)” の例文
彼らはもう売る物も、人にけるものもないほど、すべてが衣食についやされたあとだったので、家を立ち退くには雑作ぞうさはなかった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
文吉は、枝折戸の外に待たしてあるわたくしに菓子を少しけて呉れますが、ほとんど大部分をその場でぽり/\食べてしまいます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
執達吏の読上げて居る書籍は此春このはる郷里の兄からけて呉れた亡父の遺物である。保雄は父の遺骸を鬼に喰はれて居る様な気がた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
むしろ清盛を意識的にやっつけた罪ほろぼしの気持の幾分を、むすめたちの方へけて、すこし過賞に傾いた気味がないでもない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あとでいただくわ。それにそんな良い薬なら、東京の妹にもけてやりたいんです。このごろ何だかぶらぶらしているようだから。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
宗兵衛の後嗣と云うのが、非常に物のわかった人と見え、子供の養育料として一万両と云う可なりな金額をけてくれたそうです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「駄目だ。本船にも、その貯蔵がすくないから、けてやれない。香港ホンコン新嘉坡シンガポールへいって仕入れたらよかろうといってやれ」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとき三千六百万ドルを借り受けたハンガリアは耕地整理に費した金額の残額を地主にけ与えて土地を取り上げ、小作人にそれを分配した。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
冬籠りに必要な品々をけ合ふ時になつて、人々は特に、はつきりと、それを感じた。最も熱心なシャクの聞き手までが。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
それから母親は近所で氷のかたまりをけてもらって来た。氷があったので彼はほっと救われたような気がした。氷は硝子ガラスの器から妻の唇を潤おした。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
、三分の二ほど諸侯にけたと申しますが、太田淡路守様御先祖も武功によってその中から頂いた相で、今に御隠居様御自慢のお物語が御座います
「構わないから、その薬をけておくれよ……僕の財産の全部は内縁の妻伊奈子に譲る……っていう遺言書を書いといたら文句はないだろう……」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その他の三百ばかりも、ほとんど皆親族と知音とにけてしまった。全くの道楽仕事で、最初から市場にお目見えをしようとはしなかったのである。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
「人間の脳味噌の黒焼きはこの病気の薬だから、あなたも人助けだからこの黒焼きを持っていて、もしこの病気で悪い人に会ったらけてあげなさい」
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
当時の発行部数は約八百で、会員にけ市販はほとんどしなかった。私はこの仕事に約二十年間従事した事になるが、編輯者としての収入は一文もなかった。
「それはサートもそう云ってるよ。とにかくこの罐へ入れてやれば、木炭はそっくりとれるしさ、ハムもすぐには売れなくたって仲間へだけはけられるからな。」
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
相応かなり資本もとでを父からけられると、それでもつて竹本座のあやつり芝居を買取つて、座主、興行ぬし、兼作者として奮闘し、正面のゆかを横に、人形遣ひてすりを三人に改めたり
ところが彼はその賞金の全部を幾らか手伝ってもらった友人たちにけ与えてしまって、自分ではただその賞を記してある記念牌きねんはいだけを保存しておいたという話です。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
そして近所の同じ貧乏な、お内儀かみさんたちを呼んで来て、それをけたり、売ったりした。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
昨日少しばかりの麺麭パン屑を、この犬と二人でけて食べてから、まだ何も口に入れませぬ。今旦那さまに戴いたこのおあしで、今晩と明日の食べものを求める積りでございます。ハイ
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
私も祖父から一喝いっかつをくらって縮みあがった覚えがある。小学校の三年生のとき、貯蓄奨励の意味でポストの恰好をした貯金箱を実費で購入して生徒にけてくれるというくわだてがあった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
さて山の中では、折々木の根に腰を掛けて、嚢の中の物をヲルフにけてやります、この同じ危難に遭つて居る同病相憐む猟犬のヲルフに。こんな時にはリツプは犬に向つて言ひます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
西暦二五一年エジプトに生まれ、父母に死なれてその大遺産を隣人と貧民にけ尽し、二十歳からその生村で苦行する事十五年の後、移りてピスピル山の旧寨きゅうさいに洞居し全く世と絶つ事二十年。
