名宛なあて)” の例文
「小野清三様」と子昂流すごうりゅうにかいた名宛なあてを見た時、小野さんは、急に両肱りょうひじに力を入れて、机に持たしたたいねるようにうしろへ引いた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「旦那さまからなのですよ。」と名宛なあてを見て、彼女は云つた。「これで、お歸りになるかならないかゞ、きつとわかるでせう。」
ひらかせ見れば手紙一通有り養母も不審いぶかしとは思へ共城富の名宛なあてゆゑひらき見ても宜しかるべしとふう押開おしひらきて見るに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして名宛なあての左側の、親展とか侍曹じそうとか至急とか書くべきところに、閑事かんじという二字が記されてあった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とずう/\しく名宛なあてが書いてあり、以前は勤めをしたあけびしのおあさですから手はよくはありませんが、書馴れて居りますから色気があって綺麗に書いてあります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこには、さっきの無気味な手紙と寸分違わぬ筆癖ふでぐせをもって、彼女の名宛なあてが書かれてあったのだ。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『それにちがひない』と王樣わうさままをされました、『名宛なあていてないとすれば、屹度きつと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
次にビーズ入りのバッグを開いてみると、新しいハンカチが二枚と、六円二十何銭入りの蟇口がまぐちと、すこしばかりの化粧道具を入れた底の方から、柳川ヨシエという名宛なあての質札が二枚出た。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
食後の津田はとこわきに置かれた小机の前に向った。下女に頼んで取り寄せた絵端書へ一口ずつ文句を書き足して、その表へ名宛なあてしるした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのひとつ/\に、ロチスター氏は、「倫敦ロンドン、××旅館、ロチスター夫人」と自分で名宛なあてを書いて呉れた。私は、それを、自分で附けることも、また、附けて貰ふことも出來なかつた。
遂には読むに耐えなくなって、末尾の三四行を飛ばして、名宛なあてを見た。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
見れば島田宿の藤八よりの名宛なあてなればひらき見るに安五郎白妙しろたへの兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宗助そうすけ文庫ぶんこなかから、二三つう手紙てがみして御米およねせた。それにはみんな坂井さかゐ名宛なあていてあつた。御米およね吃驚びつくりして立膝たてひざまゝ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは予期通り私の名宛なあてになっていました。私は夢中で封を切りました。しかし中には私の予期したような事は何にも書いてありませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこを少し行って、大通りを例の細い往来へ切れた彼は、何の苦もなくまた名宛なあて苗字みょうじ小綺麗こぎれいな二階建の一軒の門札もんさつ見出みいだした。彼は玄関へかかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて名宛なあてしたため終ると、「ただ通り一遍の文言もんごんだけ並べておいたらそれで好いでしょう」と云いながら、手焙てあぶりの前にかざした手紙を敬太郎けいたろうに読んで聞かせた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その赤塗の表には名宛なあても何も書かないで、真鍮しんちゅうの環に通した観世撚かんじんよりの封じ目に黒い墨を着けてあった。代助は机の上を一目見て、この手紙の主は嫂だとすぐ悟った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田はいつの間にか用意して来た三四枚の絵端書えはがきたもとの中から出して、これは叔父さん、これはおしげさん、これはおさださんと一々名宛なあてを書いて、「さあ一口ひとくちずつみんなどうぞ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「つい忘れていた。一週間ばかり前に招待状が来ていたっけ。一郎となおと二人の名宛なあてで」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「二十五番地ばんちぢやなくつて」と細君さいくんこたへたが、宗助そうすけ名宛なあてをはころになつて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、雅楽そのものについては大した期待も何もなかった。それよりも自分の気分に転化の刺戟しげきを与えたのは、三沢が余事のごとく名宛なあてのあとへ付け足した、短い報知であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助ははくげた古い額を一二枚読んで歩いたが、ふと一窓庵から先へさがし出して、もしそこに手紙の名宛なあての坊さんがいなかったら、もっと奥へ行って尋ねる方が便利だろうと思いついた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけはくげたふるがくを一二まいんであるいたが、不圖ふと一窓庵いつさうあんからさきさがして、もし其所そこ手紙てがみ名宛なあてばうさんがゐなかつたら、もつとおくつてたづねるはう便利べんりだらうとおもいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手紙てがみ古風こふう状箱じようばこうちにあつた。その赤塗あかぬりおもてには名宛なあてなにかないで、真鍮しんちうくわんとほした観世撚かんじんよりふうくろすみを着けてあつた。代助はつくえうへ一目ひとめ見て、此手紙のぬしあによめだとすぐさとつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それにはみんな坂井の名宛なあてが書いてあった。御米は吃驚びっくりして立膝のまま
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
届ではない告訴です。名宛なあてはない方がいい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)