一々いちいち)” の例文
私は今一々いちいち人間という者は真似をするものであるということの沢山な例を記憶しておりませんが、茲処ここに二つ三つあります。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その混雑のなかを押し分けて、箱提灯はこぢょうちんがゆらりゆらりと往ったり来たりしているのが外記の眼についた。彼は提灯の紋どころを一々いちいちにすかして視た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其様そんな家の内の光景ありさまなどを一々いちいち覗き込んで、町の中程になっている按摩あんまの家を訪ねた——家は九しゃくけんなかは真暗である——私は「今晩は。」といって入った。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一々いちいち女の名と、亥年いどし午年うまどし、幾歳、幾歳、年齢とがりつけてございましてな、何時いつの世にか、諸国の婦人おんなたちが、こぞって、心願しんがんめたものでございましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兵隊上へいたいあがりの小使こづかいのニキタは乱暴らんぼうにも、かくし一々いちいち転覆ひっくりかえして、すっかり取返とりかえしてしまうのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
娘はすぐに箪笥を拭き始め、その上の品物を一々いちいち拭きて工合好く据直す。画家は紙巻を一本吸付け、窓を背にして、銅版の置きある机に寄りかかり、娘のする事を見ている。
俺に一々いちいち口を出させんでも、お前は、ここでは恐れられているんだからな……あの鉱山が成績があがれば、それを標準に全鉱区からうんと徴発金を収めさせることも出来るんだ
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
それ故一々いちいち名を記そうとは企てません。こういう気持こそは、もっと尊んでよいことではないでしょうか。実に多くの職人たちは、その名をとどめずにこの世を去ってゆきます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
一々いちいち比較して見た、眼の下はルツァーンの湖をそのままに覆う綿雲で、すぐ近くビュルゲンシュトック、右よりに、スタンザホルンとピラトゥス、その間に深く入りこんだ雲の海は
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
一々いちいちの批評をして見た所で、その俳優に対する好き好きがあろうから無駄な事だが、私は過日帝国館で上場された改題「空蝉うつせみ」の女主人公に扮したクララ・キンベル・ヤング嬢などは
活動写真 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
夢ながら可恐おそろしくも、浅ましくも、悲くも、可傷いたましくも、く方無くて唯一図に切なかりしを、事もし一塲の夢にしてとどまらざらんには、そもそ如何いかん! 今や塩原の実景は一々いちいち夢中の見るところ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
従兄弟同志は勤め始めてから一週間ばかりたった時、ツク/″\う感じた。店員の模範になるどころか、一々いちいち係りの番頭から手解てほどきをして貰わないと仕事が分らない。寛一君は一生懸命だった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
がらにもなくこんなことをかんがえて、西蔵チベットんでる仲間なかまからす一々いちいちたづねてはなしたが、みんな日頃ひごろラランの悪知慧わるぢえをよくつてゐるので、だれ一緒いつしよばうとするものがなかつた。ラランは不気嫌ふきげんだつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
今は一々いちいち記臆きおくに存していないのがはなはだ遺憾である。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
おつかさまは一々いちいち
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
それは領内の窮民きゅうみんまたは鰥寡かんか孤独の者で、その身がなにかの痼疾こしつあるひは異病いびょうにかゝつて、容易に平癒へいゆの見込みの立たないものは、一々いちいち申出ろといふのであつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
清吉は一々いちいち姓を上げて、小山おやま、清水、林などといって、やはり眼を両手でこすって泣いている。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此処ここから中尊寺ちゅうそんじへ行く道は、参詣の順をよくするために、新たに開いた道だそうで、傾いたかやの屋根にも、路傍みちばた地蔵尊じぞうそんにも、一々いちいち由緒のあるのを、車夫わかいしゅに聞きながら、金鶏山きんけいざんいただき
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独逸ドイツ語ですって澄ましたものだ、それから今度は調子にのって、御前の言葉は文法がちがう、こう云うんだろうなんて、一々いちいち混ぜかえすと、っかりした根柢はないんだから、散々考えて
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
と社長は此方の言うことを一々いちいちそのまゝ受け容れる人でない。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いや、技術長のお説は一々いちいちもっともですよ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
それから私は思う所あって、今自分が現にいるへやうちを隅から隅まで一々いちいちしらべて見た。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くはしく語りてうたがいを解かむとおもふに、をさなき口の順序正しく語るを得むや、根問ねどひ、葉問はどひするに一々いちいち説明ときあかさむに、しかもわれあまりに疲れたり。うつつ心に何をかいひたる。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんどみな支那小説の影響をこうむっていない物はないと言ってもよろしいくらいで、わたくしが一々いちいち説明いたしませんでも、これはなんの翻案ほんあんであるか、これはなんの剽窃ひょうせつであるかということは
先に運動場へ出て待っていた正三君は一々いちいち吟味ぎんみして
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と私達は一々いちいち頷くばかりだった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)