どうか世間の石頭いしあたまへもけて呑ませてやりたいものだ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「うそなものか。お前がいらないと言えば、もともと売ろうと思っていたんだから、処分してしまうよ。用箪笥の中に指環や何かがあるんだがね。それは親類のものにけてやる事になっているんだ。見るだけなら見てもかまわない。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅野弥兵衛やへえに命じて、彼は、そのことごとくを、部下の全将士にけて今年の労をねぎらい、また来たるべき年の覚悟についてこう云い渡した。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冬籠ふゆごもりに必要な品々をけ合う時になって、人々は特に、はっきりと、それを感じた。最も熱心なシャクの聞き手までが。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「さあ、液体空気をけてさし上げましょう」そういって青谷技師は、床の上から手頃の魔法壜を台の上に引張りあげた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兄弟達に食物をけるとき、お島だけは傍に突立ったまま、物欲しそうに、黙ってみている様子が太々ふてぶてしいといって、何もくれなかったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其処でける厄除けの護符おまもりが有名で、府内に多くの信者を持ち、わけても本尊の如来は、名作の一つとされ、安政震火まで、土地の名物に数えられたものです。
私だちは空地の草場に輪をつくって、「ガリマ」に拠って得た果実をみなにけっこをするのであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
勝子が欲しがるので勝子にもけてやったりなどして、ひとりせっせとおしをかけいる。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
つまり資本主しほんぬしが儲けを得たら、それを使用人と一緒にけてたのしむといふのは、カアネギーから始まつた事で、これ迄の富豪かねもち達の知らなかつた事なのだ。だからシユワツブは言つてゐる。
次の皿には、焼豚がさも美味うまそうにほやほや煙を立てているが、モッフは、それをけるべくフォークを構え、ナイフをその肉にずぶりと突き刺したのを機会きっかけに、肝腎の話を切りだした。
俺にも一つ作ってくれんか。親友の好誼よしみに一つけてくれい。何も詠まんで死ぬと体裁が悪いけになあ。貴公が作ってくれた辞世なら意味はわからんでも信用出来るけになあ。一つ上等のヤツを
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……農家からけてもらったトマトは庭の防空壕ぼうくうごうの底にかごに入れてたくわえられた。冷やりとする仄暗ほのぐらい地下におかれたトマトの赤い皮が、上から斜にれてくるの光のため彼の眼に泌みるようだった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
所領も、児島城の財産も、すべて一同でよいようにけてくれい。——勝手な主人と思うであろうが、わしは再び武門へは帰らぬ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食をけるときも強壮者が美味をとり老弱者に余り物を与えるのが匈奴きょうどのふうであった。ここでは、強き者がはずかしめられることはけっしてない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お神が窓からほうりこんでくれたお菓子を妹たちにけ、自分ははなづけの気仙沼の烏賊いかをさいて、父と茶漬を食べている銀子に、母が訊くのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おお、劉洋行かね。おれは金博士じゃが、なんとかして燻製ものをけてくれ。おかねに糸目はつけんからのう」
私は幸いにしてこのレコードを二枚手に入れ、最近若き蒐集家W氏に捧呈して喜びをけた。
たとえ食べものや寝所が欲しさに戸を叩いたとしても、牛小舎ごやの隅の藁床へなりと寝かしてくれたっていいじゃないか。犬に食わせる麺麭パンかけらぐらいけてくれたってよさそうなものだ。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「そうね、三百円くらいいるな、子供にけてやることもあるからね。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
どうかして筑前守様が一日もはやくあるべき所にその位置を得られて、諸氏に和楽わらくのよろこびをけ与えて下さるような日が来ればよい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高野山に肺病なら必ずなおるという薬草があるのです。これは誰にも秘密だがね、僕の祖父時代までは家伝として製法して人にけてやっていたもんです。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ノーマ号では、飲料水などを、平靖号がけてやってもいいという返事に、いろめきわたった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は金の亡者となつて十年あまり苦しんだが、娘信乃しのには此苦しみをけ度くはないから、萬一の場合の爲に一言申しのこす。但し小判は何處に隱してあるか、それは申上げ兼ねる。
池上いけがみ本門寺の下寺の庭、馬込界隈かいわい百姓家ひゃくしょうやの庭、大森は比較的ひかくてき暖かいので芭蕉を植えるのに、育ちも悪くはないから、こくめいにさがし歩いてあそこで一本、ここで二本というふうにけてもらったり
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ことば短に、そういっただけで、床几をかち、あとは敵状や地勢などを問い、折々には、ふたりの笑い声が、山上の夜風に流れていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おごりっこですよ、小母さん。」お増は器用な手様てつきで札をいたりけたりした。興奮したような目が、ちらちらしたり、頭脳あたまがむしゃくしゃしたりして、気乗りがしなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)