花卉かき)” の例文
花卉かきとして東京でいつ頃からもてあそばれているか知らない。とにかくサフランを売る人があると云うことだけ、この時始て知った。
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……しかし、その後、ある奇縁によって発奮し、カルフォルニアで香水原料の花卉かき栽培に従事し、飽き飽きするほどの財産をつくりました。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
鈴木春信は可憐なる年少の男女相思の図と合せて、また単に婦人が坐臥ざが平常の姿態を描きたくみに室内の光景と花卉かきとを配合せり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『「プルムウラ」の由来』を見ると、脚本を書くとき、その現地の時候や花卉かきのことまで当って見ねばならぬといってある。
その子供たちが、誰が教えるともなく、山から採って来た花卉かきを、与八のこしらえた新しい壇のまわりに植えはじめました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しんをとめるものは心をとめ、肥料のやり時、中耕の加減かげんも、兎やら角やら先生なしにやって行ける。毎年わし蔬菜そさい花卉かきたね何円なんえんと云う程買う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
東洋では花卉かき栽培の道は非常に古いものであって、詩人の嗜好しこうとその愛好する花卉はしばしば物語や歌にしるされている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ソノ画ク所花卉かき翎毛れいもう山水人物ことごと金銀泥きんぎんでいヲ用ヒテ設色スルニ穠艶じょうえん妍媚けんびナラザルハナク而モ用筆ようひつ簡淡かんたんニシテ一種ノ神韻しんいんアリ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
浅草奥山の植六を私の父が引き受けて花屋敷と改称、花卉かき盆栽のほかに虎熊などの動物を加えて開業ちょうど一周年。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
長椅子や大小のテーブルがたくさんに配置され、壁には絵が掛けてあり、テーブルの上には花びんやランプが置かれて、花卉かきの類もたくさんあった。
不良少年を感化するために、園芸に従事させて花卉かきに親しませるという方法が近年行なわれて来たようです。わたしは非常によいことだと思います。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにせよ、花卉かきの高い香いと花樹のけんを主としたあんな広大な花園を、ぼくは日本の中では他に見たことがない。
六階で以前のままなものは花卉かき盆栽を並べた温室である。自分は三越へ来てこの室を見舞わぬ事はめったにない。いつでも何かしら美しい花が見られる。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
キュルテュール・サント・カトリーヌ街に足を止める通行人には、消防夫屯所とんしょの向こう、湯屋の表門の前に、花卉かきや盆栽がいっぱい並べてある中庭が見える。
花卉かきの大幅を一杯に掛けた、豪奢ごうしゃの床の間を背負って武士は悠然と坐ったが、冠った編笠はがなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同じ物を盗むのでありながらも、いわゆる風流泥坊で、その盗む者が花卉かきの中でも殊に清高な姿をして芳香を持った梅の花である事が、一種の面白味を持っている。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
水墨、着彩——人物や山水や花卉かき、とりどりであるが、それらは全部、いまでも眼の前に、細部まで、ありありと繰りひろげて見ることができる、と一玄は云った。
その著るしきは先年の展覧会に出品された広野健司氏所蔵の花卉かきの図の如き、これを今日の若い新らしい水彩画家の作と一緒に陳列してもゆうに清新を争う事が出来る作である。
そこからは、裏庭の花卉かき園や野菜園を隔てて、遠く表徴樹トピアリーの優雅な刈りまがきが見渡される。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
花卉かき、石材、ガラス板、セメント、鉄材、などの註文書が、或は註文の使者が、遠くは南洋の方までも送られ、夥多あまたの土方、大工、植木職などが続々として各地から召集されました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
入口から垣うちに添うて花卉かき草木を繁く植え込み、晩春の木の芽の鮮やかさ、よみがえる古葉の色つやの照りの間に、海棠かいどうのようなあどけなくも艶に媚びた花の色をちら/\と覗かせて
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
右衛門作はよく油絵を学び巧に人物花卉かきを描いたが、彼が刑罰の図を作ることを命ぜられたのもそのためであった。後ち耶蘇教を人に勧めたために、獄に投ぜられて牢死したということである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
そうして庭園のように、他所よそ行きの花卉かきだの、「見てくれ」の装飾だのがしてないところに、又しようとも思わない無造作のところに、思いさま両手を伸ばしてあくびでもするような気持になれる。
菜の花 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それは赤い椿つばきだの、むらさき東菊あずまぎくだの、色変りのダリヤだので、いずれも単純な花卉かきの写生に過ぎなかったが、らない所にわざと手を掛けて、時間の浪費をいとわずに、細かく綺麗きれいに塗り上げた手際てぎわ
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
国境と線路に接続した伊太利の花卉かき園が
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
疲れた旅人はここに会して芸術鑑賞という共同の泉からかわきをいやすことができた。茶の湯は、茶、花卉かき、絵画等を主題に仕組まれた即興劇であった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
それがたとえていえば、小川に洗われて底に沈んでいる陶器の破片が染付そめつけ錦手にしきでいろどられた草木花卉かきの模様、アラベスクの鎖の一環を反映屈折させて
一 市川松莚いちかわしょうえん君この頃『本草図譜ほんぞうずふ』『草木育種』『絵本野山草のやまぐさとうに載する所の我邦在来の花卉かきを集めて庭にゆ。
一夕 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
例えば光琳こうりんの草木花卉かきに対するのでも、歌麿うたまろ写楽しゃらくの人物に対するのでもそうである。こういう点で自分が特に面白く思うのは古来の支那画家の絵である。
花卉かきも面白いが、鬼の念仏や閻魔えんまさまが得意、お堂のわきへ台をすえ、寒冷紗やすき返しの紙に描いた自画の上へ、小石を置いて飛ばぬように並べて売っていた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
演奏がおわってから、勝三郎らは花園をることを許された。そのはなはだ広く、珍奇な花卉かきが多かった。園を過ぎて菜圃さいほると、そのかたわら竹藪たけやぶがあって、たけのこむらがり生じていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
太陽の熱という生物の根元、地球の回転によって生ずる春夏秋冬、雷霆らいてい風雪、禽獣虫魚、草木花卉かきすべてこれらの広大なる現象に詩を見出すことは我が俳句の使命であります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
花卉かきを描いた優れた油絵、美女を描いた日本の版画、それらは名ある物でした。
日本中の花卉かき花木かぼくを集めた植物園といったような広さである。いまおもうと、社屋のある表の鉄門のわきに、赤煉瓦の倉庫が幾棟か見え、いつも倉庫の口から百合根ゆりねを荷馬車に山と積みこんでいた。
その他の花卉かきは、蕁麻いらぐさやぶとなり、あるいは枯れてしまった。
一、靄崖あいがい花卉かき粉本ふんぽん一巻(模写)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
鬱屈した気分を解くには草木花卉かきのことを考えるに限る。鶴見はさきに『死者の書』を読み、感動して、動物の姿を追うて、過現未の三世さんぜに転々した。
日本の風土を離れて広重の美術は存在せざるなり。余は広重の山水と光琳こうりん花卉かきとを以て日本風土の特色を知解せしむるに足るべき最も貴重なる美術なりとなす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西洋でも花瓶かびん花卉かきを盛りバルコンにゼラニウムを並べ食堂に常緑樹を置くが、しかし、それは主として色のマッスとしてであり、あるいは天然の香水びんとしてであるように見える。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
花卉かきを愛する事人に超えたり。病中猶年々草花を種まき日々水をそそぐ事をおこたらざりき。今年草廬そうろを麻布に移すやこの辺の地味花に宜しき事大久保の旧地にまさる事を知る。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)