鼈甲べつかふ)” の例文
……何處どこともなしにうちに、つぶしの島田しまだ下村しもむら丈長たけながで、しろのリボンがなんとなく、鼈甲べつかふ突通つきとほしを、しのぎでいたとしのばれる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いや、あの鼈甲べつかふ牡丹のやうに、絢爛華麗な文章だけを取つても、優に明治文学の代表者として、推す価値が十分だと思ふのです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
鼈甲べつかふくしかうがいを円光の如くさしないて、地獄絵をうたうちかけもすそを長々とひきはえながら、天女のやうなこびこらして、夢かとばかり眼の前へ現れた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
萬七の渡したのを見ると、の入つた鼈甲べつかふくし。銀で唐草からくさを散らした、その頃にしては、この上もなく贅澤な品です。
亭主ていしゆは五十恰好がつかういろくろほゝこけをとこで、鼈甲べつかふふちつた馬鹿ばかおほきな眼鏡めがねけて、新聞しんぶんみながら、いぼだらけの唐金からかね火鉢ひばちかざしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
持來もちきたりし中に蝦夷錦えぞにしき箸入はしいれ花菱はなびしの紋付たる一角のはし鼈甲べつかふかんざしなどありしかば大岡殿是を見給ひ即時そくじ金屋かなや利兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蠅取り蜘蛛といふ小さな足の短い蜘蛛は、枝のつけ根に紙の袋のやうな巣を構へて居た。鼈甲べつかふのやうな色沢つやの長い足を持つた大きな女郎蜘蛛ぢよらうぐもは、大仕掛な巣を張り渡して居た。
「よくもかう珍なものを集めたものだ」とつい人がをかしくなるほどすゝぼけた珍品古什こじふの類を処狭く散らかした六畳の室の中を孫四郎は易者然たる鼈甲べつかふの眼鏡をかけて積んである絵本を跨ぎ
内儀おかみ、そいつは言ひ譯が暗いぜ。伊三郎が乘つて來た船の中には、現にこのくしが落ちてゐたんだ、こんな見事な鼈甲べつかふの櫛は、滅多にある品ぢやねえ」
お眼が少し赤くただれていらつしやる。鼈甲べつかふのついた眼鏡めがねを持つて、一々見物人を御覧になればい。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すゝみ其は旅籠屋の下女がたくみならん貴樣の方にくしはなしとはかりたるに先には鼈甲べつかふの櫛の幾個いくらもあらんにより指替さしかへ似寄によりの品を出して貴樣をあざむき歸せしなるべし其女を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此時このとき、われにかへこゝろ、しかも湯氣ゆげうち恍惚くわうこつとして、彼處かしこ鼈甲べつかふくしかうがい行方ゆくへおぼえず、此處こゝ亂箱みだればこ緋縮緬ひぢりめんにさへそでをこぼれてみだれたり。おもていろそまんぬ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「大変紅葉をお説きになるのです。紅葉を措いて明治時代の文豪は、外にないだらうと、かう仰しやるのです。文章だけを取つても、鼈甲べつかふ牡丹のやうな絢爛さがあるとか何とかおつしやるのです。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
鼈甲べつかふくしや赤い紐は、忘れて行つたのを取込み、あわよくば後添へのおとりか、お里に疑ひをせるつもりだつたに違ひない。尤もお里に疑ひがかゝれば、それを
證據にお渡し申さん鼈甲べつかふの古びたる上にの三枚かけよき證據しようこなれば此度御歸國なし給ひて假令たとへお前がお出なく共此くしさへ持せてつかはされなば他人にてもお金をお渡し申すべしたしかなる證據故能々此櫛を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そんな事を言ひ乍らも平次は、此鼈甲べつかふの櫛の暗號文字から、妙に割り切れない謎を感じて居たのです。
受取つて開けると、中から出たのは、飴色の鼈甲べつかふの——少し時勢遲れの大振りなくしが一つ。
「八が持つて來た、鼈甲べつかふくしの謎を、やうやく解いたのだよ。あの櫛には——書き置きは又七の守袋の中にある——と書いてあつたのだ。ところで、あの櫛を屆けてくれたのは誰だ」
そればかりぢやねえ、その時刻——亥刻よつ(十時)から亥刻半よつはん(十一時)過ぎまで雷門の家をあけてゐるし、もう一つ動きの取れないことには、現場に鼈甲べつかふくしが落ちてゐたのだよ。
「お前さんが持つてゐる、その鼈甲べつかふくしが證據のつもりなら、それは私のものですよ」
こゝだよ御主人、傅次郎は嫌がらせに火でも附けるつもりでこゝへ來て、お篠とつかみ合ひを始め、鼈甲べつかふくしは物のはずみで傅次郎の懷ろに入り、死骸と一緒に向うへ運ばれたのだらう。
金銀鼈甲べつかふの細工物で、容易ならぬ品ですが、その辨償べんしやうの金の苦面に困つた伊三郎が、かねて怨みのある小橋屋に忍び込み、主人小左衞門を殺して、床下の瓶を取り出し、それを打ち割つて
平次は鼈甲べつかふのことを忘れたやうに、庭男の久六に訊ねました。
萬七は動かぬ證據の積りで、鼈甲べつかふの櫛を見せました。