饒舌しゃべり)” の例文
黄昏、時々お饒舌しゃべりな雲が速歩はやあしで窓を通つて行くのですが、私の胃の腑にも柔かな饒舌が其の時うとうとと居睡りに耽つてゐるのです。
帆影 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
夜長の折柄おりからたつの物語を御馳走に饒舌しゃべりりましょう、残念なは去年ならばもう少し面白くあわれに申しあげ軽薄けいはくな京の人イヤこれは失礼
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女中じょちゅうに対しても同じです。余計よけいなお饒舌しゃべり譃言うそう時には口では云わずになるたけきつい顔して無言のいましめをしてやります。
芳子さんは、お饒舌しゃべりではありませんでしたから、お友達の誰にもそんな事は話しませんでした。が、真個に芳子さんは時に情無くなりました。
いとこ同志 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この亭主もベラベラお饒舌しゃべりをする男だが、同じく申上げたろう、と通りがかりににらむと、腰かけ込んだ学生を対手あいてに、そのまた金歯の目立つ事。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前もそうしていいところへ片着いて、どんなに幸福しあわせだか知れやしないわね。」と、お饒舌しゃべりの伯母は独りでお庄の身の上をうらやましがった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(又もや歩きまわりながら、思い出したように腕時計をみる。)ああ、いつまでもお饒舌しゃべりをしてしまった。じゃあ、今夜はもうこれでおいとましましょう。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何だね。何か変った事があったのかね」浅田は朝の忙しい時間に、台所を散らかしたまま、手を休めてお饒舌しゃべりをしている女中を、とがめるようにいった。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
新「此の野郎はお饒舌しゃべりをする奴だから、罪な様だが五両でも八両でも金を遣るのはついえだから切殺して仕舞ったが、もう此処こゝにぐず/\してはいられねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
少しお饒舌しゃべりを慎んだ方が軽薄に見えずに済むだろうと思われるくらいである。のべつ幕なしにしゃべっている。若い身空で最近は講演もするということだ。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
戯言ぎげんとも附かず罵詈ばりとも附かぬ曖昧あいまいなお饒舌しゃべりに暫らく時刻を移していると、たちまち梯子段の下にお勢の声がして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「宜いわよ。中川はあれでナカ/\お饒舌しゃべりですから、私のことを種々いろいろと申上げているに相違ありません」
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うむ、これから余りお饒舌しゃべりは止そう。それに……、ああ僕はどうしてこうなんだろう。何か云うと、屹度お前を悲しませることばかりしか口に出て来ないんだ。」
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「あたし、どうしても眠れないの。あたし、今日は苦しくなければ、うんとお饒舌しゃべりしたいんだけど。」
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
飛んでもねえ秘密をバラしやがって……アイツのお饒舌しゃべりと来た日にゃ手が附けらんねえ。死んだ親父おやじから聞きやがったんだナ畜生……誰にも話したこたあねえのに……。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夜中に何心なく便所はばかりへ下りて見ると、いつの間にか他の一人のお客が女将とよろしく収っていたという話をば弁舌滔々とうとうさながら自分が目撃して来たもののように饒舌しゃべり立てた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雪子夫人は、お饒舌しゃべりをしたあとで、娼婦しょうふのように、いやらしいウインクを見せたのだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八幡の鳥居のそばまで来て別れようとした時、何と思った乎、「イヤ、昨宵ゆうべは馬鹿ッ話をした、女の写真屋の話は最う取消しだ、」とニヤリと笑いつつ、「飛んでもないお饒舌しゃべりをしてしまった!」
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
饒舌しゃべりらしい小女は、お勝手の方から口を出しました。
「いや、これは、すっかりお饒舌しゃべりをしてしまって……」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
平生いつもの調子で苦もなく饒舌しゃべり立てた。代助は真面目まじめ
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひまなお饒舌しゃべり娘から
「まあさ、余りお饒舌しゃべりなさらんがい。ね、だによって、お構いも申されぬ。で、お引取なさい、これで失礼しよう。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道太は九官鳥が一生懸命にお饒舌しゃべりをつづけているのを聞きながら、ついに果てしない寂しさに浸されてきた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、頭をふりふり、そんなお饒舌しゃべりをしながら、彼女は泣いているのだった。酒をのんで、眼がどんよりしてくると、足がしびれたらしく、膝頭を両手でもみ初めた。
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「まあ、自分の勝手なお饒舌しゃべりばかりしていて、おかん全然すっかりちゃった。一寸ちょっと直して参りましょう。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「差支ないんですって。兄さんは悉皆すっかり気に入っているものですから、『見ろ。黒子なんか彼是かれこれ言うのは迷信だ。何うもお前はお饒舌しゃべりでいけない』って、お小言を仰有おっしゃいました」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其処では、細長い板敷の廊下が遠く遥かな海に展け、板壁の白いペンキが廊下と同じ長さに長い、紛れ込んだ人々にふとお饒舌しゃべりを噤ませてしまふ不思議な間抜けさが漂ふてゐた。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
貴方は親の耻になると云うは御尤ごもっともだけれども、何もこれは決して言いませんよ、誰が聞いても……わたしは随分お饒舌しゃべりだが、旦那にむかえばわしだって言わぬと云ったら決して言いませんから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「糊売り婆アは、轡虫くつわむしみたいにお饒舌しゃべりですよ」
==今朝のね、こと==というに到りて、小間使は直ちに呑込み、「何の奥様、誰が饒舌しゃべりますもんですか。」「ああ、そうだろうとは思うけれども、きっとかえ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜になると、母親はまた腹をすかして、お庄に近所ですしあつらえさせ、そっと茶盆を持ち込ませなどして、少しの間も食ったり飲んだり、お饒舌しゃべりをしていなければ気が済まなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
饒舌しゃべりながら母親がくんで出す茶碗ちゃわんはばかりとも言わずに受取りて、一口飲で下へ差措さしおいたまま、済まアし切ッてまたふたたび読みさした雑誌を取り上げてながめ詰めた、昇と同席の時は何時でもこうで。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
幸「ねえさん、此の人はお饒舌しゃべりで失敬な事を言うから腹ア立っちゃアいけません」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うちのおかみさんはお饒舌しゃべりをして歩くから、早く耳に入るのさ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「随分いろんなことをお饒舌しゃべりしまして。」
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
お通はかねて忌嫌いみきらえる鼻がものいうことなれば、冷然として見も返らず。老媼は更に取合ねど、鼻はなおもずうずうしく、役にも立たぬことばかり句切もなさで饒舌しゃべりらす。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樟脳しょうのうの匂いの芬々ぷんぷんするなかで、母親を相手に、老婦としよりはまたお饒舌しゃべりを始めていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「はあ、而も三人よ。揃いも揃ってお饒舌しゃべりの方ばかりに」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と云ってあえて君子の徳をきずつけるのではない、が、要のないお饒舌しゃべりをするわけではない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私は先刻からも大分お饒舌しゃべりを申上げましたから……」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お客様の御馳走ごちそうだって、先刻さっき、お台所だいどこで、魚のお料理をなさるのに、小刀ナイフでこしらえていらしった事を、私、帰ってお饒舌しゃべりをしましたら、おっかさんが、まあ、何というお嬢様なんだろう。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お饒舌しゃべりぐらいのものでしょう。お得意は」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)