剪刀はさみ)” の例文
剪刀はさみの刃音が頭の天辺てつぺんで小鳥のやうにさへづつてゐるのを聞きながら、うと/\としてゐると、突如だしぬけに窓の隙間から号外が一つ投げ込まれた。
お葉はその時清らかに終るべき身の靜けさに、剪刀はさみを取つてすべての不潔を切り取つたのである。手の爪は美しく取られた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
ところが今年は剪刀はさみで切ったり、没収したりし出した。カウィアは片側で済むが、切り抜かれちゃ両面無くなる。没収せられればまるで無くなる。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
剪刀はさみを袖の下へかくして来て、四辺あたりみまわして、ずぶりと入れると、昔取った千代紙なり、めっきり裁縫しごとは上達なり、見事な手際でチョキチョキチョキ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我は僧等の姫が頭上のうすぎぬぎて、雲の如き髩髮ひんぱつの亂れちて兩の肩をおほへるを見、これを斷つ剪刀はさみの響を聞きつ。
ええ面倒ナ切って終え、と剪刀はさみを取出す気になるような、腹の中で決断がついて終ったせいもあったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪いものには滅多に剪刀はさみくだそうとしない、彼の手に裁たれ、縫わるる服は、得意先でも評判がよかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こうって、魔女まじょはラプンツェルのうつくしいかみつかんで、ひだりへぐるぐるときつけ、みぎ剪刀はさみって、ジョキリ、ジョキリ、とって、その見事みごと辮髪べんぱつ
一つ一つの蟻は木の葉の表に止まっていて、その鋭い剪刀はさみのような口で、木の葉の上方をばほぼ半円形に切って行き、そうしてその縁を口にくわえ、パッと急に引いてそのきれをもぎ取る。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
金の剪刀はさみまたをすぼめて持っていて下さい。そしてすくいの日を知らせて下さい。
任はその金が二成が持って来た金に似ているので、剪刀はさみで断ってしらべてみた。模様も色も完全に備ってすこしのあやまりもないものであった。そこで任は金を受け取って地券を大成に、かえした。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
さう話す間も剪刀はさみはパサ/\切りつゞけて、毛は下に落ちてゐました。
かれは剪刀はさみで喉を突いて自殺したのである。
断片は剪刀はさみで截り取つたものである。某が截り取つて蘭軒に示したのであらう。その此年の書牘たることは、「新年の詩二首」と云ふを以てこれを知る。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
だが可愛い猫は起したくなしといふので、わざ/\大事の衣物きものの裾を剪刀はさみでつみ切つてち上つたといふ事だ。
その時白いお茶の花を瓶にさして呉れた看護婦が、銀いろの剪刀はさみを持つて來て、ドアを押した。そしてお葉の爪を見たのである。看護婦は驚いたやうにやや誇張して
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
剪刀はさみ一所いっしょになつて入つて居たので、糸巻の動くに連れて、それいわへた小さな鈴が、ちりんとかすかに云ふから、いとけない耳に何かささやかれたかと、弟は丸々まるまるツこいほお微笑ほほえんで、うなずいてならした。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
といって、袖の中から剪刀はさみを出して喉を突いた。老媼ばあやはびっくりして剪刀をもぎとったが、血は傷口から溢れ出て襟をうるおした。老媼はそれで珊瑚を大成の叔母にあたる王という家へれていった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
日暮れて劇場の馬車の我を載せ行きしは、樂劇オペラの幕の既にきたる後なりき。若し運命の女神にして、剪刀はさみを手にして此車中に座したらんには、恐らくは我は、いざ、れと呼ぶことを得しならん。
わたし共は小さい剪刀はさみを持った
庭園は抽斎の愛する所で、自ら剪刀はさみって植木の苅込かりこみをした。木の中では御柳ぎょりゅうを好んだ。即ち『爾雅じが』に載せてあるていである。雨師うし三春柳さんしゅんりゅうなどともいう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「散髪なんか一々理髪床かみゆひどこでするには及ばない。めいめい剪刀はさみみ切る事にしたら、散髪代だけ儲かる。」
このウこまかい方一挺がア、定価は五銭のウ処ウ、特別のウ割引イでエ、あらのと二ツ一所に、名倉なぐらかけを添えまして、三銭、三銭でエ差上げますウ、剪刀はさみ剃刀磨かみそりとぎにイ、一度ウ磨がせましても
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
剪刀はさみは我手にわたされぬ。
霞亭はこれをり取つて蘭軒に示した。この剪刀はさみの痕を存した断片は饗庭篁村さんの蔵儲中にある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
車が日比谷まで来ると、車掌は乗換切符に剪刀はさみを入れようとして、自分の腕時計うでとけいを見た。すると安物の腕時計うでとけいは安物の政友会内閣の大蔵大臣のやうに両手を伸ばしたまゝ昼寝をしてゐた。
わたしは、先生せんせい名古屋なごやあそびのときの、心得こゝろえ手帳てちやうつてゐる。餘白よはく澤山たくさんあるからといつて、一册いつさつくだすつたものだが、用意よういふかかただから、他見たけんしかるべからざるペイヂには剪刀はさみはひつてゐる。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ここに金鍔きんつば屋、荒物屋、煙草たばこ屋、損料屋、場末の勧工場かんこうば見るよう、狭い店のごたごたと並んだのを通越すと、一けん口に看板をかけて、丁寧に絵にして剪刀はさみ剃刀かみそりとを打違ぶっちがえ、下に五すけと書いて
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)