)” の例文
とお筆でさえも、上気したかのように、そこまで語り続けたとき、彼女はいきなり言葉をち切って、せつなそうな吐息を一つ洩らした。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
だから、この屋根の下の暮しが、いつかぷつりとち切られる時のことは、それに脅かされながらも、どう想像していいのかわからなかった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
坂上大嬢さかのうえのおおいらつめに贈ったのに、「夜のほどろ出でつつ来らく遍多数たびまねくなれば吾が胸く如し」(巻四・七五五)というがあり
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
異日、印を奪わん為、洛陽の帰途をち、公を苦しめたるものは袁紹えんしょう謀事はかりごとなり。今また、劉表と議し、江東を襲って、公の地をかすめんとくわだつ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すっぽんに絹の端をくわえさせておいて、首の伸びたところをその付け根からち落とし、続いて甲羅を剥いでゆくのは、当たっていないのである。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
背を平らにって、深きくれないに金髪を一面にわせたような模様がある。堅き真鍮版しんちゅうばんに、どっかとクロースの目をつぶして、重たきはく楯形たてがたに置いたのがある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
皀莢小路の大助の別宅から、暑さをち切るかのように蕭索しょうさくと横笛の音が聞えていた。吹いているのは藤尾である。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
途中横一文字に雪渓をち割った二つの大きな断裂が望まれた、この裂目がある為に道が造られたものらしい。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
また方面によっては、二合目位から以下に、雪が及んでいないのは、それも実際雪がないからではなく、森林帯の黒木のためにち切られているからである。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
夏の夜店で見るから涼しげなものは西瓜すいかち売りである。衛生上の見地からは別に説明する人があろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
したがって支那にも『淮南子』に神蛇自らその尾を断ち自ら相続あいつぐ、その怒りに触ればすなわち自ら断つ事刀もてつごとし、怒り定まれば相就あいついてもとのごとし。
ついに肩のあたり頸筋くびすじのあたり、梅も桜もこの君の肉付にくづきの美しきをおおいて誇るべき程の美しさあるべきやとおとし切り落し、むっちりとして愛らしき乳首、これを隠す菊の花
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸をち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
木と紙と布とに使い分けする強さの違ったそれぞれののりを入れる三つに仕切ってあるつぼだの、それからまた、厚紙を切るち包丁、形を取る型、鉄をうちつける金槌かなづち、ピンセット
次には、その中間の鼻梁びりょうを、奥の方の粘膜が見える処までガリガリとち割りました。それから唇の両端を耳の近くまで切り裂いて、咽頭が露われるまでガックリと下顎を引卸しました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
飛簷ひえん傑閣隙間なく立ち並びて、そのくもりなきこと珠玉の如く、その光あること金銀の如く、紫雲棚引き星月かゝれり。にこの一幅の畫圖の美しさは、譬へば長虹をちてこれをいろどりたる如し。
死骸の料理 まずその死人の腹をち割るです。そうして腸を出してしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ち切るや刷るただちを香に澄みて百円紙幣しへい手も切れぬべし
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
会得截流那一句(流れをつのの一句を会得えとくせば)
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さて、騎西家の人達は、そのようにして文明からち切られ、それから二年余りも、今日まで隠遁いんとんを破ろうとはしなかった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのいずれの一瞬間をち切ってもその断面は長い全部を代表する事ができる、語を換えて云えば、十年二十年の状態を一瞬の間につづめたもの、煮つめたもの
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし肝腎かんじんの熊のがどれであるか判らないので、三人は当惑した。腹をち割ったら知れるだろうぐらいに多寡をくくっていた彼等は、今更のように途方にくれた。
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支配する怖ろしい王さまででもあるように、蜿蜒と深谷を屏風立にち切っている、そうして肩から雲を吐く、雲は梢に支えられて、離れ離れではあるが、私たちの頭へと
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
世界はぎ澄まされて、甘美に揺れ動くのだろうか。静かな慰藉いしゃに似たものがかすかに訪れて来たようだった。……だが、そうした時間もたちまちサイレンの音でち切られていた。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
北には小窓の頭が四、五十米もあろうと思われる将棊しょうぎの駒を幾つか横に並べ、それを真二つにち割ったような背面を谷の向う側に見せて、凄まじい赭色の大峭壁を懸けつらねている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
広袖ひろそでのセルの上衣、毛糸の大きな面紗かおぎぬ、胸の上に四角にたれて頥まできてる胸当て、目の所まで下ってる頭被、そういうのが彼女らの服装である。すべて黒であるがただ頭被だけは白である。
王命じて車を御せしめ王宮に還り御者の罪を議するに、まず手足をちて後殺すべしの、その皮を生剥ぎにすべしの、火であぶった矢で射るべしのと諸大臣が申す。王この御者は長生王の太子なり。
それであるから、仔鹿かよの形は、ちょうど置燈籠を、半分からち割ったようであって、いくぶんそれが、陰惨な色調を救っているように思えた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
尼僧は赤裸あかはだかになって、手には鋭利らしい刀を持っていた。彼女はその刀をふるって、まず自分の腹をち割って臓腑をつかみ出し、さらに自分の首を切り、手足を切った。
彼の思索は突然ち切られた。彼は苦い顔をしてへやの入口に手を突いた下女げじょの方を顧みた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが長くつながって、日をち切ったかと思うとき、異常な光がチラリと岩角に落ちた、ふと見上げると、円い虹のようなものが、虚空の中に二輪も、三輪も結ばれた、その輪の中に
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
その二番目と三番目との間をち割れば、当然二つの小節に、不自然でなく分けることが出来るからなんだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
柘榴ざくろち割ったように真っ二つに裂けた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ですから、その全体が、たかの字を半分からち割ったように思われて、いまでは十四郎が、どうしても遇うことのできない、高代という女の名が連想されてきたのでした。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と法水は、そこでちょっと言葉をち切ったが、一つ大きな呼吸をすると云った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのおり、海は湧き立ち泡立って、その人たちにあらんかぎりの威嚇いかくあびせた。けあとの高いうねりが、岬の鼻に打衝ぶつかると、そこの稜角で真っ二つにち切られ、ヒュッと喚声をあげる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
四百年の昔に、千々石ちぢわ清左衛門がフィリップ二世から拝領したという梯状琴クラヴィ・チェンバロは、その後所在を誰一人知る者がなかったのだよ。たぶんあの音は、たれたいとが、震動でふるえ鳴ったのだろう——。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)