ。」
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貴婦人の社交もひろまり、女子擡頭たいとうの気運は盛んになったとはいえ、そしてまた、女学生スタイルが、追々に花柳界人の跳梁ちょうりょう駆逐くちくしたとはいえ、それは、大正の今日にかかるかけはしであって
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
純文芸の復興や、卑猥ひわい小説の擡頭たいとうなどの計画とともに、十把一からげの有様で、ついに科学小説時代の件もがらがらと崩れてしまったのである。これでは本質的には何とも説明のつけようがない。
それよりは従来の方針を一変し、大いに破約攘夷を唱うべきことを藩主に説き勧めるためであった。雄藩擡頭たいとうの時機が到ったことは、長いことその機会を待っていた長州人士を雀躍こおどりさせたからで。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家康が、秀吉のこの旭日昇天のごとき擡頭たいとうを、果たして、どうているかは、大きな疑問的存在としなければならない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
云うまでもなく、その頃から資本制度が擡頭たいとうしてきたのである。西洋でいうならば、新しいその制度の闖入ちんにゅうによって、あの輝かしい「中世」という工藝時代は去った。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
時代がせる業か、生活が做さしめる業か、いまこれを言う必要もあるまい。たゞ、一つの時代の擡頭たいとうするとき人間には野獣的精力があり、時代が終る頃は慾天的に浮游する。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この上は、家康を押し出して、秀吉の擡頭たいとうを抑えようとはかったのは、彼として、当然に考え至る帰着点であった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美を実用の彼岸ひがんに封じた在来の思想は、本質的動揺をこれによって受けるであろう。まして民衆の意義が擡頭たいとうして来た今日、個人的美術の概念は一変動期に迫っている。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
墨子の流れを汲む世界的愛他主義が流行はやるかと思えば一方楊朱の一派は個人主義的享楽主義を高唱した。変ったものには「白馬、馬にあらず」の詞で知られて居る公孫龍一派の詭弁きべん派の擡頭たいとうがあった。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いや全面的に、織田との離反を「交渉手切れ」ととなえて、叛旗はんきをひるがえし、城内の毛利加担勢力の急激な擡頭たいとうまかせて、ふたたび協力を芸州吉田の毛利輝元へ申し送った。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
権力けんりょくや栄花に妄執もうしゅうした貴族心理は、われら庶民の理解には、遠すぎて、えんなきもののようですが、次に、地下ちげから擡頭たいとうした新興勢力の平家一門も、また源氏の野人も、次々に
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「新・平家物語」は、古典平家物語にはっていない。が、だいたい、伊勢平氏忠盛と、子の清盛の逆境時代に、起筆しました。いやしめられていた地下人ちげびと階級の擡頭たいとうが、始まりです。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といわぬばかりに擡頭たいとうしてきた一勢力がある。宦人かんじん黄皓こうこうを中心とする者どもである。皓は日頃から帝の寵愛を鼻にかけていたが、政治に容喙ようかいし始めたのは、このときからである。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五丈原以後——「孔明ハカリゴトノコシテ魏延ヲ斬ラシム」の桟道さんどう焼打ちのことからなお続いて、魏帝曹叡そうえいの栄華期と乱行らんぎょうぶりを描き、司馬父子の擡頭たいとうから、呉の推移、蜀破滅、そして遂に
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉の一将校時代からずいぶん意地悪くその擡頭たいとうを邪魔したこともあるからである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西山せいざんへ隠居すると、むしろの下のもやしが陽の目をみたように、にわかに萌芽ほうがをそだて出して、わが世の春と、事々に、その一派の擡頭たいとうと、闇のうごきが、目立ってきたのもぜひなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、ここに、当然、彼の擡頭たいとうをあまりよろこばない一部の気運もかもされてきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平然たる容子ようすを示していたが、ひそかに、派遣軍の少数に不安を抱いて、毛利軍の強大とそれを比較し、ふたたび去就きょしゅうに迷う風が、地付じつきの諸士のあいだに擡頭たいとうして来たのはぜひもなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにしても、秀吉の擡頭たいとうは、譜代ふだいの宿将とこのときに肩を並べてしまった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)