従来これまで)” の例文
旧字:從來
わたしは病院の御厄介になると云ふ事を従来これまで経験しませなんだが、お産を病院ですると云ふ事は経済さへ許せば万事に都合がよい。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
停車場ステーションもいつの間にか改築される、山の手線の複線工事も大略あらまし出来上って、一月の十五日から客車の運転は従来これまでの三倍数になった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
従来これまでに無い難産なんざんで、産のが附いてから三日目みつかめ正午まひる、陰暦六月の暑い日盛ひざかりにひど逆児さかごで生れたのがあきらと云ふおそろしい重瞳ぢゆうどうの児であつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
もしか勝田氏が文字通りに従来これまで次官の積りで居たのだつたら、門衛の送り迎へに対して、何とか挨拶が無くてはなるまいと言ふのらしい。
従来これまで動機と犯罪現象とが、何人なんびとにも喰い違っていて、その二つを兼ねて証明された人物と云えば、かつて一人もなかったのだ。とにかく。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
諸君、僕は実に諸君に対する面目が無いです、——従来これまで僕は篠田先生に阿媚あびするとか、諂諛てんゆするとかツて、諸君の冷嘲熱罵を被つたですが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と、長田は自分の従来これまでの経験から割り出したことは確だと、いうように一寸首を傾けて、キッとした顔をしながら半分は独言のように言った。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
が、それはのみ珍しいことでも無い。安行が吉岡家を訪問して、半日ぐらい話し込んでいることは、従来これまでにも屡々しばしばあった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し、これだけの事で御座いますれば、主人も従来これまで勤労つとめに免じて、又どうにも勘弁は致してくれましたので御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「エッお梅さんが⁈」と村長は眼を開瞳みはった。そのはずで、梅子はほとんど富岡老人に従来これまで一言ひとことたりとも叱咤しかられたことはない。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「止むを得なかったからでございます。……それにあの時ばかりでなく、従来これまでもああだったのでございます」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其の日の活計くらしにも困るようになりましたから、私は従来これまでの恩がえしに、身を売りたいと思いましたが、義理堅い伯父故、知らしては許可ゆるしませんから、こっそり知人しりびとに相談しておりますと
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
井手ゐでかはづの干したのも珍らしくないからと、行平殿のござつた時、モウシ若様、わたし従来これまで見た事の無いのは業平なりひら朝臣あそんの歌枕、松風まつかぜ村雨むらさめ汐汲桶しほくみをけ、ヘマムシ入道の袈裟法衣けさころも小豆あづき大納言の小倉をぐらの色紙
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「お蔭できずなほつてからは、人間も一段と悧巧になり、従来これまでのやうに鬱々くさ/\しないで、その日その日をたのしむやうになつた。」
従来これまでのように男の方の小説を模倣する事をめ、世間に女らしく見せようとする矯飾の心をなげうって、自己の感情を練り、自己の観察を鋭くして
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
従来これまでも随分くどく申上げましたけれど、貴方は一図に私をおきらひ遊ばして、ちよつとでも私の申す事は取上げては下さらんのです——さやうで御座いませう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれども、それを従来これまでの例に徴してみると、法水が静かな凝想の中で、何か一つの結論に到達しようと試みているのではないかと、推測されるのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
酒のよいも醒め、ヒステリー的の発作もようやしずまった今の彼女かれは、所謂いわゆる「狐の落ちた人」のように、従来これまでの自分と現在の自分とは、何だか別人のようにも感じられた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
従来これまでも片時呑気なも無かつたのですけれど、まだ大崎でなら永い間土地の人に馴染なじみが有りましたから大抵の買物は借りて置けましたが此処こゝは何から何迄現金ですもの。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
女中部屋など従来これまで入ったことも無かったのであるが、見ると高窓が二尺ばかり開け放しになってるので、何心なく其処から首をひょいと出すと、直ぐ眼下に隣のお源が居て
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
従来これまでのやうに只だいやだばかりでは済みませんよ、相手が名に負ふ松島様で、大洞様の御手をての御縁談で御座いますから、奥様は大洞と山木の両家の浮沈にかゝはることだから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
従来これまでの彼ならこんな事は、夢にも思わなかったに相違ない。神聖なる悪病の持ち主の彼、たとえどこへ行こうとも、歓迎などはされないだろう。故郷とは惨酷の別名であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
社会上、思想上において英吉利が従来これまで伝統トラヂシヨンを維持してくにはエレン・ケイの所謂いはゆる、男二人女二人ではとて追付おつつくまい。
女の事は婦人の作家が書いたならばうまくその真相を写す事が出来るかと申すに、従来これまでの処ではまだ我国の女流作家の筆にそういう様子が見えません。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
事件の解決が下されたなどという神話めいたためしが、従来これまでにわずかそれらしい一つでもあったであろうか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いや、お気にさはりましたらおゆるし下さいまし。貴方とは従来これまで浸々しみじみお話を致した事もございませんで私といふ者はどんな人物であるか、御承知はございますまい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
けれど——従来これまで愚父ちゝなどの話に依りますれば、貴所あなたのやうな方は、監獄内で不測の災禍におかゝりなさる恐があると申すでは御座いませんか、出過ぎたことでは御座いますが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
貢さんは一目見ておどろいたが、従来これまで庭の柿の樹や納屋なやの中に兄のしばられて切諌せつかんを受けるのを度々見て居るので、こんな処へれてはいつて縛つて置いたのは阿父さんの所作しわざだと思つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
だから君も従軍したいだろうがいや……従軍しなくとも、従来これまでの君の功績からすれば、矢張り一万石や二万石の大名には確になれるし、私からも推薦して、決して功を没するようなことはしない。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私が困るのはそんな結構づくめぢや無くつて、実は私の為めには従来これまでだつて一度も投票した事も無ければ、今後もすまいといふ連中れんぢゆうなのさ。」
不世出の名をうたわれた前捜査局長、現在では全国屈指の刑事弁護士である法水麟太郎のりみずりんたろうは、従来これまでの例だと、捜査当局が散々持て余した末に登場するのが常であるが
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一体男女の区別と申すものが従来これまでのは余りに表面うわべばかり一部分ばかりを標準にしてはおりませんか。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
おのれ不埓ふらちの勘兵衛、従来これまで、奪った財宝を、百姓ばらに担がせて運び、隠匿した際には、秘密をよそへ洩らさぬため、百姓ばらを、財宝と一緒に、穴の中へ、切り落としたことはあるが、同じ仲間を
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うだらう、家賃ばかりでも従来これまでの四倍からかゝるのだからな。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
従来これまでも馬は度々たび/\そんな目に出会つて懲りてはゐたが、それが世間だと絶念あきらめをつけてゐるらしく、黙つてまた駆け出した。
棲家すみかの無くなつた大蛇おろちは、自然人間の胸に巣を組まねばならなくなつた。それからといふもの、和江村には従来これまで無かつた精神病者がどん/\出来出した。
従来これまでの記録に十月二十一日とあるのに比べると、十二三日生延びてゐた事になる。歴史や記録やは、時によると医者よりも手荒い療治をする事があるものだ。