呵責かしやく)” の例文
彼はそれを見る度見る度に針を呑むやうな呵責かしやくの哀しみを繰返す許りであつた。身を切られるやうな思ひから、時には見ないで反古ほごにした。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
従類じうるゐ眷属けんぞくりたかつて、げつろしつさいなむ、しもと呵責かしやく魔界まかい清涼剤きつけぢや、しづか差置さしおけば人間にんげん気病きやみぬとな……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「その方はここをどこだと思ふ? すみやかに返答をすれば好し、さもなければ時を移さず、地獄の呵責かしやくはせてくれるぞ。」と、威丈高ゐたけだかののしりました。
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
佐分利は二年生たりしより既に高利の大火坑にちて、今はしも連帯一判、取交とりま五口いつくちの債務六百四十何円の呵責かしやくあぶらとらるる身の上にぞありける。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其証拠を又のあたりに見た時、かれ愛憐あいれんの情と気の毒の念に堪えなかつた。さうして自己を悪漢の如くに呵責かしやくした。思ふ事は全く云ひそびれて仕舞つた。帰るとき
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此不断の呵責かしやくを免れることの出来るのは、唯、一策がある許りぢや。尤も非常に出た策だと云ふ嫌はあるが役には立つに相違ない。難病は劇薬を要すると云ふものぢや。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
地獄といふにそむかざらん限の、安さ樂しさを與へたれど、そのこゝにあるは、呵責かしやくならぬ苦、希望なき恨にして、長く浮ぶ瀬なき罪人の陷いるなる、毒泡迸り、瘴烟しやうえん立てる
放埒はうらつであつた前日の非をあがなへとばかり極端に自己を呵責かしやくして、身に出来るだけの禁欲を続けて来たことは誤りであつた。肉体に加へた罰から精神までも哀れに萎縮してしまつた。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
猶其上に道理無き呵責かしやくを受くる憫然あはれさを君は何とか見そなはす、棄恩きおん入無為にふむゐを唱へて親無し子無しの桑門さうもんに入りたる上は是非無けれども、知つては魂魄たましひを煎らるゝ思ひに夜毎の夢も安からず
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
以て證據しようことなし人殺しは九助と牢問らうどひに及びしならん依て九助は呵責かしやく苦痛くつうたへ兼て其罪に陷入おとしいれしを其方は一途に人殺しは九助なりと心得しに相違さうゐ有まじと申さるゝを理左衞門はおのれが落度にならんを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
煉獄の苦熱の呵責かしやくそのままに
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おほいなる呵責かしやくの力、——
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
本気ほんき沙汰さたではない、にあるまじき呵責かしやく苦痛くつうけてる、女房にようばう音信おとづれいて、くわつつてちがつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして心の呵責かしやくは渦を卷いてゐるのだから、そこの虚をかれた日には良心的に實際かなはない感じのものだつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
彼は世を恨むるあまりその執念のるままに、人の生ける肉をくらひ、以つていささか逆境にさらされたりし枯膓こちよういやさんが為に、三悪道に捨身の大願を発起ほつきせる心中には、百の呵責かしやく
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「私はくろがねくさりいましめられたものを見た事がございまする。怪鳥に悩まされるものゝ姿も、つぶさに写しとりました。されば罪人の呵責かしやくに苦しむ様も知らぬと申されませぬ。又獄卒は——」
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何處からともなく吹きまくつて來る一陣の呵責かしやくの暴風に胴震ひを覺えるのも瞬間、自らの折檻せつかんにつゞくものは穢惡あいあくな凡情にせ使はれて安時ない無明の長夜だ。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その外或はくろがねしもとに打たれるもの、或は千曳ちびき磐石ばんじやくに押されるもの、或は怪鳥けてうくちばしにかけられるもの、或は又毒龍のあぎとに噛まれるもの——、呵責かしやくも亦罪人の数に応じて、幾通りあるかわかりません。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
佐伯も処分するかんげえであつたが、良心の呵責かしやくを感ずて、今こゝで泣いだがら、と、と、特別にゆるす!
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)