見極みきわ)” の例文
加瀬谷少佐は、この日、ことのほか、にこにこしていた。こんどこそ、この地下戦車はうまくうごくであろうと見極みきわめていたからだった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほぼ見極みきわめをつけて、幾年目にどれだけの資本もとが出来るという勘定をすることぐらい、新吉にとって興味のある仕事はなかった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いかに見極みきわめても皿は食われぬ。くちびるを着けぬ酒は気が抜ける。形式の人は、底のない道義のさかずきいだいて、路頭に跼蹐きょくせきしている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いわれて見ると、無意識にではあったが、彼はあさましくも、相手の表情のかすかな変化を見極みきわめて、毒杯の方を避けようとあせっているのに気附いた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
六郎は曲物くせものと思ったので、じぶんの体を見せないようにと、ちょと己を見返って、それが木立の陰になっているのを見極みきわめると、急いで雨戸の方へ眼をやった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこで、何か見極みきわめたい気もして、その平地ひらち真直まっすぐくと、まず、それ、山の腹がのぞかれましたわ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久米之丞は心のうちで、もうてッきり鍛冶かじ小屋に泊った女と見極みきわめをつけて、なお膝をすすめながら
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その何者であるかを、一見しては見極みきわめることはできませんでしたけれども、二度目によく眼を定めて見れば、それが破牢人の片割れであることは直ぐに知れたのであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ドタドタと階段をおっこちて、事務所に殺到さっとう、事務員のひとが、呆気あっけにとられているか、笑っているのか見極みきわめもできぬ素早さで算盤をひったくり、次いで、階段を、大股おおまた
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
証拠がないので今まで堪忍していたが、いよいよこうと見極みきわめが付いたら、あたしは不二屋へ蛇を持って行って、いつかお此を責めたように、お里をむごたらしく責めてやりたい。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
血染の匕首が開けたままの窓の外へ飛んで行くのを見極みきわめて半助は死んだのだろう
山頂に滞在せる大工だいく石工せきこう人夫にんぷら二十余名が手をむなしくして徒食せるにもかかわらず、予約の賃金は払わざるべからず、しかもその風雨は何時いつ晴るべき見極みきわめも付かず、あるいは日光のために
それなのに閑子はまだ自分への見極みきわめをつけようとせず、うろうろしている。うろうろすることで何かのはずみには誰かが又野村の方へ押しやってくれるような空想をしているのかもしれぬ。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
障子しょうじれるひかりさえない部屋へやなかは、わずかにとなりから行燈あんどん方影かたかげに、二人ふたり半身はんしんあわせているばかり、三ねんりでったあにかおも、おせんははっきり見極みきわめることが出来できなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
村の奴等が皆帰ったかどうか、ちゃーんと見極みきわめて帰ってきたのじゃ、いくら酔うて居っても、おれは貴様、もしもの事があってはと思うて今まで残って居ったんじゃ。もう富来には誰も居らんぞ。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
日の神フォイボスさんの見極みきわめる目の前へ
たださえ、うねり、くねっている路だから、草がなくっても、どこへどう続いているか見極みきわめのつくものではない。草をかぶればなおさらである。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見極みきわめようとした途端とたんに、ひとでのような彼女の五本の指が降りて来て僕の視線の侵入するのを妨げてしまった。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを見極みきわめた刑事は、さもわが意を得たという風に、警部の方に向って、一席弁じだした。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しゃなりしゃなりと彼女の涼しげな姿が、彼の目の先を歩いて行ったが、どんなうちへ入って行ったかは、よく見極みきわめられなかった。それがクルベーの邸宅であることは、ずっと後にわかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『よし、おれが、見極みきわめる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、金星のブブ博士は、今より三十年後には、地球が一大要塞化することを見極みきわめて報告していたではないか。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「はあ、そうでしたか」と云ったぎり、小野さんはじ上げた五分心ごぶじんの頭を無心にながめている。浅井の帰京と五分心の関係を見極みきわめんと思索するごとくに眸子ぼうしは一点に集った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
めらめらぱちぱちと、すごい火勢かせいに、研究室はたちまち火焔地獄かえんじごくとなり、煙のなかに逃げまどう人の形があったが、その後のことは、帆村も田鍋課長も見極みきわめることが出来なかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分の様子を見て、故意に俵の上へ腰をおろしたんでないと見極みきわめた語調である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はありのままその物を父母ふぼに報知する必要にせまられてはいなかった。けれどもある男にとついだ一個の妻として、それを見極みきわめておく要求を痛切に感じた。彼女はじっと考え込んだ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分と夫の間には何のわだかまりもない、またないはずであるのに、やはり何かある。それだのに眼をけて見極みきわめようとすると、やはりなんにもない。奥さんの苦にする要点はここにあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
追い懸けて来る過去をがるるは雲紫くもむらさきに立ちのぼ袖香炉そでこうろけぶる影に、縹緲ひょうびょうの楽しみをこれぞと見極みきわむるひまもなく、むさぼると云う名さえつけがたき、眼と眼のひたと行き逢いたる一拶いっさつ
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
要領を得ない結果ばかりで私もはなはだ御気の毒に思っているんですが、あなたの御聞きになるような立ち入った事が、あれだけの時間で、私のような迂闊うかつなものに見極みきわめられる訳はないと思います。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)