賭場とば)” の例文
「……あれえッという女の悲鳴。こなたは三本木さんぼんぎ松五郎まつごろう賭場とばの帰りの一杯機嫌、真暗な松並木をぶらぶらとやって参ります……」
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昨夜は矢來の酒井樣の賭場とばで、宵から張り續け、尻の毛まで拔かれるほど取られて、夜半に歸つて來ると、出逢ひ頭に曲者と鉢合せを
「——博労衆が前景気に、賭場とばをひらいておりますので、もし八州の手先でも来てはと、こうして張番をたのまれているんです」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役割の市五郎は、金助から誘われて一蓮寺へ出かけてみようという気になったのは、一蓮寺の祭の夜は大きな賭場とばが開けているからです。
「ふふん、なるほど、道楽だったのか。それはそれはご結構なことじゃ。……それにしても思い切ったものだ。ちっとも賭場とばへ顔を出さないな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
賭場とばモンテカルロですっからかんになると、突然日本に郷愁を感じたものか、再びもとの懐しい紡縷ぼろまとうて、孤影瀟然しょうぜんとして帰来したのである。
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
そればかりでなく、十年前までは、兄弟同様に賭場とばから賭場を、一緒に漂浪して歩いた忠次までが、何時となく、自分をかろんじている事を知った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お庄がその酒屋へ行って聞き取ってみると、社長の夫人が例の賭場とばを開いているのだということが、じきに解った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
売りとばしたことも五たびや六たびじゃあねえ、大阪では賭場とばのでいりで、人を二人あやめたことさえあるんだ
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただこのときの伴蔵が傍らの志丈もあとで賞めるよう「悪いという悪い事は二、三の水出し、らずの最中もなか野天のてん丁半の鼻ッ張り、ヤアの賭場とばまで逐ってきたのだ」
ぎょッとして思わず心で叫びながら、立ちすくんだ。辰馬に誘われ、初めて行ってみた賭場とばに運悪く手入れがあって、二人は命からがらここまで落ちのびて来たのである。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
オブシーン・ピクチュアを見せる遊廓ゆうかくはどこそこにあるとか、東京にける第一流の賭場とばは、どこそこの外人まちにあるとか、そのほか、私達の好奇心を満足させるような
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「わたしらは毎晩じゃありません。でも作さんは大抵毎晩どこかへ出て行くようです。山の手にも小さい賭場とばがたくさんあるそうですから、大方そこへ行くんでしょう」
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この村に這入りこんだ博徒らの張っていた賭場とばをさして彼の足はしょう事なしに向いて行った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ぴんからきりまで心得て穴熊あなぐま毛綱けづな手品てづまにかゝる我ならねば負くるばかりの者にはあらずと駈出かけだしして三日帰らず、四日帰らず、あるいは松本善光寺又は飯田いいだ高遠たかとおあたりの賭場とばあるき
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くるまに乘る人とく人と教會ミツシヨンに行く人と賭場とばに行く人とが出來るのであらうか——際限も無く此様なことを考へ出して、何んとか解決を得やうとあがいて見た。雖然解らなかった。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「風呂へ行くって、今、何時だと思ってるんだ。賭場とばを出た時、一時を打ったんだぞ」
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
それに深淵があんな話をしやがるものだから、不愉快になってしまった。あいつ奴、妙な客間をこしらえやがったなあ。あいつの事だから、賭場とばでも始めるのじゃあるまいか。畜生。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その一つの賭場とばである牛込藁店うしごめわらだなへ偶然に行き当たった者が相撲すもう上がりの長助で、不幸なことに、かれは少しばかり小欲に深い男でありましたから、検挙しながらわずかのそでの下で
痛い目を我慢して若い頃というものはお互無茶をしたものですな、もっともあの頃はこれでおどしもきいたし、賭場とばにはぐりつけに行っても、この刺青いれずみ長脇差どすの代りになったような事も
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
手拭てぬぐいぽん裸絵巻はだかえまきひろげていたが、こんな場合ばあいだれくちからもおなじようにかれるのは、何吉なにきちがどこの賭場とばったとか、どこそこのおなにが、近頃ちかごろだれにのぼせているとか、さもなければ芝居しばいうわさ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
みな賣盡うりつくし今は必至ひつしの場合に至りければ何がなしてなほ資本もとでこしらへ大賭場とば
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しじゅう賭場とばで顔を合せる、ならずの新吉という男を訪ねた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
昔だと賭場とばの上へ裸でひッくり返ろうというやっこなんで
