一打ひとうち)” の例文
とつい、衣紋えもんって、白い襟。髪艶やかに中腰になった処を、発奮はずみ一打ひとうち、トさっと烏の翼の影、笹を挙げて引被ひっかぶる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新平はもう寺を自分のものにしたようなつもりで、大鉈おおなた一打ひとうちこしにぶちんだだけで、うらやましがる若者どもを尻目しりめにかけながら山の寺へ出かけて行った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
さうした上部うはべけの甘言に乗つて、ウカ/\と夫人の掌上などに、止まつてゐる中には、あの象牙骨の華奢な扇子か何かで、ピシヤリと一打ひとうちにされるのが
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そのあとからサアが刀を抜いて、攻めて来る敵を片っぱしから刀もよろい一打ひとうちに切って切って切りまくりましたので、敵は大けにけて逃げてしまいました。
奇妙な遠眼鏡 (新字新仮名) / 夢野久作香倶土三鳥(著)
と云いつゝ虚空をつかんで身をふるわしたなりで、たっ一打ひとうちに致しましたが、これが悪い事を致すとおのれの罪を隠そうと思うので、また悪事を重ねるのでございますから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
騎兵は言下ごんかに刀をかざすと、一打ひとうちに若い支那人をった。支那人の頭は躍るように、枯柳の根もとにころげ落ちた。血は見る見る黄ばんだ土に、大きい斑点はんてんを拡げ出した。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ヤア面倒めんどうだ、一打ひとうち打殺うちころして仕舞うからめなさんなと、れする中に往来の人は黒山のように集まっておお混雑になって来たから、此方こっちお面白がって威張いばって居ると
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何の罪なく眠れるものを、たゞ一打ひとうちととびかゝり、鋭いつめでそのやはらか身体からだをちぎる、鳥は声さへよう発てぬ、こちらはそれを嘲笑あざわらひつゝ、引き裂くぢゃ。何たるあはれのことぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
其節御前様の御腹立おんはらだち一層強く、私をば一打ひとうちに御手に懸け被下候くだされさふらはば、なまじひに今の苦艱くげん有之間敷これあるまじく、又さも無く候はば、いつそ御前様の手籠てごめにいづれの山奥へも御連れ被下候くだされさふらはば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
Kが理想と現実の間に彷徨ほうこうしてふらふらしているのを発見した私は、ただ一打ひとうちで彼を倒す事ができるだろうという点にばかり眼を着けました。そうしてすぐ彼のきょに付け込んだのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その瞬間しゅんかん、ザクンと一打ひとうち、大きなくまの手が、かれの右のひたいから頭にかけて打ちおろされた。男は、むちゅうでバネ仕掛じかけのようにとび上がって、あとはどうしたのか自分にはわからない。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
そうした上部うわべ丈けの甘言に乗って、ウカ/\と夫人の掌上てのうえなどに、止まっている中には、あの象牙ぞうげ骨の華奢きゃしゃな扇子か何かで、ビシャリと一打ひとうちにされるのが
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
其処そこだ!」と海野は一喝いっかつして、はたと卓子ていぶる一打ひとうちせり。かかりしあいだ他の軍夫は、しばしば同情の意を表して、舌者ぜっしゃの声を打消すばかり、熱罵ねつばを極めて威嚇いかくしつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
有「気味の悪い、そいつア御免をこうむりやす、お金は欲しいが、彼奴あいつの側へ無闇に行くのは危険けんのんです、おのれは何だと押え付けられ、えゝとたれりゃア一打ひとうちで死にやすから」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何の罪なく眠れるものを、ただ一打ひとうちととびかかり、するどつめでそのやわらか身体からだをちぎる、鳥は声さえよう発てぬ、こちらはそれを嘲笑あざわらいつつ、引き裂くじゃ。何たるあわれのことじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一足ひとあし二足ふたあし後へ下るとそば粘土ねばつちに片足踏みかけたから危ういかな仰向あおむけにお繼が粘土の上へ倒れる所を、得たりと又市が振冠ふりかぶって一打ひとうちに切ろうとする時大勢の見物の顔色がんしょくが変って
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……羽織を着たまま左の袖口に巻込んで、矢蔵のそうという形で、右に出刃を構えたが、すずしい目でじっると、庖丁の峯を返してとんと魚頭を当てた、猿の一打ひとうち、急所があるものと見える。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「奥方心配せんでもよろしい、何も驚く事はありません、宗悦これが無礼を云い悪口たら/\申して捨置きがたいから、一打ひとうちに致したのであるから、其の趣を一寸かしらへ届ければ宜しい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ははあ、たちまち一打ひとうち……薙刀ですな。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
有合ありあわせたけやき定木じょうぎを取って突然いきなり振向くとたんに、助右衞門の禿げた頭をポオンと打ったから、頭が打割ぶちわれて、血は八方へ散乱いたしてたっ一打ひとうちでぶる/\と身を振わせて倒れますと
めゝしくも一日々々と看病に其の日を送り、命数尽きて母は歿みまかりましたゆえ、今日こんにち母の葬式を済まし、一七日ひとなのか経ちたる上は卑怯未練なるの蟠龍軒を捜し出して、只一打ひとうちと思い詰めたる時こそあれ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またはりには戻天るいてんといって一打ひとうちで人を殺す術があるということは聞いて居りますが、それまでの修業をいたしませんから、殺す方角がつきませんが、眼の前に吊下ぶらさがっている百両の金を取損とりそこなうのも残念と
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)