苦笑にがわらい)” の例文
「や、駒越氏こまごえうじには、もう見付られたか。余の儀は知らず女に掛けては恐しく眼の利く御人でがな」と総髪の人は苦笑にがわらいを禁じ得なかった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
私を見て苦笑にがわらいしながら、羽織でくるくると夏帽子を包んで、みしと言わせて、尻にかって、投膝に組んでてのひらをそらした。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「僕かい」と原は苦笑にがわらいして、「僕なぞは別に新しいものを読まないさ。此頃こないだ英吉利イギリスの永田君から手紙が来たがね、お互いにチョンまげ党だッて——」
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貴方が居ないと伊香保から此処まで来はしません……貴方苦笑にがわらいしてはいけません、何うもお品が好うがすな、何か云うとこう苦笑いなどは恐れ入りますねえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あたりの雪を足でかきまぜてさがして見たがどうしても見あたらぬ。どっかで落したものらしい。彼は、この馬鹿げた事件をひとりで苦笑にがわらいするより他はなかった。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そうしてそれから二月ほど過ぎたある日、煙草屋の母子殺しの真犯人が逮捕せられたという新聞記事を読んだとき、彼はにやりと薄気味の悪い苦笑にがわらいをもらしました。
新案探偵法 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
唖と盲は稲次郎のたねと分ったが、あの二人ふたりは久さんのであろ、とある人が云うたら、否、否、あれは何某なにがしの子でさ、とある村人は久さんで無い外の男の名を云って苦笑にがわらいした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まあ、そんなに云うものではありませんよ」と云って、苦笑にがわらいをしながら出て往きました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、夥しいこのカワカミ集団を見て苦笑にがわらいをしているかもしれない。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まアどうして?」と妻のうれしそうにとうのを苦笑にがわらいで受けて、手軽く
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この頃は眼中には雲を懸けて口元には苦笑にがわらいを含んでいる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ときには苦笑にがわらいをしたりして。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
船長が苦笑にがわらいした。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
おとがいの長い顔をぼんやりと上げた、余り夫人の無雑作なのに、ちと気抜けのていで、立揚たちあがる膝が、がッくり、ひょろりと手をつき、苦笑にがわらいをして、再び
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ホ、お前の方でもそうか」と森彦は苦笑にがわらいして、「俺は又、お前の方で出来るだろうと思って、未だお俊の家へは送れないでいるところだ——困る時には一緒だナア」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庄「本当のお金だって(苦笑にがわらい)」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伯爵は苦笑にがわらい。「うふふふ、わし如燕じょえんになさる。そういうことをいわるると恐怖おっかない談話をするぞ、怪談を。」とおおする折しも、庭にて犬の鳴く声しきりなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ホッと一息いて、私は御部屋へ参って見ますと、押入のなかに隠れた人は頭かきかき苦笑にがわらいをしておりました。私は御気毒にもあり、御恥しくもあり、奥様の御傍へ寄添いながら
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
差配おおやさん苦笑にがわらいをして、狸爺め、濁酒どぶろくくらい酔って、千鳥足で帰って来たとて、桟橋さんばしを踏外そうという風かい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と答えるお種の顔には憂愁うれいの色が有った。それを彼女は苦笑にがわらいまぎらわそうともしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫人がした通りに、茶棚のわきの襖口へ行きかけた主税は、(菅女部屋)の中を、トぐるりと廻って、苦笑にがわらいをしながら縁へ出ると、これは! 三足と隔てない次の座敷。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御宅へ黙って出ていらしったんでしょう……」と曾根も気の毒そうに苦笑にがわらいした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朱の盤 いやさ、見惚れるに仔細しさいはないが、姥殿、姥殿はそこに居て舌が届く。(苦笑にがわらいす。)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と彼の方で串談じょうだん半分に言出して見た時でも、節子は苦笑にがわらいして取合わなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その口癖がつい乗った男の方は、虚気うつけ惑溺わくできあらわすものと、心付いた苦笑にがわらいも、大道さなか橋の上。思出しわらいと大差は無いので、これは国手せんせい我身ながら(心細い。)に相違ない。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いえ——ナニ——」と稲垣は苦笑にがわらいして、正直な、気の短かそうな調子で、「少しばかり衝突してネ……彼女あいつ口惜くやしまぎれにこうがいを折ちまやがった……馬鹿な……何処の家にもよくあるやつだが……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ニタリと、しかし、こう、何か苦笑にがわらいをしていそうで、目も細く、目皺めじわが優しい。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源は苦笑にがわらいをしました。書記はそれとも知らない様子で
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「何じゃい。」と打棄うっちゃったように忌々いまいましげにつぶやいて、頬冠ほおかぶりを取って苦笑にがわらいをした、船頭は年紀とし六十ばかり、せて目鼻にかどはあるが、一癖も、二癖も、額、まなじり口許くちもとしわに隠れてしおらしい
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうお種が言って笑ったので、三吉の方でも苦笑にがわらいした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
義作は左の耳から頬へかけててのひらですぺりと撫でて、仕方を見せ、苦笑にがわらいをして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この嫂の皮肉は義雄を苦笑にがわらいさせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苦笑にがわらいをして、客の方がかえって気の毒になる位、別段腹も立てなければ愛想も尽かさず、ただ前町の呉服屋の若旦那が、婚礼というので、いでやかねての男振おとこぶり、玉も洗ってますますあでやかに
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源も苦笑にがわらいしながら入りました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
フヽンと苦笑にがわらいをするところだが、此処ここは一つ、敢て山のかみのために弁じたい。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
芥川さんなどは、話上手で、聞上手で、せていても懐中ふところが広いから、嬉しそうに聞いてはくれるでしょうが、苦笑にがわらいものだろうと思うから、それにさえ遠慮をしているんですがね。——御主人。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言って苦笑にがわらいをしなさったっけ……それが真実まことになったのでございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお夏は自若としていって真顔で居る、愛吉は苦笑にがわらい、また苦笑。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従七位の摂理の太夫は、黒痘痕くろあばたしわゆがめて、苦笑にがわらいして
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああいう親方が火元になります。」と苦笑にがわらい
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小宮山は苦笑にがわらいを致しましたが、む事を得ず
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、苦笑にがわらいしたらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五助は苦笑にがわらいをして
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦笑にがわらいしてつぶやきたり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苦笑にがわらい
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)