情婦おんな)” の例文
生家さとでは二三年のあいだ家を離れて、其方そっちこっち放浪して歩いていた兄が、情婦おんな死訣しにわかれて、最近にいた千葉の方から帰って来ていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
若旦那さまに幾ら辛くされようとも、もとの身分を考えれば何も云う処はございません、それは男の楽しみゆえ一人や二人情婦おんなの有るは当前あたりまえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ねえ、その男は、自分の情婦おんなを、若い男に失敬されちまったんだ。いや、おまけに、情婦というのが、若い男のたねを宿しちまった。いいですか。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遊女とかいう国助の一方の情婦おんなをこそ、この際、どれほど、深い仲なのか、正直に聞かしてもらおうではないか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやいや意見をするのではない。若いうちは遊ぶもよかろう。親父のようにかたくなでは、ろくな出世は出来ないからな。どうだ情婦おんなでも出来ているか」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の情婦おんなの頼みといい、内分にすれば纒まった金がふところにはいると聞いて、妹のかたきを取ろうという料簡も無しに素直に承知してしまったんです。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
で一年か二年もして、ネフスキイを新しい情婦おんなと手を組んで歩いているところを、君に見つかるとするね。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もちろんおのおの自分の情婦おんなを持っていた。ブラシュヴェルは、イギリスに行っていたことがあるのでファヴォリットと英語ふうに呼ばれている女を愛していた。
わたくし他所よそ情婦おんなをつくりましたのは、あれはホンの当座とうざ出来心できごころで、しんから可愛かわいいとおもっているのは、矢張やは永年ながねんって自家うち女房にょうぼうなのでございます……。
彼は友達も持たないし、情婦おんなが出来たこともなく、一人ぽっちで世の中をわたって来た男だ。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
破れた蛇目傘じゃのめで、見すぼらしい半纏はんてんで、意気にやつれた画師さんの細君が、男を寝取った情婦おんなとも言わず、お艶様——本妻が、そのていでは、情婦いろだって工面くめんは悪うございます。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吉原の情婦おんなにでも逢いに行く嫖客きゃくを乗せて行くものらしい。が、彼はそんなことにも気がつかなかった。にぎやかなくるわを横目に見ながら、そのまま暗い土手の上を歩きつづけた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「雪岡さん。あなたう好い情婦おんなが出来たんですってねえ。大層早く拵えてねえ。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
帰りのおそい浅井を待っているお増の耳に、美しい情婦おんなの笑い声が聞えたり、みだらな目つきをした、白い顔が浮んだりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
探険の結果、これは怨霊のほかに、理由がつかないと決定した夜のこと、旦那どのは、夜業やぎょうをしている情婦おんなのところへ行って、遂に引導いんどうの言葉を渡してきた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
春部は浮気をして情婦おんなを連れ逃げる身の上ではありますが、一体忠義の人でございますから、屋敷内に怪しい奴が忍び込むは盗賊か何だか分りませんから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな時にはご自慢の情婦おんな——お妻を褒めるに越したことはないと、唐子の音吉というお先ッ走りの乾児が
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、自分の情婦おんなの手に預けて、紛失なくしてしまったことを白状すると、渋沢は、案外こだわらなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たいていはおとこ情婦おんなができて夫婦仲ふうふなかわるくなり、嫉妬やきもちのあまりその情婦おんなのろころす、とったのがおおいようで、たまにはわたくしところへもそんなのがまれることもあります。
それは彼に一人の情婦おんながあったからだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
その男は非常に嫉妬しっと深いやつだったが、人一倍、利口な男なので、それと色には出さず、さまざまの苦心をして、情婦おんなをめぐる疑雲ぎうんについて、発見につとめた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
情婦おんなが出来たか出来ねえか、そんなことアいう必要はねえ、飽きたから別れようとこういうのだ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近ごろ浅井の入り浸っている情婦おんなの店の近所を、お増は一昨日おとといの晩も、長いあいだ往来ゆききしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこには宵の頃から、村名主と李鬼の情婦おんなが連れ立って、首尾いかにと待ちぬいていたのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんなことをったのはわたくし重畳ちょうじょうわるうございました。これにりまして、わたくし早速さっそく情婦おんなります……。あの大切たいせつ女房にょうぼうなれては、わたくしはもうこのきている甲斐かいがありませぬ……。
鏡台から剃刀かみそりを取り出して、咽喉のどに突き立てようとしたほど、絶望的な感情が激昂げっこうしていたが、後で入り込んで来る情婦おんなのことが、頭脳あたまひらめいて、後へ気が惹かされた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いいえ、おまえの手で縄目を解いて、この母の許へ返やせ。讒訴ざんそしたのはおまえら父娘おやこじゃ。そして知事さんの情婦おんなのおまえが解くならば、知事さんも怒れはしまい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍家にうとんぜられた。そこで将軍家をおびき出し、幽囚したか殺したか、どうかしたに相違ない。悪い奴だ、不忠者め! その上俺の情婦おんなを取り、うまいことをしやがった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お島はあの頃の山の生活と、二三度そこで交際つきあった兄の情婦おんなの身のうえなどを想い出させられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
心から惚れているのは、あのお喜代なのに、妻といい、情婦おんなといい、運の悪さを、心でかこった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
情婦おんなア連れてのイカサマ道中、見破れなくて街道筋の、稼ぎが出来ると思っているけエ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……なぜならばよ、知事は自分の情婦おんなを殺された怒りでかっとなったものの、知事にも世間への弱みがある。俺もそこを突いてやる。さあ、あとはいいから梁山泊へ突ッぱし
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小さい時からそうだった、海がおいらの情婦おんなだった。おれは夢にさえ見たものだ。ああ今だって夢に見るよ。山の風より海の風だ。力一杯働いて見てえ! そうだよ帆綱を握ってな。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
情婦おんなの流れて行っている、或山国の町の一つで、しばらく漂浪の生活を続けている兄の壮太郎そうたろうが、其処そこで商売に着手していた品物の仕入かたがた、仕事の手助てだすけにお島をつれに来たのはその夏の末であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分を討たずに自分の情婦おんなのお稲を、力ずくで、奪って去ったような男であるから——。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こいつが守勢、守勢になると、かえって命は守られぬ。……それよりも、守勢の弱気になると、ヒッヒッヒッ、情婦おんなにさえ、嘗められ裏切られてしまうのさ! ……そこでこいつだ積極的攻勢!」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その日情婦おんなから呼び出しが掛かった。若侍は出かけて行った。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「てめえの情婦おんなじゃねえか。まぬけめ!」
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妾の前に陣十郎には、情婦おんながあったのでござります。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
情婦おんなか』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(他に情婦おんなをこしらえやアがったな)
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)