嘲罵ちょうば)” の例文
従って私の腕も相当進歩はしましたが、私の動作は依然として緩慢でしたから、教諭の嘲罵ちょうばはます/\その度を増して行きました。
痴人の復讐 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
大人か小児こどもに物を言うような口吻こうふんである。美しい目は軽侮、憐憫れんみん嘲罵ちょうば翻弄ほんろうと云うような、あらゆる感情をたたえて、異様にかがやいている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてやはり黙ったまま陰鬱いんうつに規則的にそこを歩き回って、笞刑たいけいを受ける兵士のように五分間ごとに男の嘲罵ちょうばの的となっていた。
こんな話は、幾つもあるので、異とするには足りないが、スガ目の忠盛にふくむ宿意は、唱歌の嘲罵ちょうばぐらいでは、すまなかった。
ありとあらゆる天才的に直感され仕組まれた嘲罵ちょうばが、私を窒息させるのだつた。私は無念の涙をのんで歯をくひ縛つてゐた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
私はその中に閉籠とじこもり、世の中との交渉を絶つ事によって、ようやく嘲罵ちょうばの声を耳にしず、石をぶつけられ、横面よこつらを張飛ばされる事を免かれました。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
また一枚一枚あけ行くに蛇口仏心と題して余に関せる一文あり。読む。前号に余が受けたる嘲罵ちょうばは全く取り消されたり。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「こんな若い時のいたずらごと誰でもある事だ。いまさら年にもはじないでなんだばかばかしい。」と急にわれと自分をしいて嘲罵ちょうばしてみたけれども
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一線、やぶれて、決河の勢、私は、生れ落ちるとからの極悪人よ、と指摘された。弱い貧しい人の子の怨嗟えんさ嘲罵ちょうばほのおは、かつての罪の兄貴の耳朶みみたぶを焼いた。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
麺麭パンの上に沢山のバタも下さいましって、お祈りした小さい娘の話。」「嘲罵ちょうばの口笛で舞台を逐われた不幸な俳優の話。」「何処に美の薔薇ばらが咲くかという話。」
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
しかし彼は喧騒けんそうに巻き込まれて、精神では彼女を認め得なかった。(彼女のことはもう久しい前から彼の念頭になかった。)彼は嘲罵ちょうばのさなかに姿を隠してしまった。
笑いの一番に下品なものは放恣ほうし、いわゆるしもがかりの秘密や欲情の満足に伴なうものであり、その最も有害なものは嘲罵ちょうばであろうが、この二つのものは支那の方でも
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして一度そこにはにぶい爆音のような嘲罵ちょうばがあった、そしてそれはわからない言葉であった。
俗衆の嘲罵ちょうばや父母の悲嘆をよそに彼は此の生き方を、少年時代から死の瞬間に至るまで続けた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうしてそれを望んだ。それだけが世間の嘲罵ちょうばの彼の償いだと思っていた。恋愛に陥りさえしなかったら、ある程度彼の力で彼女を生かすこともできたはずだとも思えた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もはや事ここにいたりては恐るる所なしと度胸を据えし千々岩は、再び態度を嘲罵ちょうばにかえつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
頑愚がんぐなどと云う嘲罵ちょうばは、てのひらせて、夏の日の南軒なんけんに、虫眼鏡むしめがねで検査しても了解が出来ん。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこまでも、おれは文学をやる、ほかのことはどうでもいい、日光と酒のに酔いながら、律義者の渋面と嘲罵ちょうばをよそに、ぶどう酒桶の中で跳ね踊るぶどう作りのように……。
彼よりくる所の静と、美と、高の感化は、世の毒舌、妄断(もうだん)、嘲罵ちょうば、軽蔑をしてわれらを犯さしめず、われらの楽しき信仰を擾(みだ)るなからしむるを知ればなり。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あわき物あに塩なくして食われんや、卵の蛋白しろみあに味あらんや」というは、いわゆる乾燥無味砂を噛むが如しという類の語であって、エリパズの言に対する思いきった嘲罵ちょうばである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
嘲罵ちょうばに、そそり立てられたのでもあるまいが、その刹那、平馬の振りかざしている烈剣が、闇の中で、キラリと一閃したと思うと、二闘士のからだがからみ合って、大刀と、短剣とが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……そしてしきりに郡の家の門へ、落首や嘲罵ちょうばの文句を書いた紙がられた。
