かな)” の例文
孤独な国の、一人々々は、釘づけになつてゐるやうなものだと考へる。如何なる戦争も、やぶれてこそ、かなしく哀れでもあると思へた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
水仙と寒菊の影、現なくうつらふ観れば現なし、さびしかりけり。近々と啼き翔る鵯、遠々とひびく浪の。誰か世を常なしと云ふ、久しともかなしともへ。
その上、若さも言いようのないものであるのに、どれもかなしく、二人ともそのまま心にしまって置きたかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かなしき足跡と見ないものは仕方もないが、苟しくもそれを人間生活史の一部として見る時、各自はいづれも其各々の一頁を、要求しうる権利を持つものである。
「私」小説と「心境」小説 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「昨日こそ年はてしか春霞春日の山にはや立ちにけり」(巻十・一八四三)、「筑波根に雪かも降らる否をかもかなしき児ろがにぬほさるかも」(巻十四・三三五一)。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
けれど正成のわずらいは、人以上に世がかなしまれ世の行方や人心がえるところにあった。智恵学問から持っていたものでなく、天性の彼の感受性といってよい。——たとえばである。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白翼の鳥となって永遠の空にかなしくもなつかしい鳴声を断たぬであろう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日はわたしは皆に別れて独り千曲川の上流へと歩み入るべき日であつたが、「わが若草の妻しかなし」とばかり言ひ張つてゐる重田君の宅を布施村に訪うてそのわか草の新妻の君を見る事になつた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
いとけなきわれをすずろにかなしみしおほちちのとしいまこえむとす
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
しのびこしそのかなしきをに立てていを寝んものか母は知るとも
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
身に淋しきことのあるいまにのりて啼く文鳥の啼くをかなしむ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
鳰鳥におどりの葛飾早稲わせにえすとも、そのかなしきを、に立てめやも
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
かなしけく ここに思ひ
水仙と寒菊の影、現なくうつらふ観れば、現なし、さびしかりけり。近々ちかぢかと啼き翔る鵯、遠々とほどほとひびく浪の。誰か世を常なしと云ふ、久しともかなしともへ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
美しい東京の街も、この數ヶ月の激しい變化で根こそぎ變つてしまひ、あの見果てぬ夢のやうな、かなしい都會のいとなみが、もう何も彼もみぢんにくだかれてしまつた。
なぐさめ (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
垣越くへごしに麦小馬こうまのはつはつに相見し児らしあやにかなしも」(同・三五三七)等の例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
筑波に、雪かも降らる、否諾いなをかも、かなしき児等が、布乾にぬほさるかも
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そそらるる絵心かな金網あみ洩るる陽がフリージャの花にさしきて
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
こういうかなしい時に誰の智恵をかりたらいいものだろうか。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
み眼清くきれ長くます。やさしきはつまにのみかは、その子らに、その子の子らに、なべてかなしく白髮しらがづく母。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
然るに、巻十四、東歌あずまうたの挽歌の個処に、「かなし妹を何処いづち行かめと山菅やますげ背向そがひ宿しく今し悔しも」(三五七七)というのがあり、二つ共似ているが、巻七の方が優っている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
かつて知らなかった男の杳々ようようとした思いが、どんなに私をなみだっぽくかなしくした事であろう。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
つつましさ見るにかなしくりんだうの君が差入れ好しと見て更く
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
遠稲妻とほいなづまそらのいづこぞうちひそみこの夜桜よざくらのもだしかなしも
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
み眼清くきれ長くます。やさしきはつまにのみかは、その子らに、その子の子らに、なべてかなしく白髪しらがづく母。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
杉の樹に紅きあぶらのみづるををさなごの時のごとくかなしむ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひともとの桜のみきにつながれし若駒わかごまのうるめるかな
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しろがねの恩賜の時計、かしこむやその子秘めにき。秒かず死ぬまででぬ。子が死にてかなしき時計、形見よと、父は後愛あとめで、命よと、いとほしと、日も夜も持ちき。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひとをかなしとおもふ心のきはまりて吾にことつげし友をぞおもふ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かやの木にかやの実のり、榧の実はれてこぼれぬ。こぼれたる拾ひて見れば、露じもに凍てし榧の実、とがり実のかな銃弾つつだま、みどり児がつむりにも似つ、わが抱ける子の。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わが家の狭き中庭なかにはを照らしつつかげり行く光をかなしみにけり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ちよろろと光る水あり草深に田をめぐり来て月の夜かなし (旱天にて田は植ゑずじまひになりぬ)
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ちよろろと光る水あり草深に田をめぐり來て月の夜かなし旱天にて田は植ゑずじまひになりぬ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
揺れやすき母の寝息の耳につきてそがひには向けどかなし我が母よ (拾遺)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かなしけく親と子とゐて執る箸の朝のにすら笑ふすべなし (拾遺)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
涙共に下るこの声この子らぞかなしとはへ亦聴き難し (学生委員)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雪しろき山畑はかな雑木ざうきのさきちよぼちよぼと出てその実垂れたり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
地にころげここだ下凍したしむかやの実はかきさがすまもかなしかりけり
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この日ごろ野山にまじり人にまじり遊びほれてゐるそれがかなしも
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ねんねんに絵馬師が描けるかなし馬一つとしておなじ顔は無しもよ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おなじ作業ただに繰り返すのみなるをかなし機械や倦みもせなくに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そことなき春の蚊にすら聴くものはかなしかりけり若葉たをやぐ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ようをどるおのれかなしも笛つづみあやに囃せばいよいよ愛しも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ああ発電機ダイナモおほどかなれどおのづから澄みてかなしき声放つなり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さすらへば命に換ふるなにものも売りつくしけりそのかなしきを
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
聲呼ばふ墓地のかかりの夕餉ゆふげどき遊びあかねば子らはかなしも
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
声呼ばふ墓地のかかりの夕餉ゆふげどき遊びあかねば子らはかなしも
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
闇いとど春夜しゆんやかなしこの道のにほふかぎりを聞きて行くがね
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あなかなしここは日本やまとの青ヶ島つくづくと聴けば雀子がこゑ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
高山の雪に火縄の火のなとをがひのるはかなつまばかり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)