黒人くろうと)” の例文
しかし黒人くろうとになればたぶんただ一面のちゃぶ台、一握りの卓布の面の上にでもやはりこれだけの色彩の錯綜さくそうが認められるのであろう。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おほよそたたみ類の事あちらは黒人くろうと也。こちらはしらず候ゆゑ也。)勿論浦郷うらざとにて便も宜候故也。私添書どもなきをあやしむことなかれ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「和尚は素人だから、千円も包まなければならないのだ。それを職業にしてゐる黒人くろうとだつたら、きまつた相場といふものがあるからね。」
我武者羅に押一手で成功するは唯地女じおんな口説くどき落す時ばかり。黒人くろうとにかかつては佐野治郎左衛門さのじろざえもんのためしあり。迷はおそろし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この黒人くろうとだか素人しろうとだか分らない女と、私生児だか普通の子だか怪しい赤ん坊と、濃いまゆを心持八の字に寄せて俯目勝ふしめがちな白い顔と、御召おめしの着物と
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には火消ひけし黒人くろうとと緒方の書生だけでおおいに働いた事があるとうようなけで、随分活溌な事をやったことがありました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
けれども更に考へてみると、此の記者も亦記事捏造の手腕に於ては、大阪毎日の記者に勝るとも劣らない黒人くろうと藝である。
現在では、この教育程度向上のお蔭で、黒人くろうと上がりでない限り、日本の上流婦人は女学校卒業程度以上の学力あるものと限られているようである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼女は所謂「意気な女」、———すつきりした、藝者らしい姿の人ではなかつたけれども、黒人くろうと臭い病的な感じがなく、瀟洒と云ふよりは豊艶であつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし夏の暑い日にはバターが直ぐに溶けて来て流れ出しますから素人に出来ません。黒人くろうとでも夏は石の展し板の上で手速く拵えないとよく出来ません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或時は露骨に叙し、或時は一種厭味の装飾を用うるを要す。語をへて言はば、多数素人へのあてこみは少数黒人くろうとの最も厭忌えんきする方法を取らざるべからず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
同時に氏は素人の域を脱して黒人くろうとの範囲に足を踏ん込んだ事になったので、今までは道楽半分であった創作が今度は是非とも執筆せねばならぬ職務となった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
子供の時にめられたものも、本当にその道の門に這入れば、その時の作など黒人くろうと側からは何んでもないのであるから、決して子供の時のことを頭に置いてはいけない。
緋鹿子ひがのこ襷掛たすきがけで、二の腕まで露呈あらわに白い、いささかも黒人くろうとらしくなかったと聞いている。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まかり出でたのは乗合いの中の素人しろうとにしては黒っぽく、黒人くろうとにしては人がよすぎる五十男。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岸には夕方の釣に出る素人しろうと黒人くろうとの舟が一杯集つてゐた。少年は河の岸まで來ると安心して、そして何事も考へずに空の一方を眺めた。河下の空は繁い雲がまつ赤に染められてゐた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
何時かの展覽會に出した風景と靜物なんか黒人くろうと仲間ぢや評判が好かつたんだよ。其奴が君、遊びに來た中學生に三宅の水彩畫の手本を推薦してるんだからね。……僕は悲しかつたよ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
別して鹿狩りについてはつの字崎の地理に詳しく犬を使うことが上手じょうずゆえ、われら一同の叔父おじさんたちといえども、素人しろうとの仲間での黒人くろうとながら、この連中に比べては先生と徒弟でしの相違がある
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
或は黒人くろうと上りかとも思ってみたが、下町育ちは山の手の人とは違う。此処のお神さんも下町育ちだと云う。そういえば、何処か様子に似た処もある。或は下町育ちかも知れぬとも思った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
父親の影響で——或ひは寧ろ父親にすすめられて、この方面に関係してゐたらしいが、彼はその方面では立派に黒人くろうとの素質があつたし、くろうと以上の或る神秘的な能力さへあつたらしい。
長島の死 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
黒人くろうとがきくと、あらゆる囃子の手がもちいられてあって舌をまくというが、そのよき伴奏者のために、細い二本のいとは悲鳴をあげなければならなくなって、二絃琴の真のよさを失なった嘆きがある。
十手をお預りして黒人くろうと仲間に隠れもない捕物名誉だとのこと。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
黒人くろうと道具商だうぐやさんが掘出物ほりだしものたほしにやつてまゐります。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
○長く所謂いはゆる素人しろうとたれ、黒人くろうとたるなかれ。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
黒人くろうとの消さずに焚いているような
しかし黒人くろうとになれば多分唯一面のちやぶ臺、一握の卓布の面の上にでも矢張りこれだけの色彩の錯綜が認められるのであらう。