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、上野介に浴せかける嘲罵ちょうばの声はもう村境までひたひたと迫っている。おくれて江戸から帰ってくる連中も、三州吉良の住民だというと、もう誰からも本気で相手にはされなかった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
醜穢しゅうえなる俗界の通弁となりてその嘲罵ちょうばするところとなり、その冷遇するところとなり、終生涙を飲んで寝ての夢覚めての夢に郎を思い郎を恨んで、遂にその愁殺するところとなるぞうたてけれ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
嘲罵ちょうばは嘲罵を誘う。メフィストもまたメフィストを誘い出すだろう。
転向 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
良人おっとに捨てられたのだと、世間から嘲罵ちょうばされるわけのものではない。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そのあいだ嫉妬しっと嘲罵ちょうばえるひまもなかったのでありました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
四面嘲罵ちょうばのまっただ中で、イエスは死んで往かれるのです。
傍聴席にはまたしても嘲罵ちょうばの口笛が起った。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
慚愧ざんきの眼からは、とめどなく、ぼろぼろと涙がつたわってくる。——周囲の嘲罵ちょうばも、侮蔑の眼も、頭がしびれて、聞えなかった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは強いて静廬を回護するに意があるのではないが、これを読んで、トルストイの芸術論に詩的という語のあく解釈を挙げて、口を極めて嘲罵ちょうばしているのを想い起した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
狭い庭のことだから、間もなく彼らは遊びにあきて、塀の外で何かの工事をやつてゐる台湾人の電工たちを相手に、片言の台湾語をあやつりながら、たわいない嘲罵ちょうばの交換をはじめた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この主張のために道也はまた飄然ひょうぜんとして任地を去った。去る時に土地のものは彼をもくして頑愚がんぐだと評し合うたそうである。頑愚と云われたる道也はこの嘲罵ちょうばを背に受けながら飄然として去った。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この女はあれほど私の詩の仲間を糞味噌くそみそに悪く言い、ことにも仲間で一番若い浅草のペラゴロの詩人、といってもまだ詩集の一つも出していないほんの少年でしたが、そいつに対する彼女の蔭の嘲罵ちょうば
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
世の是々非々、あらゆる嘲罵ちょうばにも、まるで耳のないような人——山中鹿之介は、その妻子や一族郎党と共に、周防すおうの任地へ導かれて行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮吟味の時も、その後一、二回の本白洲の折も、奉行の席に向かって、毒舌、嘲罵ちょうば揶揄やゆ、あらゆる狂態と唾を以て、食ッてかかったものだった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偉大な彼の根気は、あらゆる嘲罵ちょうばや、無智の者の無自覚に対しても、叡山えいざんや南都の知識大衆と闘ったような、不屈さを示して、意力を曲げなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路傍に立っては、山師やましののしられ、門に立っては、水をかけられ、嘲罵ちょうば、迫害、飢寒、あらゆるぎょうを共にした。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
っとしたに違いない、武蔵は足を止め、そして自分に嘲罵ちょうばをあびせた堂衆をねめつけた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さげすみの眼と——嘲罵ちょうばつばとが、武蔵の身にあつまった。武蔵は、耐えられない恥辱を感じた。しかし、いかにも自分にいどむような彼らの態度に、固く自分を、警戒して黙っていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分が叡山えいざんの大衆に威嚇され嘲罵ちょうばされても、その学説は曲げ得られないように、もし僧正が、堂上たちの陰険な小策にじて、歌人としての態度を屈したら、詩に対する冒涜ぼうとくであり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、彼はもう、生れてから十八年、あらゆる人中の嘲罵ちょうばに馴れている。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分をつつむ世の嘲罵ちょうば悪声を、彼は、知らないではなかった。身をめぐってキチキチ飛ぶばったのように聞いていた。——けれど、涼風すずかぜ懐中ふところれながら聞いていれば、それも気にはさわらない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)