たより)” の例文
他に身寄たよりはなし死ぬより他に仕方がございません、お家主さん貴方何卒どうぞ筆がおゆるしに成って帰れる様にお願いなすって下さいまし
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「僕は白状するが、実を云うと、平岡君よりたよりにならない男なんですよ。買いかぶっていられると困るから、みんな話してしまうが」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
せめては兼吉がうみの父にも増してたよりにして居た先生様の、御身のまはりなりと御世話致したら、牢屋に居るせがれも定めて喜ぶことと思ひましてネ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そっちじゃあ親はなし、あにさんは兵に取られているしよ、こういっちゃあ可笑おかしいけれども、ただ僕をたよりにしている。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世になまめかしき文てふものを初めて我が思ふ人に送りし時は、心のみを頼みに安からぬ日を覺束なくも暮らせしが、籬に觸るゝ夕風のそよとのたよりだになし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
丹子たんこの事も、ねえ、考へて見りや可哀かはいさうだし、あの子を始め阿母さんまで、私ばかりをたよりに為てゐるものを、さぞや私のい後には、どんなにか力も落さうし
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
扨而さて此の二日の大地震は前古未曾有みぞうにて、御同樣杖とも又柱ともたよりに致居候水戸の藤田戸田之兩雄も搖打ゆりうちに被逢、黄泉よみぢの客と被成候始末、如何にも痛烈之至り
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
小妹わたくし何故なぜこんな世の中に生きているのか解らないのよ』と少女むすめがさもさもたよりなさそうに言いました、僕にはこれが大哲学者の厭世論えんせいろんにもまさって真実らしく聞えたが
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
仏氏ぶっしのいわゆる生者しょうじゃ必滅ひつめつの道理、今更おどろくは愚痴に似たれど、夜雨やう孤灯ことうもと、飜って半生幾多いくたの不幸を数え来れば、おのずから心細くうら寂しく、世にたよりなく思わるる折もありき。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
硝子透き、窻掛を透き、斜めあかるみぎりは冬もなほいつくしく見ゆ、たより無き影としもなし、柔かく親しかりけり。薄玻璃の影もゆらげり。妻とゐる二階の書斎、ひる過ぎはただしづかなり。
此度の事は泰平の御代に武道を忘れ、縁辺の手柄をたよりに出世を望み給ひし御身の柔弱より出でし事ぞかし。今夜斬りし三人の顔触れを見給はゞ奈美殿の清浄潔白は証明あかし立つ可し。安心して引取り給へ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たとへば」と云つて、先生はだまつた。けむりがしきりにる。「たとへば、こゝに一人ひとりの男がゐる。ちゝは早く死んで、はゝ一人ひとりたよりそだつたとする。 ...
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
痛いのかと思うとそうでもなしに、むずがゆい、たよりない、ものでおさえつけると動気どうきおどようで切なくッてけません。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一門のたより、天下の望みをつなぐ御身なれば、さすがの横紙よこがみやぶりける入道にふだうも心を痛め、此日あさまだき西八條より遙々はる/″\の見舞に、内府ないふも暫く寢處しんじよを出でて對面あり、半晌計はんときばかて還り去りしが
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
硝子透き、窻掛を透き、斜めあかるみぎりは、冬もなほいつくしく見ゆ、たより無き影としも無し、柔かく親しかりけり。薄玻璃の影もゆらげり。妻とゐる二階の書斎、午過ぎはただしづかなり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
初さんは先へ行ってしまった。たよりはカンテラ一つである。そのカンテラがじいと鳴って水のために消えそうになる。かと思うとまた明かるくなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今でも物憂ものうげに見える。同時に快活である。たよりになるべき凡ての慰藉を三四郎のまくらうへもたらしてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
文明の波はおのずから動いてたよりのない親と子を弁天の堂近く押し出して来る。長い橋が切れて、渡る人の足が土へ着くや否や波は急に左右に散って、黒い頭が勝手な方へくずれ出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんがわが本領を解する藤尾ふじおたよりたくなるのは自然のすうである。あすこには中以上の恒産こうさんがあると聞く。腹違の妹を片づけるにただの箪笥たんすと長持で承知するような母親ではない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夕立を野中に避けて、たよりと思う一本杉をありがたしとこずえを見れば稲妻いなずまがさす。こわいと云うよりも、年を取った人に気の毒である。行き届かぬ世話から出る疳癪かんしゃくなら、機嫌きげんの取りようもある。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕は白状するが、実を云ふと、平岡君よりたよりにならない男なんですよ。買ひ被つてゐられると困るから、みんなはなして仕舞ふが」と前置まへおきをして、それから自分とちゝとの今日迄の関係を詳しくべたうへ
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)