今様いまよう)” の例文
旧字:今樣
奇人にはちがいありませんが、洒脱しゃだつ飄逸ひょういつなところのない今様いまよう仙人ゆえ、讃美するまとはずれて、妙にぐれてしまったのだと思います。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「お前の顔をもう一度見られるとは、夢のようじゃ、田舎住いで歌も忘れたろうが、久しぶりに今様いまようでも一さし舞ってみせてくれぬか」
追々薄紙はくしぐが如くにえ行きて、はては、とこの上に起き上られ、妾の月琴げっきんと兄上の八雲琴やくもごとに和して、すこやかに今様いまようを歌い出で給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「今夜は白拍子しらびょうしの首を持ってきておくれ。とびきり美しい白拍子の首だよ。舞いを舞わせるのだから。私が今様いまようを唄ってきかせてあげるよ」
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
また今様いまようの美術文学家は往々婉麗の一方に偏し、雅樸なる者を取て卑野として不美術的としてこれを斥く。共に偏頗へんぱの論なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
宇賀の老爺は心持ち背後うしろりかえて、かすれた声を出して今様いまようを唄いました。そして、手にしているおうぎをぱちぱち鳴らして拍子をとりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
寂然じゃくぜんは『唯心房集ゆいしんぼうしゅう』に四十九首の創作今様いまようをのこしたし、鴨長明のこころみた『方丈記』の散文体は、明澄の理智を写すに適したはずであった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「ところで、今様いまよう鈴木主水すずきもんどを一組こしらえ上げてしまったなんぞは、刷毛はけついでとは言いながら、ちっと罪のようだ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれどもその実、彼等の詩体は何の新しいものでもなく、日本に昔から伝統している長歌・今様いまようの復活であったのだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
歳恰好から身柄といい、がら松と彼とは生き写しだった。今様いまよう天一坊てんいちぼうという古い手を仙太郎は思いついたのである。
みちを行けば、美しい今様いまようの細君を連れてのむつまじい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢りゅうちょうに会話をにぎやかす若い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
脇差わきざしも有用の物ともおもわずや、かざりの美、異風のこしらえのみを物数寄ものずき無益の費に金銀を捨て、衣服も今様いまようを好み妻子にも華美風流を飾らせ、遊山ゆさん翫水がんすい、芝居見に公禄を費し
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
盛遠もりとおは徘徊を続けながら、再び、口を開かない。月明つきあかり。どこかで今様いまよううたう声がする。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幼少から武技のきたえをうけたのは、もちろんだが、天性、彼は舞楽が好きだった。——伊賀の一ノ宮、その他のやしろには、自然発生的な神楽かぐらめいた今様いまよう舞踊が近来おこりはじめている。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に当時の女学生間にはこの為永ためなが今様いまようとしたような生温なまぬるい恋物語が喜ばれて
葉村のおさの下座敷から、今日も優しい今様いまようが、さも悠暢のんびりと聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ともかく、苦労を積んだ、頭のよいできた人物といえよう。その気骨稜々きこつりょうりょう意気軒昂いきけんこうたる気構えは、今様いまよう一心太助いっしんたすけといってよい。こちらがヘナチョコでは、おくれをとって寿司はまずいかも知れない。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
それは朗詠ろうえい今様いまようなどとは違って、もっと急調な激しい調子である。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのほかに洋卓テエブルがある。チッペンデールとヌーヴォーを取り合せたような組み方に、思い切った今様いまよう華奢きゃしゃな昔に忍ばして、へやの真中を占領している。周囲まわりに並ぶ四脚の椅子は無論同式どうしき構造つくりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぢやが、新曲とあつて、其の今様いまようは、大島守の作るところぢや。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
綾子りんず羽ぶたへ今様いまよう
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
それは極彩色の絵の本で、さまざまの男や女が遊び戯れている、今様いまよう源氏の絵巻のようなものでありました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが四句切りはなされて今様いまようになったりしたような歌謡方面からの影響かも知れない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
按察使あぜちの大納言資賢すけかた和琴わごんを鳴らし、その子右馬頭資時うまのかみすけとき風俗ふうぞく催馬楽さいばらを歌い、四位の侍従盛定もりさだは拍子をとりながら今様いまようを歌うなど、和気藹々あいあいのうちに得意の芸が披露されていた。
後にまた古今集の時代になって、一時七五調の今様いまようが流行したが、これもまたその単調から、直ちにきて廃れてしまった。そして最後に、明治の新体詩が同様な運命を繰返した。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
新しく琉球りゅうきゅうから渡来わたってきた三味線を工夫したり、またその三味線を基礎にして今様いまようの歌謡ができて来たり、その派生から隆達りゅうたつぶしだの上方唄だのが作られたり、そういったものは
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我は今様いまようの根の下りたるはきらひなどいひ給ふ。半井君つとたちて、いざや美しうなりたまひし御姿みるに余りもさし込めたる事よとて、雨戸二、三枚引あく、口の悪き男かなとて人々笑ふ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「では先刻の……今様いまようの歌主?」
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある日いつもの通り、夜になって、二人は一晩中、今様いまようなどを歌い続けて、さすがに明け方疲れ果てて眠ってしまったことがある。康頼も知らずしらずの内にまどろんでいたらしい。
とつとして、末座の方から「このごろ都にはやるもの……」という今様いまようを歌い出す者があった。たちまち、大勢がそれに唱和する。はちをたたき、手拍子てびょうしをそろえ、清盛も歌う、忠盛も歌う。
その構想も『源氏物語』の若紫を今様いまようにして、あのはなやぎを見せずに男を死なせ、遠く離れたのちに、男が死んだあとで、十六の娘がその人のなさけを恋うという、結末を皮肉にした短いものである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
浅茅あさじはらとぞ荒れにける、月の光はくまなくて、秋風のみぞ身にはむ、というところの、今様いまようをうたってみたいと思いますから、どうぞ、それまでの間お待ち下さいませ、それを済ましさえ致せば
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その中で、たれか妙覚寺の土塀に、こんな今様いまようめいたのを書いたのがあった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この夜、大将実定は、古き都の荒れ行くさまを今様いまように歌った。
とまれこの父はの、元来が今様いまようの武人でないのじゃ。それゆえ、ただ功名我慾の首狩りのような戦に、わが子のそちを初陣させる気にはならぬ。……連れてゆくときがあれば、そのときは連れてゆく。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今様いまようでも歌ってみろ」