かさ)” の例文
下宿へ帰って来た俊助しゅんすけは、制服を和服に着換きかえると、まず青いかさをかけた卓上電燈の光の下で、留守中るすちゅうに届いていた郵便へ眼を通した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
石灯籠のかさにあたつて花火のやうに飛び散つてゐるのがあつた。泉水の汀の苔石の上に、赤児の糞にも見紛ぎらしいのがあつた。
蔭ひなた (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
卓子テーブルの上には、緑色のかさのかかった電燈が一つ点いていて、その部分だけが明るいけれど、部屋中が一体にぼんやりと暗影かげっていました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そのせいか、島田の自分を見る眼が、さっき擦硝子すりガラスかさを通して油煙にくすぶった洋燈ランプを眺めていた時とは全く変っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また短い芝草の生えた緩い傾斜で、勢揃いでもしているように、朽葉色のかさを反らして、ずらりと一列に立ち並んでいるのを見たこともあった。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
かさは浅い鐘形で径五分ないし一寸ばかり、灰白色で裏面の褶襞ひだは灰褐色である。全体質が脆く、一日で生気を失いなえて倒れる短命な地菌である。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
仰げばかさを張つたやうな樹の翠、うつむけば碧玉をいたやうな水のあを、吾が身も心も緑化するやうに思はれた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あらゆる華麗な嫁入り妝匣どうぐがそろった。おびただしい金襴きんらん綾羅りょうらわれた。馬車やかさが美々しくできた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古めかしい奥座敷に取付けられた白い電燈のかさの下で、三吉は眼がめた。そこは達雄の居間に成っていたところで、大きな床、黒光りのする床柱なぞが変らずにある。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
秋元の我部屋へ帰ってからも、なお鳴鳳楼の座敷に居るような心持で、きょう半日珍しく楽を得て居た机に片肱かたひじ載せ、衣服きものも着更えず洋燈らんぷかさ瞻詰みつめて、それでその蓋に要があるのではなく
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
はたかさで美々しく飾り、王みずから四種の兵隊を随えて智馬を迎え、赤銅の板を地に畳み上げて安置し、太子自ら千枝の金の蓋をささげその上を覆い、王の長女金と宝玉で飾った払子ほっすで蚊や蠅を追い去り
虎第五怨—五蓋の喩、肉慾、貪瞋、惛眠、(沈滯)掉悔、(躁動)疑の五は心の明朗を覆障してかさの如くなれば蓋と名づく、虎は五蓋中の第五蓋に喩ふ、虎第五怨は「虎を第五とせるもの」の義なり。
法句経 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人共にりの大理石の欄干に身をもたせて、二人共に足を前に投げ出している。二人の頭の上から欄干を斜めに林檎りんごの枝が花のかさをさしかける。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俊助は青いかさをかけた卓上電燈の光の下に、野村の手紙と大井の小説とを並べたまま、しばらくは両腕を胸に組んで、じっと西洋机デスクの前へ坐っていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このわび人たちは、仲間にはぐれないように互に肩をくっつけ合い、かさを傾け合って、ひそひそ声で話している。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
若芽の伸びた藤の房が、もう四五寸で灯籠のかさにとゞきさうなのが、浴室からの明りでぼんやりと認められた。
まぼろし (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
部屋には青いかさ洋燈ランプがしょんぼりともっていた。その油の尽きかけて来た燈火ともしびは夜の深いことを告げた。岸本は自分の寝床を壁に近く敷いて、その上に独りで坐って見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
段〻と左へ燈光ともしびを移すと、大中小それぞれの民家があり、老人としよりや若いものや、蔬菜そさいになっているものもあれば、かさを張らせて威張いばって馬にっている官人かんじんのようなものもあり
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
室内なかはいやにうす暗くて、初めは低いかさをかぶせたランプのほか何も見えなかったが、だんだん眼が慣れて来るにしたがって、一箇の人影がぼんやりと壁にうつっているのを認めた。
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
また実際ランプのかさが風を起して廻る中に、黄いろいほのおがたった一つ、またたきもせずにともっているのは、何とも言えず美しい、不思議な見物みものだったのです。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
門野は暗い廊下を引き返して、自分の部屋へ這入はいった。静かに聞いていると、しばらくして、洋燈ランプかさをホヤにつける音がした。門野は灯火あかりけたと見えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
部屋には青いかさ洋燈ランプがしょんぼりとぼっていた。がっしりとした四角な火鉢ひばちにかけてある鉄瓶てつびんの湯も沸いていた。岸本は茶道具を引寄せて、日頃ひごろ好きな熱い茶を入れて飲んだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
段〻と左へ燈光ともしびを移すと、大中小それ/″\の民家があり、老人としよりや若いものや、蔬菜を荷つてゐるものもあれば、かさを張らせて威張つて馬につてゐる官人のやうなものもあり
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私はランプのかさに凝ツと翅を止めて
ゾイラス (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「アハハハハ」と老人は大きな腹をり出して笑った。洋灯ランプかさ喫驚びっくりするくらいな声である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
耳木兎はかさにかかつて、嘴を鳴らしながら、又一突き——弟子は師匠の前も忘れて、立つては防ぎ、坐つては逐ひ、思はず狭い部屋の中を、あちらこちらと逃げ惑ひました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この文句を口吟くちずさんで見て、岸本は青い紙のかさのかかった洋燈ランプで自分の書斎を明るくした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は独り言をいって、草花の模様だけを不透明にった丸いかさの隙間をのぞき込んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人ふたりの問答はそれえた。門野かどのくらい廊下を引き返して、自分の部屋へ這入つた。しづかに聞いてゐると、しばらくして、洋燈ランプかさをホヤにつけるおとがした。門野は灯火あかりけたと見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)