写生紀行 (旧字旧仮名) / 寺田寅彦(著)
素人しろうとの浄瑠璃は鼻の先に巣くつてゐるが、呂昇のやうな黒人くろうとのは、何処に隠れてゐるのか医者にも一寸判らないといふ事だ。
釣竿なしで釣が出来るものか、どうする了見だろうと、野だに聞くと、沖釣おきづりには竿は用いません、糸だけでげすと顋をでて黒人くろうとじみた事を云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒人くろうとらしい女連も黙ってしまう。なぜだか大村が物を言わないので、純一も退屈には思いながら黙っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
時々黒人くろうと上りの者を女房とも附かず引き擦り込む事がありますが、惚れたとなったら、彼のだらし無さは又一入で、女の歓心を買うためには一生懸命お太鼓を叩き
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
原書を名にして金を貪るまたる時、家老奥平壱岐おくだいらいきの処に原書を持参して、御買上おかいあげを願うと持込んだ所が、この家老は中々黒人くろうと、その原書を見て云うに、れはい原書だ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
習う本人のみならず黒人くろうとの先生方でも何だか解からぬままうなっているのが多く、ましてその他の曲に到っては全部雑巾のように古びた黒い寄せ文句で出来上っているのだから
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
パン種にも色々の製法があってよく麦酒びーるを混ぜる人もあります。白米とこうじで拵える法もあります。そんな事は先ず黒人くろうとの仕事で素人しろうとに不便ですから一番軽便な法を申上げましょう。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その調子がいかにも黒人くろうとじみてゐて、今迄の努力の廢止をうながす絶對の合圖となつた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
何時かの展覧会に出した風景と静物なんか、黒人くろうと仲間ぢや評判が好かつたんだよ。其奴そいつが君、遊びに来た中学生に三宅の水彩画の手本を推薦してるんだからね。……僕は悲しかつたよ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
チクチク針を運ぶ手などは見ても面白いようでした。また月琴げっきんが旨い(その頃はまだ月琴などいうものがすたっていませんでした)。すべてこういった調子に相当折り紙つきの黒人くろうとでした。
第一文章がうまい上に、知らない人が讀むと如何にも眞實ほんとらしく思はれる程無理が無く運んでゐて、此種の記事にはつきものの誇張を避けたところなどは、嘘詐うそいつはりの記事では黒人くろうとに違ひない。
そうですね、胡見沢なんぞも、あれで黒人くろうとなんでしょうよ、色が黒いから。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三十年の新年に初めて新年宴会が不忍しのばず弁天境内の岡田亭で催おされた。その時居士は車に乗って来会した。其村君が余興として軍談を語った。平生のドンモリに似合わず黒人くろうとじみて上手に出来た。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
どれが雌だか、雄だか、黒人くろうとにも分らんで、ただこの前歯を
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分はお兼さんの愛嬌あいきょうのうちに、どことなく黒人くろうとらしいこびを認めて、急に返事の調子を狂わせた。お兼さんは素知そしらぬ風をして岡田に話しかけた。——
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の絵を一つの単純な絵として見て黒人くろうとのと比較する時に、自分のほうがいいと思いうるほどの自信がないと見えて、T君の絵と説とにすっかり感心してしまった。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
如何にも黒人くろうとの態度を見ろと云わんばかりに厳粛な面構えを拵え上げて、「夕ぐれ」「わがもの」「わしが国」「秋の夜」「忍ぶ恋路」と知って居るだけ片ッ端からおさらいをした。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仕事は、浅草のを除いていずれも家庭荒はとがりあらし(鳩狩?)が主で、しかも、ほかの脅迫ぱくり誘拐かたり見たように少数の黒人くろうとの腕揃いではない。団結も固くなければ、仕事もチャチなのがあるという。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
小石川のお母様は、黒人くろうとではないが、身分の低いものの娘であつたのを、博士の外舅しうとが器量望で、支度金を遣つてめとつたのださうだ。此の細君の容色はお母様の系統を引いてゐるのである。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ダカラ私は簿記の黒人くろうとでなければならぬ、所が読書家のかんがえと商売人の考とは別のものと見えて、私はこの簿記法を実地に活用することが出来ぬのみか、他人の記した帳簿を見てもはなはだ受取が悪い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうしてその自分に「私」という名をける事のできなかった津田は、くまでもそれを「特殊な人」と呼ぼうとしていた。彼のいわゆる特殊な人とはすなわち素人しろうとに対する黒人くろうとであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして舞台にける芸術の意味を、役者の手腕に就てのみ用いべきものと狭義に解釈していた。だから梅子とは大いに話が合った。時々顔を見合して、黒人くろうとの様な批評を加えて、互に感心していた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
素人しろうとだか黒人くろうとだか、大体の区別さえつきませんか」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)