巾着きんちやく)” の例文
……すこしばかり巾着きんちやくからひきだして、夫人ふじんにすゝむべく座布團ざぶとん一枚いちまいこしらへた。……お待遠樣まちどほさま。——これから一寸ちよつとうすどろにるのである。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
巾着きんちやくも紙入も持つてゐなかつたやうです。お勝手口から直ぐ來た樣子で、素足に水下駄を突つかけて源次に追つたてられて來ましたが——」
しなはそれからふくれた巾着きんちやくめにねあげられた蒲團ふとんはしおさへた。それからまたよこになつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伯父おぢさまよろんでくだされ、つとめにくゝも御座ござんせぬ、此巾着このきんちやく半襟はんゑりもみないたゞものゑり質素じみなれば伯母おばさまけてくだされ、巾着きんちやくすこなりへて三すけがお辨當べんたうふくろ丁度てうどいやら
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アヽ何かおつかさんにらひにでも来て、留守といふのに気を落したのではないかと、フト私の心に浮んでは、巾着きんちやくの一銭銅貨が急にやりたくなり、考へ直すいとまもなくえんを下りて、一ト走り
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「うそなら、見るがいい、さ」と、お鳥が編んで呉れた毛絲の巾着きんちやくを出す。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
巾着きんちやくからおあしして自分じぶんきなものをふこともりませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
代議士は広い世界が急に眼の前で巾着きんちやくのやうに狭くなつたやうに思つた。
帯のあはひ巾着きんちやくの紐をぶら下げて帰つて来た
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「それが子供のことですから、よくは解りません、——それから、お爺ちやんの巾着きんちやく、と言ふやうな事も言ひました」
しなぜに蒲團ふとんした巾着きんちやくれた。さうして籰棚わくだなからまるめ箱をおろして三つのしろたまごれた。以前いぜん土地とちでも綿わたれたので、なべにはをんなみな竹籰たかわくいといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伯父さま喜んで下され、勤めにくくも御座んせぬ、この巾着きんちやくも半襟もみな頂き物、襟は質素じみなれば伯母さま懸けて下され、巾着は少しなりを換へて三之助がお弁当の袋に丁度いやら
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見てとる主人は花主とくいを逃さずたうとううりつけてしまひまして、新聞紙へ包んだ風琴を持つて其店を出ました時は、巾着きんちやくへ納めて懐へ入れた大事の/\金貨がチヤント人手に渡つてしまつて居りました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
「え、おまへ巾着きんちやくでもけてありやしないのかね。」
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「熊鷹の眼が二三十見張つてゐる中から、巾着きんちやく一つ持ち出せるものぢやありません。まして千兩箱を五十も百も」
母親は無けなしの巾着きんちやくさげて出て駿河台まで何程いくらでゆくとかどなる車夫に声をかくるを、あ、お母様それは私がやりまする、有がたう御座んしたと温順おとなしく挨拶して、格子戸かうしどくぐれば顔にそで
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そんな事も考へましたが、子供は何にも言ひません。死ぬ時、巾着きんちやくのことを言つた切りでございます」
母親はゝおやけなしの巾着きんちやくさげて駿河臺するがだいまで何程いくらでゆくとかどなる車夫しやふこゑをかくるを、あ、お母樣つかさんそれはわたしがやりまする、ありがたう御座ござんしたと温順おとなしく挨拶あいさつして、格子戸かうしどくゞればかほそで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「大層な紛失物ぢやないか、二千枚の小判は財布さいふ巾着きんちやくには入るめえ、誰が何處で落つことしたんだ」
本當だよ、銀と紺の藥袋紙やくたいしに包んだまゝ、五分玉の珊瑚さんごと一緒に巾着きんちやくへ入れて置いて、口惜しいがそれを何處かへ落してしまつたんだよ——それはもう五日も前のことだ。
書いた書付けは、隱居が一番可愛がつて居る、孫の勘太郎の巾着きんちやくに入つて居る——と教へたんだらう。——あの娘は綺麗な顏をして居るが、人間はあまり賢くない。八五郎の女房には不足だよ
「柏餅が總仕舞でなくて、巾着きんちやくの中味が總仕舞になつたんだらう」