富家ふか)” の例文
ことに、ああした遍路同士が、貧しい情けをおくりあうことは、なみだぐましいほどで、闘争のちまた富家ふかの門では見られない美しさだと思うのであった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
富家ふかにありてはただ無知盲昧もうまい婢僕ひぼくに接し、驕奢きょうしゃ傲慢ごうまんふうならい、貧家にありては頑童がんどう黠児かつじに交り、拙劣せつれつ汚行おこうを学び、終日なすところ、ことごとく有害無益のことのみ。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
だ一体に清潔なのと観望に富んで居るのとが遊客いうかくを喜ばせる。永代えいたい供養を捧げる富家ふかの信者が在住支那人中に多いと見えていづれの堂にも朱蝋燭らふそくあかりと香煙とを絶たない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
どろだらけなさゝがぴた/\とあらはれて、そこえなくなり、水草みづくさかくれるにしたがうて、ふね浮上うきあがると、堤防ていばう遠方をちかたにすく/\つてしろけむり此處彼處こゝかしこ富家ふか煙突えんとつひくくなつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一年ひとゝせ夏の頃、江戸より来りたる行脚あんぎや俳人はいじんとゞめおきしに、いふやう、此国の所々にいたり見るに富家ふかにはには手をつくしたるもあれど、かきはいづれも粗略そりやくにて仮初かりそめに作りたるやうなり
もと富家ふかひととなりて柔弱にうじやくにのみそだちしれとおぼえしげいもなく十露盤そろばんりならへどものあたりしことなければときようにはちもせずしてくらへばむなしくなる山高帽子やまたかばうし半靴はんぐつ明日きのふかざりしまはりもひとふたりはては晦日みそか勘定かんぢやうさへむねにつかふるほどにもなりぬ。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「さる知人の富家ふかで、お祝いごとがある。それで、めかた十四、五斤の金鯉きんごいを、どうしても十匹ほど入用と、折入っての、頼まれごとさ。弱ったな」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一年ひとゝせ夏の頃、江戸より来りたる行脚あんぎや俳人はいじんとゞめおきしに、いふやう、此国の所々にいたり見るに富家ふかにはには手をつくしたるもあれど、かきはいづれも粗略そりやくにて仮初かりそめに作りたるやうなり
泥だらけな笹の葉がぴたぴたと洗われて、底が見えなくなり、水草の隠れるにしたごうて、船が浮上うきあがると、堤防の遠方おちかたにすくすくと立って白い煙を吐く此処彼処ここかしこ富家ふか煙突えんとつが低くなって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大運河の両がんの層楼はいづれも昔の建築で大抵は当時の貴族の邸宅だが、今はホテルや又は名も無い富家ふかいうに帰して、碧榭へきしや朱欄さては金泥きんでい画壁ぐわへきを水に映し、階上より色色いろいろの大きな旗をなびかせて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかるにあなたは北京府の富家ふかに生れ、かさねがさねの天祐てんゆうこうむっている。天運おのずから衆に超えているものです。——第三には、私は浅学、あなたはがく古今に通じておられる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我が塩沢しほざは近辺きんへんの風俗に、正月十五日まへ七八歳より十三四までの男のわらべどもさいの神勧進くわんじんといふ事をなす。少し富家ふかわらべこれをなすには𣖾木ぬるでのきを上下よりけづかけつばの形を作る、これを斗棒とぼうといふ。
およ幾百戸いくひやくこ富家ふか豪商がうしやう、一づゝ、この復讐しかへしはざるはなかりし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我が塩沢しほざは近辺きんへんの風俗に、正月十五日まへ七八歳より十三四までの男のわらべどもさいの神勧進くわんじんといふ事をなす。少し富家ふかわらべこれをなすには𣖾木ぬるでのきを上下よりけづかけつばの形を作る、これを斗棒とぼうといふ。