襤褸つづれ)” の例文
老婆は大きな眼鏡をかけて冬の仕事に取かかって襤褸つづれぬっている……鳥籠の上に彼方かなた家根やねの上から射し下す日はあたたかに落ちて
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四歳にしかなるまいと思われる小娘であって襤褸つづれてはいるが金襴きんらんらしい幅のせまい鉢の木帯をしめ、たもとのまるい着物を着ているのである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、あの容貌きりょうのよい、利発者りはつものの娘が、おこもりをするにも、襤褸つづれ故に、あたりへ気がひけると云う始末でございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女性にことに著しい美的扮装ふんそう(これはきわめて外面的の。女性は屡〻しばしば練絹ねりぎぬの外衣の下に襤褸つづれの肉衣を着る)、本能の如き嬌態きょうたい
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
貧苦と、襤褸つづれと、死と、絶望の満ちたこの部屋の中に、彼女が突然姿を現わしたのは、不思議な思いがするほどであった。
夕陽の砂浜に立って、その襤褸つづれからも後光が射しそうで、増屋の佐五兵衛が爪を磨ぐのも無理のない美しさです。
そしてあのこおろぎの鳴くのは、「襤褸つづれせつづれさせ」と言って鳴くのだ、貧しいものはあの声を聞いて冬の着物の用意をするのだと言って聞かせました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
娘のほうは十六か七であろう、襤褸つづれの野良着こそ着ているが、色の白い丸ぽちゃの愛くるしい顔だちで、星のように潤みをもった眼がじっと男の横顔をみつめている。
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ぼろぼろの襤褸つづれを着て、青い鼻洟はならして、結う油もない頭髪を手拭てぬぐいで広く巻いて、叔父の子を背負いながら、村の鎮守で終日田舎唄いなかうたを唄うころは無邪気であった。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うしろ見られぬうらみし別離わかれの様まで胸にうかびてせつなく、娘、ゆるしてくれ、今までそなたに苦労させたはわが誤り、もう是からは花もうらせぬ、襤褸つづれも着せぬ、荒き風をその身体からだにもあてさせぬ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お花は心のさまさして悪しからず、ただ貧しき家に生れて、一年ひととせ村の祭礼の折とかや、兄弟多くして晴衣はれぎの用意なく、遊び友達の良き着物着るを見るにつけても、わがまとえる襤褸つづれうらめしく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「聞いたような名だがどこが珍しい」——「〽泉嘉門の珍しさは、なんにたとえん唐衣からごろも、錦の心を持ちながらも、襤褸つづれに劣る身ぞと、人目に見ゆる情けなや、ころは神無月かんなづきの夜なりしが、酒を ...
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その事のていを見てあれば、不具者かたわものも、五体満足なのも取交ぜて、老若男女の乞食という乞食が、おのおのその盛装を凝らし、こもを着るべきものは別仕立のきたないのを着、襤褸つづれの満艦飾を施し
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と打って変って喜悦の涙、襤褸つづれの袖を分ちけり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くされゆく襤褸つづれのにほひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
襤褸つづれの袖をかいさぐり
駱駝の瘤にまたがつて (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
青地あをぢ襤褸つづれ乞食かたゐらが
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
思い出もいまは古い、小紋こもんの小切れやら、更紗さらさ襤褸つづれや、赤い縮緬ちりめんの片袖など、貼板はりいたの面には、彼女の丹精が、細々こまごまつづられて、それはるそばから、春の陽に乾きかけていた。
何のじょうを含みてかわがあたえしくしにジッと見とれ居る美しさ、アヽ此処ここなりと幻像まぼろしを写してまた一鑿ひとのみようやく二十日を越えて最初の意匠誤らず、花漬売の時の襤褸つづれをもせねば子爵令嬢の錦をも着せず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かたわらに引き添った一老人、すなわち薬草道人で腰ノビノビと身長せい高く、鳳眼鷲鼻白髯白髪、身には襤褸つづれを纒っているが、火光に映じて錦のようだ、白檀びゃくだんの杖を片手に突き、土を踏む足は跣足はだしである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
襤褸つづれ素脚すあしの樣にして
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「そうです。よい名でしょう。もうしばらくは、この茅屋あばらや襤褸つづれの御辛抱をねがいますが、母上も、もっとお心を、しかと大きく持ってください。——木下藤吉郎の母であるぞと」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身には粗末な襤褸つづれを着、手に薬草を持っている。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、さっき渡船わたしの中へ忘れてしまうところだった襤褸つづれの巾着を、武蔵の手に預けた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると関興は夜更けて、ただ一騎、満身血と襤褸つづれになって引き揚げてきたが
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの襤褸つづれにひとしい古小袖が、生れ代ったように、仕立て直してあった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
襤褸つづれた袖口をあてたまま、彼女は顔を上げ得なかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)