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「昨夜のうちに突きとめて、見張らせて置きました。近所の賭場とばにもぐつて、良い加減勝ち續けて居ましたよ。宵から目が出たさうで」
不意に飛び出したこの六尺豊かの壮漢が、痛快というよりは乱暴極まるれ方をして、あっというまもなく、賭場とばを根柢からくつがえしてしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
百が、何げなく、今、賭場とばから追われて行った浪人の連れの者だと話すと、博労たちはけわしい眼をお稲にあつめて
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ゆうべまではいたんだが、ゆうべおそく賭場とばから使いがあって、でかけたまんままだ帰らねえというわけで」
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
津軽侯の浪人司馬又助——などというやからと押し廻り、賭場とばへ行ってはさいをころがし、女郎屋や小料理屋へ出かけて行っては、強請ゆすりがましく只で遊んだりした。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「私が死んだらな、お通夜つやにみんなで賭場とばを開帳してな、石塔は花札の模様入りにしてもらいまっさかい。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『どうです、親方。花川戸はなかわどの辰親分の内で、いい賭場とばが開いていますぜ』と云うじゃありませんか。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鬼が出るなどと云い触らして、土地のごろつきどもの賭場とばになっていたらしいのです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雑穀屋からは、燕麦からすむぎが売れた時事務所から直接に代価を支払うようにするからといって、麦や大豆の前借りをした。そして馬力を頼んでそれを自分の小屋に運ばして置いて、賭場とばに出かけた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「明日の賭場とばが立つまでに五千両都合出来ないか。おい」
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
やり出すか判りやしません。最初からこの野郎が一番怪しかつたが、困つたことにその晩は馬道の賭場とばで夜明しをして、ひと足も外へ出なかつたさうで
『おおたつ洒落しゃれた苦情をいうなあ。この賭場とばばかりじゃねえ。何処の場でも、てめえの小細工は名うての事じゃねえか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
痩せた男は顎をしゃくった、「向うの庫裡で仁兵衛が賭場とばをやってる、すみは約束どおり来ていたよ」
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから盆ゴザと申しやしても、特別別製に編ましたゴザがあるわけではございません、世間並みのゴザ、花ゴザでもなんでもかまいませんよ、それを賭場とばへ敷き込んで
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丁度その賭場とばでかせいだ中から二分金を一つやりましたが、感心なことにそれを、なかなか受け取ろうとは致さないのでございますが、やっと地に投げすてるようにして参りましたが
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その屋敷のうちに賭場とばの開かれることは、お豊が今の口ぶりで大抵推量された。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それで火祭りというのであるが、諏訪神社は、宿から十数町離れた丘つづきの森の中にあり、その森の背後の野原には、板囲いの賭場とばが、いくらともなく、出来ていて、大きな勝負が争われていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やり出すか判りゃしません。最初からこの野郎が一番怪しかったが、困ったことにその晩は馬道うまみち賭場とばで夜明しをして、一と足も外へ出なかったそうで
賭場とばの常連だから黙ってスウと奥へ通ってしまう。おばさんは良人の孫新へチラとすぐばたきを見せる。世辞をき撒き孫新があとから奥へついていく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうするんです」義一はにっと歯を見せて笑った、「賭場とばを開くんなら、あっしが札を配りますぜ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは名物の博徒ばくと——長脇差の群であって、こういう場合には、ほとんど大手を振って集まって来て、おのおのしかるべき格式によって、賭場とばを立てるのが慣例でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道場は賭場とばと一変し、門前雀羅じゃくらを張るようになった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨夜お光が櫻湯へ行く前に、ちよいと下總屋を覗いたことまでわかつて居ますが、それから松永町の賭場とばへ行つて、一と勝負二た勝負眺めて居たさうです。
などと、そのお八重を連れて、二人で、見せびらかしにでも歩くように、賭場とばへ出ることもあった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「旦那の仰しゃることはわかってます」と弥五は云った、「が、まあ聞いて下さい、私の十五のときのことですが、人に頼まれて賭場とばの見張りに立ったことがありました」
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夜更くるまで本邸の奥で賭場とばを開いていることを、お松は浅ましいことだと思いました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)