全然ぜんぜん)” の例文
「あいつはおれ財産ざいさん惹着ひきつけられてゐるんだ。」大久保おほくぼはいつかさうつてゐたけれど、竹村たけむらには其意味そのいみ全然ぜんぜん不可解ふかかいであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
多少たせうはヒステリーの所爲せゐかともおもつたが、全然ぜんぜんさうともけつしかねて、しばらく茫然ぼんやりしてゐた。すると御米およねおもめた調子てうし
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
御承知ごしょうちでもございましょうが、人間にんげん霊魂たましいというものは、全然ぜんぜん肉体にくたいおなじような形態かたちをして肉体にくたいからはなれるのでございます。
人生じんせい解悟かいごむかっておる自由じゆうなるふか思想しそうと、このおろかなるさわぎたいする全然ぜんぜん軽蔑けいべつ、これすなわ人間にんげんのこれ以上いじょうのものをいまだかつてらぬ最大幸福さいだいこうふくです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかしながら、もしそこに火災かさいおこおそれがあり、また實際じつさい小火ぼやおこしてゐたならば、問題もんだい全然ぜんぜん別物べつものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「でしよう? かんちがい、ということもあります。しかし全然ぜんぜんいなかつたものをたというのは……」
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
このたい特徴とくちようとして、一年中いちねんじゆうしもゆきらないので、植物しよくぶつ生長せいちよう全然ぜんぜん休止きゆうしするときがありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
バーグレーヴ夫人が全然ぜんぜん鬱症になどかかっていないのを目撃し、また彼女がいつも愉快そうな顔をしているので、すべての人たちから好意をむけられ、かつ尊敬されているのを見聞して
全然ぜんぜん進退しんたい自由じゆううしなつたらそれこそ大變たいへんみづかすゝんで奇禍きくわまねくやうなものです。
で、全然ぜんぜんべつのことを考えながら、ただ手を突いて下を向いていたのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だまつてをんな凝視ぎようししてゐたをとこは、まへとは全然ぜんぜんちがつたやさしさでいつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
意外いがいなのは、このときはじめておかかったばかりの、全然ぜんぜん未知みちのおかたなのにもかかわらず、わたくしむねなんともいえぬしたしみのねんがむくむくといてたことで……。
一つのさかずきからは、ハッキリした被害者ひがいしゃ指紋しもん検出けんしゅつされたが、ほかの一つには、なにかでふいたものとえて、全然ぜんぜん指紋しもんがついていない。しかしこれで大体だいたい推測すいそくはついた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
でもわたくしとしては、全然ぜんぜんそうったいやらしい祈願きがんにはかかりわないことにしてります。呪咀のろいかみは、あれはまたべつで、ただしいものではないのでございます。