折敷おしき)” の例文
朝食でもあろう、折敷おしきに載せた数々の食物が置いてある。そして給仕の女と見えて美しい娘がその前にじっと行儀よく坐っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
座の一隅にはひくい脚を打った大きな折敷おしき柳樽やなぎだる置かれてあった。客が従者じゅうしゃに吊らせて来て此処へおくったものに相違無い。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
潮風で漆のからびた、板昆布いたこぶを折ったような、折敷おしきにのせて、カタリと櫃を押遣おしやって、立てていたかかとを下へ、直ぐに出て来た。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折敷おしきには乾肴ほしざかな、鶴くびの一壺には冷酒。あれこれのぜいはなくても陣中の小閑を楽しむには充分である。——まして皎々こうこう一輪の月は頭上にある。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう大人おとなびた御挨拶あいさつをした。じんの木の四つの折敷おしきに若菜を形式的にだけ少し盛って出した。院は杯をお取りになって
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
食事をするにも贅沢ぜいたくうつわを用いず、土器かわらけに盛って、台などもなしに、折敷おしきに載せてかに畳の上に置いた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
折敷おしきの下物を手づかみで食い、夜の更けるまで調子をはずした妙な飲みかたをしていたが、夜半近く、杯を投げだすと、そこへ酔い倒れてすさまじい鼾をかきだした。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田打男の人形を折敷おしきに載せ、小さな木の棒でその底をたたくのが習わしで、パカパカはその音から出た名称であったようだ。小湊などでも女の児は家々に入ってきて
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
間もなく方丈では主客うちくつろいでの四方山よもやまの話がはじまった。点火あかりもわざと暗くした風情ふぜいの中に、おのおのぜんについた。いずれも草庵そうあん相応な黒漆くろうるしを塗った折敷おしきである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで折敷おしきへ穴をあけて、それを提のふたにして、その穴から鼻を湯の中へ入れる事にした。鼻だけはこの熱い湯の中へひたしても、少しも熱くないのである。しばらくすると弟子の僧が云った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かみは、すこし微醺びくんを帯びたまま、郡司ぐんじが雪深いこしに下っている息子の自慢話などをしているのをききながら、折敷おしきや菓子などを運んでくる男女の下衆げすたちのなかに、一人の小がらな女に目をとめて
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ことごとく歌よみいでし顔を見てやをら晩食ゆうげ折敷おしきならぶる
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
もの買に折敷おしきをかぶるあられかな 燕流
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しかも、飲んで飲んで飲み飽いたという風に、杯盤や、肴の折敷おしきを、みぎたなく、散らかしたまま、のうのうと、手枕で、横になっているのだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父宮へも浅香木の折敷おしき高坏たかつきなどに料理、ふずく(麺類めんるい)などが奉られたのである。女房たちは重詰めの料理のほかに、かご入りの菓子三十が添えて出された。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私は何かの道中記の挿絵に、土手のすすき野茨のばらの実がこぼれた中に、折敷おしきに栗を塩尻に積んで三つばかり。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
定めしげんがあるであろうな、ためしに此の粥を観じて見せよ、と云うと、男は折敷おしきを取って粥の上にふたをして、暫時ざんじ眼を閉じて観念を凝らしていたが、やがて蓋を開けると
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして生のままですぐに折敷おしきの上に取るのだから、巧みを加えずとも自然に御鏡おかがみの形に成るのだが、今日の生活においては、それだけのものを出来上った食物と言えるかどうかが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
家の中には、下衆女げすおんな阿濃あこぎのほかに、たれもいない。やがて、しとみをおろす。結び燈台へ火をつける。そうして、あの何畳かの畳の上に、折敷おしき高坏たかつきを、所狭く置きならべて、二人ぎりの小酒盛こざかもりをする。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてしょくを運んできた社家の者に、酒をさいそくしていた。ふたりの前には、まもなく、酒瓶しゅへい折敷おしきが供えられた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘の色の白妙しろたえに、折敷おしきの餅はしぶながら、五ツ、茶の花のように咲いた。が、私はやっぱり腹が痛んだ。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明石の尼君の分も浅香の折敷おしきにび色の紙を敷いて精進物で、院の御家族並みに運ばれるのを見ては
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
ながまさ公のお首も、あさくら義景どのゝお首といっしょに、肉をさらし取って朱塗りにあそばされ、よくねんの正月、それを折敷おしきにすえてさんがの大名しゅうへおさかなに出されました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして主屋おもやの中央の部屋には、型のごとく、出陣の式のカチ栗や昆布こぶ折敷おしきに、神酒みき土器かわらけなども運ばれていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こちらの豊後介は幕の所へ来て、食事なのであろう、自身で折敷おしきを持って言っていた。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と小さな丸髷まげを、ほくほくもの、折敷おしきの上へ小綺麗に取ってくれる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほどなく盛高の家来が、折敷おしきのさかなや酒の銚子をはこんで来た。酒を呼ぶときのほかは、人を遠ざけ、半夜はまったく軒の月と、ここの二人だけだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御前へ女二にょにみやのほうから粉熟ふずくが奉られた。じんの木の折敷おしきが四つ、紫檀したん高坏たかつき、藤色の村濃むらご打敷うちしきには同じ花の折り枝が刺繍ぬいで出してあった。銀の陽器ようき瑠璃るりさかずき瓶子へいし紺瑠璃こんるりであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言い、折敷おしきに載せた物をいろいろ運び入れた。菓子を近くへ持って来て
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
広やかにむしろが敷きのべてあったからだ。しかも各〻の坐るべきところには、白木の折敷おしきと杯とが備えてある。膳部の折敷には、ちょうど出陣か勝軍かちいくさことほぐ時のように、昆布こんぶと栗などが乗っていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六条院の各夫人から産室への見舞い品、祝品はさまざまに意匠の凝らされたものであった。折敷おしき衝重ついがさね高杯たかつきなどの作らせようにも皆それぞれの個性が見えた。五日の夜には中宮ちゅうぐうのお産養うぶやしないがあった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
勝栗かちぐりやら、昆布こんぶやら、折敷おしきにはめでたいものが盛ってあった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅香せんこうの木の折敷おしき二つに菓子と杯を載せて御簾みすから出された。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
喜兵衛は、白木の折敷おしきに肴を取り分けて
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)