安置あんち)” の例文
何を馬鹿なことを!……と起ち上った拍子に、隣室からにおって来た線香のかおり。開けてみたら、こうして首が安置あんちしてあったのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、ニールスはあとになってからも、段々だんだんのある破風はふだけは思いだすことができました。そこには、キリストと使徒しとぞうが、安置あんちされていました。
しかも菊之丞きくのじょうの冷たいむくろを安置あんちした八じょうには、妻女さいじょのおむらさえれないおせんがただ一人ひとりくびれたまま、黙然もくねんひざうえ見詰みつめていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「賛成かな。それで与八、出来上ってからここで開眼供養かいげんくようというのをやって、それから大菩薩峠の頂へ安置あんちする」
最早もうしめたものと、今度は客間きやくまに石をかず、居間ゐまとこ安置あんちして何人にもかくして、只だひとたのしんで居た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
此瀧このたきぎて小一町こいつちやうみちのほとり、やまいは清水しみづしたゝり、三たい地藏尊ぢざうそん安置あんちして、幽徑いうけい磽确げうかくたり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
火辻軍平のなきがらのはいった棺桶は、この前にはこびこまれ、北向きに安置あんちされた。それから太い線香に火が点ぜられ、教誨師が焼香し、かねをたたき、読経どきょうした。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
六疊に型の如く安置あんちした善七の死骸を指して、お安はシクシクと泣き始めるではありませんか。
と、なにげなく立ちよって、なかのおい床几しょうぎの上へ安置あんちすると、土間どまのうちで荒々あらあらしい人声。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その佛蘭西ゴオルの天女が英吉利の侏儒こびとを選んでくれたと云ふので、私の好い心持ちにさせられようといふものは、或るホテルにその女を安置あんちして、召使も置いてやれば、馬車だの、カシミアだの
雲飛うんぴ先生せんせいなみだの出るほどうれしがり、早速さつそくいへかへつて、紫檀したんだいこしらえ之を安置あんちした。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
すでひざつて、かじいて小兒こどもは、それなり、薄青うすあをえりけて、眞白まつしろむねなかへ、ほゝくち揉込もみこむと、恍惚うつとりつて、一度いちど、ひよいと母親はゝおやはらうち安置あんちされをはんぬで
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たゞ婦人ふじん甲胄かつちうして長刀なぎなたちたる木像もくざうふたつを安置あんちせり。
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)