呆氣あつけ)” の例文
新字:呆気
飛び越して逃げてしまひました。——呆氣あつけに取られて格子の外から覗くと、兄貴は首筋を短刀で刺されて、もう息が絶えた樣子——
而かも私の訪問がだしぬけであつたので、呆氣あつけにとられながら小躍りして喜んだ。然し、いつもながら聲はろくに出なかつた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
(伴作は先に立ち、捕方は無理に勘太郎を引立てて下のかたに去る。一同は呆氣あつけに取られたやうにあとを見送る。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
繰り返し/\彼は私に接吻キツスした。彼の腕から離れるとき、私が目をあげると、未亡人は眞青まつさをになつて、眞面目な顏をして、呆氣あつけにとられて突立つてゐた。
助手や學生は呆氣あつけに取られて、互に顏を見合はせながら、多分腦貧血でも起したのであらうと謂合ツてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
私は呆氣あつけに取られて、其の後姿を見送つた。先生も同じく其の方を見送つて居たが、暫くして突然
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
良秀は机の向うで半ば體を起した儘、流石に呆氣あつけにとられたやうな顏をして、何やら人にはわからない事を、ぶつ/\呟いて居りました。——それも無理ではございません。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私が呆氣あつけに取られてゐる中に、M氏はさつさと一圓五十錢で其のバスケットを買上げて了ふ。
「さうです、さうです……」みんなは咽喉のどに詰つたやうな聲で、雷同した。先生は、若々しい血の思慮もなく劇しい語調で喋舌る私を、呆氣あつけに取られたやうな面持おももちで見てゐた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
やがて板に掛けられた所を見ると、喜び、泣き、嬌態しなを作るべき筈の女形をんながたが、男の樣な聲で物を言ひ、男の樣に歩き、男も難しとする樣な事を平氣でた。觀客は全く呆氣あつけに取られて了つた。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ミハイル、アウエリヤヌヰチとハヾトフとは呆氣あつけられてみつめてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あいちやんは呆氣あつけにとられてしばらぢツだまつてました、そこではとまた
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あたらしく起つたものと入れ代はり、きのふの現像だけが、次へ起るもののために、その日まで存在するだけの呆氣あつけなさであつた。それは後に見た物がきつと前の物より美しい傾きがあるからである。
帆の世界 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
呆氣あつけに取られて見送つて出た妹に返事もしないで馬越は外へ出た。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
呆氣あつけられたかれ一人ひとり室内しつないのこして、悠然いうぜんとびらたのである。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きはめわけきかほしと腹の立まゝやぶからぼうにまくりたてつゝいひければ忠兵衞呆氣あつけとらるゝのみ少も合點がてん行ざれどもお光の事とは大方にすゐせばいよ/\わかかねなほ押返おしかへして問けるに主個あるじは今方店へ來し醫師がのべたるテレメンテーナの藥の事より大藤の女兒むすめかうと話したるが和郎は大事な主人のよめ途中とちうなんどで轉倒ひつくりかへ天窓あたまむさ草履ざうり草鞋わらぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次も呆氣あつけにとられました。折角お樂の口から兇賊の住所ありかを聞出さうとして居る矢先に、こんなのに飛込まれては、全くやり切れません。
呆氣あつけにとられた船頭は漸く飛びかゝつて彼を背後から抑へた。隣室からは臺長夫妻が飛んで來た。
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「パンを一片ひときれ下さいませんか。私、大變おなかが空いてゐるのです。」彼は呆氣あつけにとられて、私を見たが、返答もせずにパンのかたまり分厚ぶあつに切つて、私に呉れたのであつた。
分隊ぶんたい兵士達へいしたちはすべてのこと意外いぐわいさに呆氣あつけられて、けたやうにつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
人々は呆氣あつけに取られたやうに眺めてゐると、與助は猿の死骸をかゝへて泣き出す。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
由三の姿を見ると、呆氣あつけに取られた體で、「まあ、由さん、何うなすツたの。」
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
呆氣あつけられてみまもるのを、やさしい洋傘かうもりかげから、打傾うちかたむいて流眄ながしめ
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
主人の六兵衞は呆氣あつけに取られました。一人娘のお美代を殺したのは、一番忠實らしい顏をして居た優男やさをとこの谷五郎とは思ひも寄らなかつたのです。
呆氣あつけに取られたのは私ばかりではない。みんなきよとんとした眼で互に顏を見合せて、にやりと笑つた。私達は所屬の教室に退いて、今度こそは——と思ひながら、先生の到着を待つてゐた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「暫らくは呆氣あつけに取られて居りましたが、念の爲に私の部屋へ歸つて見ると、其處に置いた筈の繪圖面がございません」
平次も少し呆氣あつけに取られました。先刻までは、そんな事を氣振けぶりにも見せず、平次に縋り付かぬばかりに、敵を討つてくれと泣いた安右衞門です。
平次も呆氣あつけに取られて、腹を立てる張合ひもありません。それほど、ガラツ八の調子は、ヌケヌケとして居りました。
ガラツ八は只呆氣あつけに取られるばかりでした。その頃はまだ一般人は火藥といふものさへ見る機會が少なかつたのです。
平次の説明の微妙さに、主人の彦七は默りこくつてしまひましたが、聽いて居る八五郎は、呆氣あつけに取られて鼻の穴をふくらませて聽き入つて居ります。
見せたつきり、スーと引つ込んでしまつたので、馬鹿息子は呆氣あつけに取られて、もつとよく見るつもりで又千兩出したら、二度目もチラリと顏を見せただけ
自分達の密談が洩れたためとはもとより知る由もなく、唯呆氣あつけに取られて、ことの成行を見るばかり——。それよりも驚いたのはガラツ八の八五郎でした。
平次は呆氣あつけに取られて居る下女を尻目に二階へ上りましたが、屋根は眞新しく、格子は嚴重な釘付けで、梯子より外には外へ出る道があらうとも思はれません。
八五郎は呆氣あつけに取られました。堅氣かたぎの家の下女にしては、年齡にも柄にも似ぬ媚態コケテイツシユなところがあります。
飛躍する平次の天才、その推理の塔の積み重なるのを、八五郎は呆氣あつけに取られて聽き入るばかりです。
そんな事を言ひ乍ら、呆氣あつけに取られて見送るお勢には聲もかけず、あたふたと裏口から飛出しました。
平次は諄々じゆん/\として説くのでした。三輪の萬七と八五郎のガラツ八は、ただ呆氣あつけに取られるばかり。
平次が人殺しの現場で、いきなり朝顏の話を初めたのでガラツ八も呆氣あつけに取られて居ります。
平次の態度の物々しさに驚いて、用人松坂彦六は呆氣あつけに取られて居りますが、平次は委細構はず、四方の壁を叩いたり、縁側の板の隙間を一枚々々調べたり、全く氣狂ひ沙汰の探索です。
平次も呆氣あつけに取られて、此處の樣子を見るだけ。後には續く言葉もありません。
ヂツとそれを見詰ある平次、お舟も呆氣あつけに取られて默つてしまひました。
平次は靜かに立上がり樣、呆氣あつけに取られて居る八五郎をかへりみました。
穴倉の隅の箱は空つぽ、八五郎は呆氣あつけにとられて居るばかり
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
其處へ立ちすくんだまゝ、暫らくは呆氣あつけに取られるばかりです。
平次の豫想外の答へに、みんな呆氣あつけに取られて了ひました。
平次は呆氣あつけに取られてゐる弟子をかへりみます。
平山平助は呆氣あつけに取られて居ります。
平次は少し呆氣あつけに取られた樣子です。