交々こもごも)” の例文
DS の昼と悪魔の夜と交々こもごもこの世をべん事、あるべからずとは云い難し。されどわれら悪魔のやからはそのさが悪なれど、善を忘れず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むなく帰省して見れば、両親は交々こもごも身の老衰を打ちかこち、家事を監督する気力もせたれば何とぞ家居かきょして万事を処理しくれよという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
近藤女史と女弟子とが交々こもごも語ったところは、電話で俊夫君が聞いたこと以上にこれという注意すべき点もありませんでした。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
一、必然性という鎖に執着と嫌悪を交々こもごもに感じながら、重い足をひきずって、それでも自分を励ましながら歩くニーチェ。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
いろいろの意味で面白かった。変なもの、変でないもの交々こもごも去来している、彼の中には。変でないもののままに言動することを自嘲する彼の変なもの。
自分の気弱さを弁解するためには、オリヴィエにたいする罪をこれで償ってるのだと考えた。激しい愛情の時期とものうい冷淡の時期とが交々こもごもやってきた。
交々こもごも詰めかけ詰めかけ質問した私たちに、かの樺太の王様たる長官が何を、また如何なる熱誠を以て応答したろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
筑波、日光、今市——大平山等の地名が交々こもごもその話題の間にはさまれるところを以て見れば、この連中は常野じょうやかんを横行して戻って来たものと思われる。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
団体動物では上下交々こもごも利を征めては国が危ういという文句のとおり、もし団体内の各個体が各自利己心をたくましくしたならば団体としての生存ができぬゆえ
人道の正体 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
何食はぬ顔、新六郎を戸外へ呼びだして、だしぬけに一刀両断、万感交々こもごも到つて痛憤秀吉その人を切断寸断する心、如水は悪鬼の形相であつた。獅子心中の虫め。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
夜空にはほのかに新月が立っていた。私は少年の髪の香を嗅ぎながら不安と愉楽とを交々こもごも味わっていた。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
浸してはさらし、晒しては水にでた幾日の後、むしろの上でつちの音高く、こもごも、交々こもごもと叩き柔らげた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
いつもよくやるようにピカ/\光る裁縫ばさみの冷たい腹を頬に当てゝ、昔わかれた幾人もの夫の面影を胸の中に取出し、愛憎交々こもごもの追憶を調べ直しているのではあるまいか。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これから裏っ手の方を探します。少々どうぞ。」とまた駈出かけだして、三吉裏手へ回れる時は、宿鴉しゅくあしきりに鳴きて鐘声交々こもごも起る、鮫ヶ橋一落の晩景うたた陰惨の趣あり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余は今ま露西亜ロシヤに於ける同志に代りて之を諸君に書き送らんとするに際し、憤慨の情と感謝の念と交々こもごも胸間に往来して、幾度いくたびも筆を投じて黙想に沈みしことを、幸に諒察りやうさつせよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二人は再生の悦びを交々こもごものべた後で、偽の父と見破った瞬間に、忽ちこんな目に合ってしまったことを説明した。帆村は、それこそ怪物蠅男が化けていたのだ、といえば山治は
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その若者たちは遠い極地の東西南北から交々こもごも私に事情のゆるすかぎりの通信を送つてくれる。その度に私はいつも胸をしめつけられるやうな集注した心持をもつてそれらを読んだ。
柘榴の花 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
道徳の旨を知らず、雕飾ちゅうしょく綴緝てっしゅうして、以て新奇となし、歯をかんし舌をして、以て簡古と為し、世において加益するところ無し。是を文辞ぶんじという。四者交々こもごもおこりて、聖人の学ほろぶ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかし、ある程度心をゆるしたといえる通称「バイロン」の名を、いつまた呼ぶことができるか、京野等志は、万感交々こもごもいたるというおももちで、もういくらか白んで来た星空を仰いだ。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
峨々がゝたる高山のつらなりのせゐか、一日中に、晴曇雨が交々こもごも来るところで、颱風たいふうの通路にあたるせゐか、屋久島は一年中、豪雨がううに見舞はれ、村の財政は、窮乏に追ひこまれ、治水対策が
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
妻とおしげとは朝の食事をしているわたしに、交々こもごもそんな説明をするのでした。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
ほとばしり出づる血の絶叫と、ねじりし出でし苦悶くもんの声と、交々こもごもにたえだえにきこゆ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
翌日阿園は村をけ廻り、夫の心をめぐらすべく家ごとに頼みければ大事は端なくも村にれぬ、媒妁人ばいしゃくにんは第一に訪ずれて勇蔵が無情を鳴らし、父老は交々こもごも来たりて飛んで火に入る不了簡ふりょうけんを責め
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
実に初めは極薄きを用い、追々其喰料を増加して漸次に復常ふくじょうし、書を読み、或は近傍を歩行するに至れり。然るに尊親夫婦は厚意を以て日々滋養品を交々こもごもに饗せらるるにより、漸次体力復したり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
其のうちに愈々夜に入った、万感交々こもごも胸に迫るとは此の様な場合を云うだろうか。勿論腹は益々空く一方だが、寒さも追々に強く感ずる、何しろ腹に応えがなくては寒さを凌ぐ力もないと見える。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私は毎朝同室の医者と政治家とに交々こもごも結んでもらったものである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そのうちに国は無政府の状態になって、上下交々こもごも争い
こう口を揃えて二人は交々こもごも陳弁ちんべんに努めた。
弁明交々こもごもの感想を発表したのであったが、両者は完全な一致を互の間に見出さず、野枝が大杉栄の新著『社会的個人主義』についての好意ある紹介をしていることは
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
二人は交々こもごも、会談の様子を物語った。朝寝坊のシノブはまだ姿を見せていなかった。しかし、シノブが目をさまして姿を現したことを、物の気配によって、克子は感じた。
○今朝麻布狸穴まみあなにて、疾病しっぺい、飢餓、交々こもごも起り、往来に卒倒して死に垂々なんなんとせる屑屋あり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これにくみて賽児を捕えんとするに及び、賽児を奉ずる者董彦杲とうげんこう劉俊りゅうしゅん賓鴻ひんこう等、敢然としてって戦い、益都えきと安州あんしゅう莒州きょしゅう即墨そくぼく寿光じゅこう等、山東諸州鼎沸ていふつし、官と賊と交々こもごも勝敗あり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
犬は一疋づつ土橋の側から下りて行つて、灌水の水を交々こもごもに味うた。
米友は不安と怪訝けげん交々こもごも、七兵衛の面を見返しました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
東京は晩秋で、峯子は、正二が留守の秋の夜々の身にしみる思いと、この事務所を持つための用意で緊張した昼間の心持とを、交々こもごもに味って日々を送り迎えしている頃であった。
今朝の雪 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
太祖崩じ、皇太孫立つに至って、廷臣交々こもごも孝孺をすすむ。すなわち召されて翰林かんりんに入る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
欣弥 (顔を上げながら、万感胸に交々こもごも、口きっし、もの云うあたわず。)
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せつ子に代って他の芸者たちが交々こもごもさす。酒もあれば、ビールもある。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
混血児が母や自分の血やに感じている愛憎交々こもごもの心持、その間で消耗してゆく心持、それは、混血ということに仮托されているが、作者の内面に意識されている不幸感の描出です。
家康、利家、氏郷、交々こもごも秀吉の渡韓を諫める。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
いじらしいような心持と、わざとらしさを嫌う心持が交々こもごもさほ子の心に湧いた。
或る日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それら交々こもごもの悲喜や勇気などこそ、多くのものを語っていると思う。
フェア・プレイの悲喜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
家をたてるということ、自分、嬉しさ、不安交々こもごもにあり。